綺麗だね、と。自分が言う分には構わないのに。
綺麗だね、と。人に言われているのは、どうしてこんなに腹が立つのだろうか。 <あなただけが> 春。木々が新緑の季節を迎えて花がついた枝を伸ばすように、 ビーデルさんの髪の長さもあれから伸びて、丸いフォルムになった。 彼女に言わせれば、『ショートボブ』という名称らしい。女性らしい、 綺麗な髪形だ。 「綺麗だね。」 最初髪を整えて学校であった瞬間言った言葉に、彼女は顔を真っ赤にしてありがとう、といった。 鈍い自分でも綺麗だ、と。そう思うのだ。鈍くない他のヤツらはもっとそう思うのだろう。 ・・・ムっ・・ 自分の勝手な想像に、自分で腹が立った。 学校が学校である限り、ここには自分だけが彼女を所有する権利などどこにも無い。だから、彼女が誰にどう言われ様とそれは彼女の自由だ。 それは当然の権利 そう、分かってはいても―――― 誰かに、「綺麗だ」と言われている姿を想像するだけで、目の前でニッコリ笑って自分に話し掛けている彼女を抱きしめて連れ去りたくなるのは。 「心が狭い証拠・・・・」 なんだろうか。 「どうかしたの?」 じっと自分を見詰めているのがおかしいとでも思ったのか、彼女が足をとめて聞いてきた。 「あ」 ええと、と誤魔化そうとすればちゃんと言いなさい、とたしなめられる。なんだか常に、形勢不利だ。 「す、すいません・・・」 謝りながら、考えていた事を少しだけ、話せば。 「バカね。」 言ってしまうと彼女はさっきよりも多く顔を赤らめて、僕の耳元でこう言った。 「悟飯くんだけなんだからね」 そう言われて嬉しいのは――――――自分だけ、と。 「え、本当で・・」 「何度も聞かないで!恥かしいんだから!」 先行くわよ!そう言いながら、はずかし紛れか彼女は先に走り出す。 『自分だけ』 その言葉に胸がいっぱいになった――――春、新緑の頃。 「綺麗だね」 いつまでも僕は、彼女にだけ。そう、言い続ける。 END ![]() <甘い囁きで5題>より、「綺麗だね」。お題いただきました。(kotonoha hihoukan) |
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