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<花占い
「好き、嫌い、好き、嫌い・・・」

プチ、プチ。

「ビーデルさん・・・何やってるんですか?」

休日、昼間。

天気がいいので、とビーデルを誘って悟飯は東の400地区にある野原にやってきていた。

最近、彼女は警察に借り出される事が頓に多くなってきていて、休日までもビーデルは
「仕事だから行くわ」、と学生の身である事を忘れて、自分と会っていることも忘れて、
すっ飛んでいってしまっていたのだ。

別に、それでビーデルさんを嫌いになるわけじゃないけれど。

ただ。

・・寂しい。

と。男だけれど、そう思ってしまったのだ。

逢いたいと願いすぎると、寂しさになるのだと初めて思った。

だから。

「今日は、それ外して来て下さいね」

有無をも言わさぬ声色で、電話越しにそっと告げた。

・・・ちょっと卑怯だったかな・・・

少し、反省する。

・・でも、ビーデルさんも疲れていたし。

それらしい理由を見つけて、少し強気にもなる。

そうして連れ立った、野原には、花が咲き乱れていて。

「綺麗・・・・・・・・!!」

疲れた顔をしていたビーデルの顔が、パッと明るくなったのを見て、悟飯は自分の行動が
正しかったんだ、と安心感を覚えていた。

そうして暫くも経たないうちに、ビーデルが座り込んでなにやら始めていた。

「好き、嫌い・・・」

どうやら、何かをブツブツ言いながら花びらを一枚ずつ取っていっているらしい。

「・・ビーデルさん、何してるんですか・・・?」

冒頭の言葉が出たのは、この時なのだった。


「これ?花占いよ。」

言いながらビーデルが自分の方へと顔を上げる。

・・・花占い?

不思議そうにそう言うと、知らないよね、とクスッと笑って簡単な説明をくれた。

「片思いの女の子がね、好きな相手が自分をどう思ってるか、花びらで占う遊びなの。
一番最後に『好き』がきたら、相手も自分を好き。『嫌い』がきたら、残念だけど相手は
自分を好きじゃないの。そう言う遊び。」

「へえ〜・・そう言う遊びなんですか。でも、それってどちらを先に言ったかで最後の言葉って必然的に決まるんじゃないんですか?」

「うん、そうなんだけど・・やっぱり、それでもどっか真剣になっちゃうのよね。だから、『好き』になるまで皆、やり続けちゃうのよ」

私も昔よくやったわ。

最後に付け加えられた言葉に、少しだけカチン、と来た。

・・・・て、ことは。僕以外にも好きなヤツがいたって事ですよね。

当然と言えば当然だと、思う。自分がビーデルに会うまでに色んな闘いや経験をしたのと
同様に、ビーデルの方にだって同様の経験があるのだろう。そこには、自分が経験してない『好き』の相手を最初に向けた相手もいたというだけだ。

・・・そう言うだけだと、いうのに。

懐かしそうにそして少し嬉しそうに語るビーデルに、腹が立つ。その懐かしさを向けられた
相手にも。

・・・・・子供っぽいと、自分でも思う。

でも、でも。やっぱり嫌なものは嫌なのだ。今は、この瞬間もこの先もずっと、
自分だけのビーデルでいて欲しい。

「昔も今もハラハラしながら・・・っひゃぁ!」

むっとした心が抑え切れなくて、後ろを向いたビーデルの体をギュッと抱きしめた。

「ん、ちょっと悟飯く・・・ひゃ!」

子供のように、首筋に顔を埋めて呟いた。

「・・あなたの事を独り占めしたい・・」

ビクッとビーデルの体が震えたのが、抱きしめた背中越しに伝わってくる。

「・・し・・してるじゃないっ・・・」

ドキドキと彼女の胸の鼓動が動きを早めて、震える言葉に愛しさが募る。

「・・・まだしてないですよ。」

「な、なんでよ・・・してるわよっ・・」

恥かしいから離して、というようにバタバタするビーデルの腕を押さえ込みながら。

「・・昔の。昔の、好きな奴の事を思い出すうちはまだ、してないです。」

そう言って、跡が残るほど首筋に口付けをした。

「・・・んっ・・・んん・・もう!やきもちやき・・・」

「・・すいません。」

「バカ、謝らないでよ・・・う、嬉しいのよっ!」

・・・うわ。

照れ隠しに大きな声でそう言って、プイ、と横を向いたビーデルの素振りが、可愛すぎて。

「・・・僕よりも前に好きな奴いたんですか?」

少し、苛めてみたくなった。

「・・え?え・・・言わないとダメ?」

か弱い声に、NOとは言わない。

「ダメ。」

「・・・・・・っ・・い、いや。言わないわ。」

ぐ、と自分の即答に言葉を詰まらせながらも意地を貼る彼女。
自分の方が形勢は不利と分かってても、最後の望みにかけるその姿がたまらなくて。

「・・・じゃ、言わせるまでですね。」

「えっ・・あ、ごはっ・・・・ぅ・・ぁ!!」

ずるい手を使い、追い詰めていく。


逢いたくて

寂しくて

結果

独占、したくて。


「ん・・・んん・・・っぁぁっ・・」


夏の花咲く野原の中。


「・・あいたかった・・・・」


甘い言葉が空気に溶ける。


「わ・・・私もっ・・・」



二人の逢瀬は、始まった、ばかり・・・・。








(オワリ)