<悪趣味。>![]() |
「それじゃあ、おやすみ。」 「あ、おやすみ・・・」 窓辺から悟飯が夜空に飛び立っていくと、ビーデルはその方向を見上げて溜息をつく。 「・・・はぁ・・」 付き合い始めてから、悟飯は少しでも時間のある時には自分の部屋へ来てくれて、 短くでも話をしてくれるようになった。 最初の頃は、凄くすごく嬉しくて。 ただ、不意に会いに来てくれる、それだけで心が弾んでいた。 でも。 いつ頃からだったろう。 それだけじゃ、物足りないと感じるようになったのは。 「・・もう。」 自分の部屋に来ると、悟飯は何もしてくれない。外であってる時は、際限ないほど 触ってくるのに。 もちろん、自分だって見境がなくなる行為を望んでいる訳じゃなくて――― ・・ただ。 ただ、ギュッと。抱きしめて、悟飯の温もりを感じたいだけなのに。 「・・・手も触ってくれないんだもん・・」 パパもブウもいるからかな。 そんなふうにも思ったりもした。 ・・でも、手くらい握ってくれても良いじゃない? ふ、と夜中に起きたとき、その力強さを思い出して繋がっていたい。 好きでたまらない、と。切なくて愛しくてどうしようもない感情に包まれて眠りにつきたい。 いつでも、悟飯を隣に感じていたいから―― 「・・・抱きしめて欲しいのに・・。」 ポツンと、呟いた。 それは、完璧ひとり言のはずで。 相槌なんて、打つ必要なんか―――――― 「・・言ってくれなきゃ分からないですよ。」 「・・そうよね・・・」 ・・ん?あれ、わたし誰に。 トンっと窓辺によっかかっている、その後ろから更に、声が。 「・・そんな風に、思ってたんですか?」 「・・・・っっ!!」 ドキン! ドキ、ドキ・・・! まさか、そんな。 戻ってくるなんて、今迄一度もなかったから――――――・・・! 「・・入りますよ。」 「あ。」 トっ、と自分の上を通り越して、そのまま部屋へと入り込まれる。 「ご、ごは・・・・」 突然の再来訪に・・というよりも。自分の心の底を、聞かれてしまって。 「あ・・・・」 声が、震える。 「・・・どうかした?」 「・・・・っ・・!」 ぷに、と悟飯の指先が自分の頬を触ると、カァーっと一気に熱くなる。 聞いてたから分かってる、はずなのに。 ・・悟飯くんは、時々、ときどき、意地悪だ・・。 「・・・意地悪。」 睨みつける自分をものともせずに、悟飯はクスッと小さく笑う。 ・・・カァ・・・!!! や、やだもう・・! 「・・・ビーデルさん。ちゃんと、言ってください・・」 「・・っふ・・」 ツツ、と頬にかかる指先が、唇へと移動する。 悟飯の親指が、何度か口唇をなぞれ、ば。 「・・だ、抱きしめて欲しいの・・」 真っ赤になって震える唇から、言葉が滑り落ちた。 グイ! 「あ・・・!」 途端、悟飯の方へと腕を引っ張られて、ぎゅうっと苦しいくらいに抱きしめられる。 「ずっと言ってくれるの待ってたんですよ・・」 「・・・え!そ・・・!」 ぎゅ、ぎゅ、と抱きしめられて、その後の言葉は言えなかったけど。 「ん・・・」 その厚い胸に顔を埋められそっと耳元で囁かれた言葉に。 「・・いつも、出てった後もう一度戻ってきてたのに、気付いてませんでした?」 「・・・!!!!!」 言いたい言葉も、驚きに飲み込まれて忘れてしまった。 「・・・悪趣味。」 「なんとでも。」 目が合えば、互いにふ、と微笑み合う。 愛しくて切なくて、泣きそうになるほどたまらない夜が―――― ようやく、今日から。 「・・・キスも、して?」 「・・・もちろん。」 始まるのだった。 -fin- |