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<お題10:天下一武道会>






「あ。」


ある晴れた日曜日、デート日和――――――


二人で歩いていた大きい道なりにあるボクシングジムの前で、ビーデルが声を上げた。

ピラ、と風に吹かれそうになっている一枚のポスター。

そこには。

『天下一武道会参加者募集!』

の、文字が。


・・・・むむ。

なんか、なんだか。とてつもなく嫌な予感が、する。

まさか、とは思うけど――――参加したいなんて。


・・言わないだろうなぁ・・・。


そもそも、自分は天下一武道会でのいい思い出はない。これの一つ前に行われた大会で、
魔人ブウとの戦いにもつれ込んだし、その上――――――


・・・・自分の、大切な人を。


その当時は気持ちに気付いていなかったとはいえ、今一番大切な、隣にたつ彼女を酷く重症に
負わせてしまった大会なのだ。


あの時からこっち暫く、大会は行われていなかった。それは、他にいる自分の仲間にとっては
少し残念な事のようだったが、自分にとっては嬉しい事だったのだ。


だって、絶対に。


彼女は――――――


「ねえ!参加しようよ!」


・・・と。言い出すに違いない、と分かっていた、から。


「・・・はぁ・・・。」


思わず大きな溜息が自分の口から飛び出した。

それを聞いて、ビーデルがむっとした顔で自分を睨む。


「なによ、その溜息!嫌なの!?」


大きな瞳に大きな声。キラキラとしたその瞳は、もう自分の中で参加することを決定付けているようだ。


・・・全く、この人は。


「ビーデルさん、まさか忘れたんですか?」


呆れ混じりにそう言うと、一瞬ビーデルはたじろいだ、けれど。


「わ、忘れたって何のこと?私は何もして無いわよ。あれは向こうが普通の人じゃなかっただけじゃない。」


素知らぬ振りを決め込もうとしているらしい。


「『普通の人』じゃないのは、前会だけじゃないかもしれないんだよ。もしそうなったら、
どうするつもりなんですか。」


落ち着いて、低い声で。


こう言う風にすると、ビーデルはすぐに旬となるのを何度かの経験で分かっていた。


―――け、ど。


「平気よ!そんなに普通じゃない人がいるわけないわ!それに、もしそうなったとしても・・自分の責任よ。
別に悟飯くんにきてもらおうなんて思ってないから安心して!」


ビーデルは、いつにもまして憎まれ口を弾き返してきた。


・・・僕にきてもらわなくても。


少し、カチンと来る。


そう言ったからと言って、本当に自分が何も心配しないとでも思っているのだろうか。
これは彼女の意地だとわかっている。分かっている、けど――――――


「・・・じゃあ、僕は要らないって事なんですね。」


思った以上に低い声で言ってしまった。


「・・・っ・・」


プイ、と横を向いているビーデルが、ビクン、となる。


「僕は、わざわざあなたが殴られている所なんて見たくない。ましてや天下一武道会なんて、
僕はすぐに助けにいけないんですよ。」

「だ・・だから助けて欲しいなんて」

「ビーデルさん!!」


いつまでも意地を張り続けるビーデルに、少しだけカッとなってしまった。


「・・・っ・・!!」


ビクッ、と震えた、肩。

間髪要れずに再び溜息をつきながら、ビーデルの身体をぐっと自分の方へと引き寄せた。


「・・・やだ!」


小さく嫌がるビーデルを抱きしめれば、自分とは違う柔かさが腕と胸に広がっていく。

女の人なんだ、と。

自分が守るべき人は、こんなに小さいと――――思えば。

少しだけざわついた胸の中が、落ち着いてきた。


「・・・そう言う意味じゃ、なくて。」

「・・・・・。」

「舞台の上では、真剣勝負です。あなたにとっても――――だから。僕が助けようと入ったとしても、
あなたは絶対僕を止めるはずだ・・・・」

「・・・・っ・・」


そう、ビーデルは自分を必ず止めるはずだと、分かっていた。前の時でさえ誰にギブアップを言う事もなく
重傷を負わせられたのだ。そんな、意地っ張りで勝負に真剣なビーデルが、多少怪我を負ったとはいえ
自分を容易く武舞台に入れるはずがない――と。


「・・・・あなたは真っ直ぐな、人だから。」


だから、余計に心配なんです。

無理をしすぎても、誰にも助けを求めないから。


「・・それに。僕、ビーデルさんがまたあんな怪我を負ったら耐えられません。本当に相手を殺してしまうかもしれない。」

「・・・・ごはっ・・」


真剣に、耳元で言った。


これは、本当の気持ちだった。前会でさえギリギリのところで抑えたのだ。

もし、今回同じようなことがあれば――――――


「相手を・・・絶対、許しません。」


またあの時の怒りが湧いてきそうになって、ギュッとビーデルを抱きしめた。


「ごめんなさい・・・私、悟飯くんがそんなに真剣に考えてくれてたなんて――――・・・でも、でもね。」

「でも?」

「私、遊び半分で出たい、って言ってるわけじゃないの。あの時の怖さもよく覚えてる。でも――――
・・それ以上に、悟飯くんと、また、二人で。大会に出たいな、って・・そう思ったの。その、だから・・・
一緒の思い出、作りたかったの。前の時があんなだったから・・」

「・・ビーデルさん。」


・・・ぎゅ、と。心臓をつかまれた思いがした。


確かに、前の時だって。彼女は、純粋に自分と大会に出ることを楽しがっていた。

だから、今回も――――


ふう、と自分の思考に溜息がつく。

これじゃ、心配だなんて言っても、ただのエゴにしかならない。

自分は。

自分は、こんな風に自分を掻き乱すビーデルだからこそ好きになったのに。

・・・いつから。押さえ込もうとしてたのだろう。


「で、でもちょっと軽率だったわね。悟飯くんの気持ちも考えないで・・ごめんなさい。もう、出たいなんて・・・」

「・・待って。」

「・・え?」


ス、と息を吸い込んだ。


「無茶はしない、って僕に誓える?」

「・・・え??」

「何かあったら――――絶対に、僕を呼ぶって。そう、いえますか?」

「ごは・・・・」

「・・出ましょう、一緒に。僕の考えを押し付けようとして、すみませんでした・・」


抱きしめた腕に力をこめて、そう言った。

そうだ、と。

例え彼女が嫌がったとしても、この小さな肩が震えた時助けに行くのは自分の役目なんだから―――
―――その時は。


「・・・嬉しい。ありがとう、悟飯くん・・」

「わっ!な、泣かないでくださいビーデルさん!僕が全部悪いんです!!」

「う、嬉しくて泣いてるのっ・・・止められないわよ・・・!」

「え、ええ・・・!!!」



ざわざわと、だんだん人通りが多くなる、日曜の大通り――――


ようやく自分たちの騒動が収まったと思った、ら。



・・・ポン。

・・・・・・・へ?


「あんまり見せ付けるなよ、悟飯。」

「・・・いっ・・・!!??シャ、シャプナーさん!!!??」


ポン、と肩を叩かれながら、ポスターが貼ってあるボクシングジムに入っていくシャプナーにそう言われて。



・・・・・明日にはもう広まってるなぁ・・・・・・・・・・。



翌日の噂の的だな、と思うと、悟飯はビーデルが『参加する!』と言ったときよりも嫌な汗をかくので、
あった・・・。










――――そして、武道会当日――――







「ごは・・・・じゃなかった!サイヤマーン!こっちこっち!」

「あ、はーい・・・ってもう〜そんな大きな声出さないでくださいって・・・!」


楽しそうにするビーデルを見ながら、少し困った顔の、悟飯が。


でも、傍から見れば――――



「なんだ、悟飯のヤツすっげー楽しそうじゃねえか・・・。」



―――と。どこからみても、楽しそうな二人の姿が、あったのだった。






-fin-



呟き:天下一武道会よりもNo,11の意地の方が良かったかなー。というか、私はシャプナーが
一番いい所をさらったと思ってます。ちなみに一番最後の呟きはクリリンで。