[ ロマンスの卵 ] |
「えー、ですから!!!!!!!!」 シンと静まり返る職員室に、響き渡る――教頭・猿渡の声。 や、やべぇ・・・・・・・・・・ 他の先生方が立ち並ぶその下を、久美子は教頭の目を盗んで 藤山達の方へ進んでいた。 いわゆる、いつも通りの――朝の会議の遅刻。 な・・・・・何を話していたんだろう・・・・・・ 暑さと遅刻した自分の状況のせいで、背中に汗が一筋つたる。 「いいですか、これから夏なんですから!!!!今のままでいては困るんですよ!いいですね! 川嶋先生!藤山先生!!!!」 キっ! 教頭の睨みに二人はキュっと肩を縮こませる。 「いいですかって・・ねぇ?」 「ねぇ?私たち、別にそんなつもりはないやんなぁ・・」 そんな2人の顔を見上げながら―――久美子は教頭が後ろを向いた隙に 静かに2人の間に立ち上がった。 「わ、山口先生・・・・!」 「あんたまた遅刻〜?」 シー!っと指を口にあてながら、久美子はコソッと今話しに上った問題定義を教えてもらう。 「もー・・今、教頭が言っていたのはぁ・・・・・・・」 ごにょごにょ・・。。 ・・・・・・・・・・・・・・・・え? 「ええええええええええええ!!!???教師と生徒がそれ以上の関係ってそんな、そんな・・・・・・・あ。」 藤山に教えてもらった問題定義を耳打ちされるや否や、久美子は驚きを声に出してしまった。 瞬間。 「山口先生!!!!!!!!!!!!」 「あ、はいっ!!!」 クルリと教頭が素早く振り向き、眼鏡の奥から久美子を睨む。 うわっ・・・やべっ! 「いいですか、今のお話を最初から聞いていたと思いますがまた一から言うとですねえ、 夏と言うものは非常に生徒たちにとって甘い誘惑が多い時期です!ここまではOKですね!?」 「は、はい!」 猿渡のいやみがチクリチクリと久美子に突き刺さる。 くそぅ・・・・・・。 「すなわちそれはこの学校の生徒でも言えることでありまして、昨年まではこんな心配もなかったんですが、今年からはあなたと!」 ビシっ!! ・・・・・・・・・う。ゆ、指差すなよ・・・・。 「そして藤山先生と!!!まぁ山口先生はアレとしてもいわゆる若い女性の先生方が入った事により余計な心配が増えたと言う事なんですよ!!!! つまり!生徒と教師の夏のラブロマンス!これはヒッジョーに困るものであります!私たちは人である前に教職者という立場!これを、お忘れなく・・・いいですね!」 「ア、アレ!!??」 「以上!各自気をつけてください!!!ではもう皆さん授業に行った行った!!はいはいはいはい!」 「え、え、ちょっと待ってくださ・・・・!!」 何か今、自分にとって腑に落ちない事を思いっきりいわれたような―――― そう思い、反論を口にしようとするも、既に終了した猿渡節に今更打つ手立てなどありもなく。 「ほら、先生・・・・行くで。」 「イコイコ。」 グイッと両方の腕を掴まれて、久美子は渋々と廊下に出るしかなかったのであった・・・・。 ――― 一方、そのころ教室では。 「おいおい、今日の猿渡の注意、すげえよ!!!!!!!!!」 「なになになに!!!!」 「早く教えろよ―――――!!!!!!!!!!!!!」 ワイワイと誰かの速報でクラス中が盛り上がる。 「うぉ!!!!!!マ、マジ!?」 「静香ちゃんか〜〜〜〜〜〜vvvvv いいよなぁ、ロマンスしてぇよなー!」 「なぁ、なぁ!!!!!してえよなぁ・・・教師と、生徒のラブロマンス・・・・・禁断の愛!!!」 ほぅ、とクラス中の男子生徒が、藤山と自分とのロマンスを想像する中、ある一人だけは。 「っはぁ・・・・・・・・」 思わず、溜息をついていたのだった。 こいつら、ホントに馬鹿・・・・・・・・。 コツン、と慎は後ろの壁に頭をよっかからせる。 生徒と、教師。 普通なら、ありえないはずのカップリング。 ―――でも。 『ライバルは、4人だ。』 そう宣言した瞬間から、ハッキリと自分の中である想いが形づけられてしまったのだ。 ヤンクミが・・山口久美子が、好きだ――――と。 いつから好きになったのかは分からない。でも、気がつけばいつの間にか自分の中に入り込んできて―― 散々引っ掻き回された挙げ句、心の中に小さな卵を置いていかれていた。 小さな、でもどんなに叩いても壊れそうにない――キラキラと光る卵を。 「なぁなぁ、そう言えばもう一人の女教師は!?」 っ・・・・! ボーっと考えていた思考が、その言葉にハッと浮上する。 「ああ!?もう一人って・・・・・ヤンクミかぁ!?」 「そうそう!アイツも一応女だしよ、どうよどうよ!!!」 誰かの言葉に、皆ざわざわと口々に言い合っている。 「・・・・・・・・なんだ・・」 ――え。 そんなざわついた教室の片隅に、聞こえた一言。 今、何つった・・・・・・・・? 自分の聞き間違いだろうか。 いやまさか。・・・・・でも、まさか。 『ヤンクミが、好きなんだ―――』 そう、言ったのでは。 「おっ・・・おぃ・・・!!」 その声がした方向に体を向けて、言ったのか、言ってないのか慎が問いかけようとした、その時。 ガラっ!!!!!! 大きな音を立てて、扉が―――開く、と。 「ヤ・・・ヤンクミ・・・・・・・・・・」 少し間を空けて、自然と、皆の口から揃って名前がこぼれ落ちた。余りある物凄い形相に、思わず―――ではなく。 「…お前ら、席付け。」 「お、おぅ・・・」 言われて、皆大人しく自分の席に戻る。 言う言葉にも力のない、その余りにもヘコんだ久美子の様子に―――誰も。 『お前、教頭にそういわれたんだってなぁ!』 なんて。 言う事など、出来る筈もなかったのであった・・・・・・。 そして、HRと数学の授業が本日だけは厳かに始まると―――もう。 ・・・・・・くそっ・・・・・・!! さっきの、あの声。久美子を好きだといった、あの人物。 それはもう、分からなくなってしまって、いた。 ** 「ちっきしょぉ〜〜・・・・・・・・・」 そんなこんなで本日の授業も終り、久美子は大江戸一家とでかでかと掲げられた自分の家へと帰り、 部屋のベッドになだれ込んだ。 「教頭め・・・・ぜってぇ許さねぇ・・・・・」 ――まだ、朝の出来事を引きずっているらしく、今日は授業をするにも身が入らなかった。 別に、大して引きずる事でもないのに。 軽く、受け流せる事のはずなのに。 なんで。なんで、自分はこんなにイライラするのか。 これが、「教師と教師」と言われたのだったら、きっとここまでイラつく事もなかったのかもしれない。 これが、自分と―――「篠原」。そう、言われたのだとしても、もしかしたら・・・ イラつくことはないのかもしれない。彼は、届きそうで届かない人なのだから。 でも。 「教師と生徒」 そう、言われただけで。胸が、一瞬だけ締め付けられたような気がした。 「生徒・・・・・か。いや、あたしは別に生徒がそういう意味で好きだとかそんな事を思ってるわけじゃ・・!! だってほら、クマはもう手のかかる可愛い息子みたいなもんだろ、野田だってあのやんちゃ坊主にはあたしが一喝してやら無いといけないし、内山だってまだまだ放って置けるわけねぇし、それに・・・・・・・そ、それに・・・・・・・・」 沢田慎は。 「や、何もねえよ!沢田もあたしの可愛いおと、おと・・・・・」 ズキ、ズキ。 『可愛い、弟』。 そう、言おうとするたびに、胸が。大して詰ってもいそうもない、胸が―――かすかな痛みを上げる。 「ええい!何あたしは迷ってんだよ!気のせいだ、こんな痛み!言っちまえば無くなるに決まってる!」 グ、とおなかに力を入れて、久美子は一気に言葉に出そうと――息を吸って、言葉に出そうとした。 「沢田は、あたしの可愛いおとう―――・・!!」 が。 「お嬢―――!!!!!!!!!飯ですぜ!!!!!!!!!!!」 ガクゥっ!!!!!!!! 「テ、テツ・・・・・・・・!」 自分の声よりもはるかにドスのきいた声が、そこへ被さって。 「早く降りて来て下さいやし!!!」 「わ、分かった―――。」 結局、言える事の無いまま久美子は下へと降りていく羽目になった。 でも。 ご飯を食べている間でも、テツやミノルやおじいちゃんと話している間でも。 『沢田慎は・・・・・・・・・・・・』 久美子の胸から、この思いが消える事はなく――むしろ。ドンドンと強くなって。 「あ・・・・あたし一体どうしたんだよ・・・・・・・?!」 あの、教頭の一言で、確実に久美子の胸の中にも―――小さくキラリと光る卵が、心のど真ん中に、 投じられていたのであった。 ――そして、また、次の朝がきた。 ** 「慎、おっはー!」 「おぱよー!!!!」 いつもの道に、いつもの仲間達。 いつもだったら、少しは笑顔を見せて朝の挨拶を自分もするはずなのだが。 今日は。 「・・・・はよ。」 ――そんな気分に、なれなかった。というか、正しくは、昨日の帰りからもう既にその状態で。 ・・っきしょ・・・眠れなかった・・・・・・ 気になって、気になって気になって。誰が久美子を好きといったのか。 もしかしたら、横からそいつに掻っ攫われるんじゃないのか。 そんな事をベッドの中で考えていたら――いつの間にか、朝の光が部屋に差し込んでいた。 「・・・・っあー・・・・・たまんねぇ・・・・」 ボソリと、呟く。 それは、小さな小さな独り言のつもりで言ったはずだった・・のだが。 「おおっ!?とうとうですか!!!!!」 その呟きをきいていた、野田がすかさず応答を返してきた。 「・・・・・・・・・・・は?」 ・・・何言ってんだこいつ。 「おい、野・・・・・・・あ!?」 ぐ、と野田の肩を掴もうとすると――逆に。自分の両腕を抱えられて。 「いやー、慎ちゃんにもとうとう春の予感!ってヤツですか!?」 「そーだよ、そーだよなぁ!花の男子高校生がいつまでも腐ってられないよな!てことでぇ・・・ たまってる慎ちゃん中心で一発合コンでも開きますか!!!」 お、お、おい・・・・・!!! なんだか自分の意思など無視して、あれよあれよと言う間に話が決まっていってしまっている。 「じゃぁ、いっちょ軽くナンパ師南に約束取り付けてもらうか!!!」 「そうしようぜー!」 やべえ!!!!!こいつらの暴走止めねえと!!巻き込まれる! 「おい、お前・・・・・」 ――等、止めろ!と言おうとした時、ドシッと背中に何かが当たった。 ・・・あ。 そして、当たった場所には微かだけど―――柔かい感触。左右を見ると、クマでも、 内山でもない・・・・女の、手。 ・・・・・・・・・げっ・・・!! 「お、は、よ〜〜〜vv」 後ろから聞こえたその声は、紛れもなく久美子の声で。いつもなら胸の高鳴りを、 どうポーカーフェイスで隠すか必死になるのに。 今日は。 ・・・・・・・やべぇっ・・・・い、い、今の話・・・・・・!! 仲間たちが大声で話していた――合コン話。もしか、聞かれてやしないだろうか。と、 それを考えるのに必死になっていた・・・が。そんな、慎の考えも空しく。 「ふーん、お前ら、合コンするんだ?」 ・・・・・!!! サッと、青みが帯びたような顔色になった慎とは逆に、心なしかむっとした久美子の声が、 そう告げたのであった。 「沢田を中心に、か。お前、案外モテそうなのに彼女いねぇのか?」 ははは、と笑いながら久美子が慎の髪をかき回す。いつも以上に、強い力で。 「いってぇ!てめ、ヤンク・・・・・・!」 慎は文句を言いながら顔を久美子の方へ向けようとした――が。 パっ。 ・・・・・・・え? 顔を、背けられる。いつも見える、真っ直ぐな瞳も――あさっての方向を向いている。 「ヤンクミ・・・?」 どうかしたのか・・・?? そう思って、久美子の名前を呼んだはずなのに。 「あ、やべ!アタシまた遅刻だよ!じゃあな、程ほどにしておけよ!あ、授業はちゃんと出ろよ!」 そう言って、自分の声など聞こえなかったように、久美子はダダダッと走り出す。 「おい、ちょっ・・・!!」 「おー!ヤンクミ、走れ走れ―――!!!!!」 「あははははは!頑張れよー!」 久美子を止めようとした声も、仲間の声によってかき消されてしまう。 「・・・・・んだよ、あいつ・・・・!」 なんで、あんな態度取られないといけないんだよ・・・・!?別に俺何もしてねえし・・ただ、 今の話を聞いて――――・・・・・あ?聞いて・・・・・・・・? 「しーんっ!で、どうするどうする???」 「やっぱ、桃女のカワイコちゃんたちがいいよなぁ、なぁ、慎?」 ワイワイと再び仲間たちが合コンの話をする。・・が。慎の頭の中はそれどころではなかった。 なぜなら。頭には、ある、可能性が。 ・・・・・は、はは・・まさか?もしかして・・・そんな事・・・・でも、もしかして。まさか。これって・・・・・・・・・・ 「・・・・妬きもち?」 ポッと口から言葉と笑みがこぼれ出す。 アイツから、好きだ何ていわれたことはないし、そんな態度になっているのも今まで感じた事はない。 でも、今のは、確かに。ムッとなって、シカトして、逃げ出して――・・・ 「お〜い、しーん・・・・」 「戻ってこーい・・・・・」 パタパタと目の前に仲間の手が振り続けられる。 「あ、わり。平気、平気・・・・・・」 ハッと意識を元に戻して、慎は久美子の行った道を、ずっとその先まで見つめると―― パリ、っと。心の卵に、ヒビが入り。 「・・やべ・・嬉しすぎ・・・」 昨日からの気分とは一転して、こうなったこの状況にニヤつく口元をさり気なく隠しながら、 学校へと向かったのであった。 *** ガラ!!!!!!!!!! 「はぁ、はぁ・・・・・・・っ!!」 ドタン!と、久美子は自分の机に息も荒げて突っ伏した。 なんでなんでなんでなんでなんで!!!!!!なんで、逃げてきてんだアタシ!!!!!!!! 『合コン』 い、いいじゃねえか!!! あいつらはアタシの教え子で、可愛い生徒で、別に、どいつがどんな彼女を つくろうが、さ、沢田が彼女をつくろうが――!! 「ぅっ・・・・・!」 ズキズキズキ!!!! 胸に、痛みが走る。胃の奥から、キュゥっとしたモノが体に流れ出る。 苦しっ・・・・・・・・・・!なんで、こんな―――・・ 「・・・・・・山口先生?どしたん?」 ――と。突っ伏していた体に、ポン、と川嶋の手の平が背中に当てられた。 「あ・・・・・・・・」 その感触に、久美子は突っ伏した体を少し上げて川嶋の方へ向く。 「山グ・・・・って!あんた、どうしたん!?泣い・・・っ・とと・・・!!」 ぐ、っと言いかけた言葉を川嶋は飲み込んで、パッと自分を周りから隠すように傍立つ。 ・・・泣いて? 川嶋の言葉に、ギュ、と手の甲で頬を拭うと――ひやりとした感触。 あ・・・・・あたし?なんで、涙なんて――― 「あ、あの、これは・・・・・・・っ」 「ああ!黙り!喋ったら回りにバレてしまうやん・・・とにかく。あんた、1時間目は保健室に来ぃ。 いいね?そんな状態で授業に出れるわけないわ・・・」 慌てた声で川嶋はそう言うと、自分の持っていたタオルを久美子の頭からパサリとかけて、 教頭へ何かを言いに行ってくれたようだった。 授業・・・・・・そうだ、授業あるんだ・・・・・・。 力ない手で、ペラ、と手帳を捲り、今日の予定を確認する。 『1時間目、3−D』 1時間目は、自分のクラス。いつもなら、どうってことは無い、一番リラックスして授業をできるクラス。 でも、今日は。 ズキ、ズキ・・・・ とてもじゃないけど、まともに出来そうにない。行ったら絶対に、目が。目が、あってしまうに違いない。 いつだって、そうで。いつも、気付けば沢田が自分を見ている時があって。 「・・・・・っ!!」 再び、胸がギシっときしむ。 ・・・・・なんでぇっ? 「山口先生、先生・・・・・今日の授業、私が代わりますから、大丈夫ですよ!」 ポソ、と耳元に声がかかる。きっと、自分の状態を回りに余り知らせないためだろう。 「藤山先生、よろしく頼むわ・・・じゃ、山口先生、いこか?あんた、顔色も悪いで・・・・・?」 そっと、背中に腕が回される。 「あ、はい・・・・・すみません・・」 川嶋の優しさに、久美子は止まりかけた涙が再び出そうになったが――グッとこらえて、 職員室を後にしたのであった。 そして、後ろからは。 「「「「おっーーー!しーずかちゃーん!!!!」」」」」 騒ぎ立てる、自分のクラスの声が、聞こえてきていた。 *** 「・・・・・・・・・・・・え!?」 ・・・・・・・今何て言ったんだ!? 聞いた瞬間、ゾクっと、慎の背中に汗がつたった。 「なに、藤山センセー!ヤンクミ、どうしたんだよ!?」 他の席からも、信じられないといった風に言葉が飛び出す。 「えっと、だからさっきも言った様に!山口先生はちょっと具合が悪いので、保健室で休んでいます。 だから、今の時間は私が代わりに来ているんです!さ、授業始めるわよ!」 具合・・・・?だって、アイツ今朝・・・・・・・・・!!あの後、何かがあったんだろうか。 授業を休むくらい―――・・・・・・っ 「・・・で、えーと。山口先生の指示通り、小テストを始めまーす。」 藤山静香の高い声が、教室に響き渡り、他のクラスメイト達は「はーい」と馬鹿のように 気の抜けた声を出してテスト用紙を後ろに配る。 アイツだったら、ここで怒鳴ってる。 アイツだったら、自分でドジを踏む。 アイツだったら――――― いても立っても、いられない。他の奴らのように、藤山静香に代わったから嬉しい、 なんてことは微塵にも思えない。 自分が、望んでいるのは。 ガタ!!!!!!!!! 「さ、沢田君っ!?なにしてるの!?」 「「「「慎!!!!??」」」 大きな音を立てて椅子から立ち上がると、藤山とクラスメイトから驚きの声が放たれる。 「・・・・俺、具合悪いンで保健室に行ってきます。」 ボソリとそう呟いて、扉の方へ強引に歩き出した。 ・・・・・ミエミエだったかな・・・・・。 チラッとそうも思いもしたが、クラスを出る時に、悔しそうな顔をしたクラスメイトの姿が目に入る。 ・・・・あいつか。 「悪いけど、誰にもわたさねぇし・・・・・」 牽制のように呟いて、相手だけにわからせるように目だけで小さく睨みを入れて。 バン!!!!!!!!!!!! 慎は、大きく音を立てて扉を閉めた。そして。 「ヤンクミっ・・・・・・・!!!!!!」 保健室へと、駆け出して、いた。 ** 「・・・・・あんた、そこまで思って何も気付かんの??」 保健室へ行き、自分の胸の内を――沢田の名前は出さずに――川嶋に告げると、 そう返事が返って来た。 「・・・・・・・え・・・・・・?」 何も・・・・・・って? 「胸が痛くて、涙まで出て・・・それでも気付かなかったなんて・・・あんた・・今までした事なかったんやなぁ・・」 ほぅ、と小さく溜息をつかれる。 え・・・・・え・・・・な、何を?? 「川嶋先せ・・・・・・・」 「それな・・・誰が見ても恋やで。あんた、よっぽどその相手のことが好きなんやな。」 す・・・好きって・・・・・・・!好きって、そんなアタシは・・・・・!!!! 「や、ちちち違いますよ!だって、相手は!!!!相手は生・・・・っ」 「ふぅん?生徒なん?やるなぁ、山口センセ。じゃ、今聞こえている足音の相手がソレなんかなぁ・・・・」 ・・・・・・・・・え? 「ほら、あとちょっとで扉開けるでぇ?」 「・・・・えっ?」 川嶋に言われて、耳を済ませ――なくても聞こえてくる、タタタッと走ってくる一つの足音。 もし。もしか。もしかして・・・・・・・・・・・・・ ガラ!!!!!!!!!!! 「・・・・・・ビンゴ☆」 「ヤンクミ!!!!!」 その、扉を開けた人物は。 「・・・・・・沢田・・・・・・」 ―――沢田 慎、だった。 *** ガラ!!!!!!!!!!!!!! 勢いよく、扉を開ける。 「ヤンクミ!!!!!!!!」 ここが、学校の中だとか、保健室には川嶋もいるとか、そんな事はもう関係なくて。 とにかく、今アイツが――山口久美子の様子がどうなのか、早く知りたかったから。 「沢田・・・・・・・・」 自分の方を向いて驚いている、久美子の顔。幸い、体に傷はなさそうのでホッとした。――が。 その瞳には、涙が。 「・・・・っおま、何泣いてっ・・・・・・!」 ダダッと近寄ると、傍にいた保健医の川嶋に、ス、と制される。 「沢田ぁ。あんた、もーちょっと静かにしぃや?山口先生は具合が悪くてここにいるんやで??」 ぐっ・・・・! そんな事、分かってる。言われなくても―――・・・・・っ! 「んな事っ・・・・・・!!!!」 「わかってるんやったら、ちょっと落ち着きなさい!山口先生の具合悪いのはな、ココ、なんやから。」 トントン。 そう言って、川嶋が自分の指である場所を指し示した。 胸・・・・?て、ことは・・・・ことは・・・っ 「・・・あんたが原因なん?ま、どちらにしろ――あたしはちょっと席外すからゆっくり話しぃや。 じゃ、山口先生、後でな?」 「え?あ・・・川嶋先生ちょっと待っ・・・・!」 バタン!!!!! 久美子が言い終わる間もなく―――川嶋はスタスタと出て行ってしまい、保健室の中には。 「う・・・・・」 小さくうめく久美子と、自分。・・・・二人っきりに、なった。 * 「あ、さ、沢田・・・・お、お前じ、じゅぎょ・・・授業は・・」 少し時間をおいて、久美子が話し出す。 その、しどろもどろに話そうとする久美子の声。慎は、その方向に顔を向けると―― パっ! 「・・・・・・・・・。」 また、顔を背けられた。 ・・ちきしょ・・・・ 「・・やんくみ。」 悔しくて、名前を呼ぶ。どうしても、振り向かせたい。顔も、心も――。 「・・・・・な、なんだ?」 まだ、顔はそむけたまま。 「・・・・・・・やんくみ。」 「だ、だ、だからなんだ!?」 名前を呼ぶごとに、真っ赤になっていく耳が見える。そんな様子は、とてもじゃないけど 年上になんて見えなくて。 ・・・・・・・可愛い。 なんて。そう思ってしまう。 だから。意地悪、を、しようと思った。あまりにも、可愛くて。 「・・・・おい。何でこっち見ねぇんだよ?」 ピタ、っと久美子の手に手を触れてみる。 「っ!!!!!!!」 ・・・ハハっ・・・おもしれぇ・・ 「ベ、別に何でもねぇよ!!!!!!それよりおまっ、手、手・・・!!!!」 「手?何?」 久美子の問いかけに、慎はすっとぼける。 「・・・・・っ!」 ぐぐ、っと久美子の喉が詰るのが分かる。後、もう一歩。 「やんくみ。やんくみやんくみやんくみ。」 「っ!だから、なっ・・・・・・・・・・!!」 「久美子。」 「!!!!!!!!!!!!!!!!」 奥の、手。 瞬間、久美子の顔が―――驚きと共に、自分の方を向く。 「さわっ・・・・・・・」 「―――好きだ。」 ――――もう、我慢はできない・・・・・いや。我慢、しない。今、言わなければ、きっと自分が不安で死んでしまいそうになるから。 「沢田っ・・」 「好きだ。俺―――やんくみが・・・久美子が、好きだ。」 スッと、慎はそのまま久美子に近付く。 そして。 「誰にも、取られたくない―――――」 「っ・・・・!!!」 そのまま、久美子の体を、抱きしめた。 ・・・・・やわらけぇ・・。 ** 「好きだ」 ・・・・・・・・・・・・・・・え??? 「久美子が、好きだ。」 ・・・・・え、え、え????? 「誰にも取られたくない・・」 ギュ。 自分の体に、人のぬくもりが・・・・・抱きしめられた。 沢田が・・・・・・・・私を・・・・・・・!? 余りに急展開で、頭が追いついていかない。 でも、それだったら。今朝の、あの話はなんだったのか―――― 「だ、だってお前・・・・今朝南たちと合コンするって・・・・だから・・だから・・・・・ぃて!」 その言葉に、久美子は更に強く抱きしめられた。 「さわっ・・・・・・!!」 「あれは、あいつらが勝手に言ってただけだよ。お前、本当にバカ・・・・」 はぁっ、と溜息をつかれる。 勝手に・・・?勝手にって・・・・・・そしたら・・・ 「お・・お前、行かないのか?」 「・・・・・・行ってもらいたいのかよ?」 う・・・・・・・・・・・・・!答えに、詰る。そんな事ある分けない。あんな胸の苦しい思いを二度も、したくない。 だけど、このまま「そうだったのか」なんて言うのは・・ちょっと悔しすぎるじゃないか。 「な、な、なんだよ!!!!アタシは、それでだなっ・・・・そ、それで・・・・・!」 「・・・・・・それで?」 面白がるような、慎の声。顔は見えないけど、きっと今ごろあの口元を上げた涼しい笑顔でいるのだろう。 ちきしょー・・・・・・っ・・完全に遊ばれてる・・・・!!! 「だ、だ、だから・・・・その・・・・・・!」 「だから?」 う・・・・・・・・・・く、くそっ・・・・!! 「お、お前!アタシの方が年上なんだぞ!」 「ふーん?」 「アタシは、先生なんだぞ!」 「・・そうだな。」 悔し紛れに言う言葉。でも、ぜんぜん効果は・・・・・ない。 「アタシはっ・・・・・!!」 「・・・少し、黙れよ。」 再度、言おうと口を開きかける――と。急に現れた慎の顔。 「沢・・・・・・・」 整った顔に、見とれていると。 チュ。 「!!!!!!!!!!!!!!!!!」 「・・・・・バーカ。」 唇を、掠め取られた。 「さわ、さわっ沢田!お前、コノヤロ・・・!!!」 「ははっ・・・」 文句を言うその先には、ニコリと嬉しそうに笑う、沢田の顔。 くっそ・・・・・・・・・・・う・・嬉しいじゃねぇか・・・。 23年間で生まれて初めて味わえた幸せな気持ち。 でも、きっとまだまだ先には障害があって。 家の事、年の事、―――それから、目下。 『教師と生徒のラブロマンス禁止条例』 でも、まぁ・・・・なんとかなる・・・・・・・かな? 「なぁ・・・やんくみ。」 「・・・・・・あ?」 呼ばれて、ハタ、と久美子は自分の状況を思い出す。 う・・・・・・・あ。そういえば、アタシまだ沢田の腕の中に―――! 「俺・・・・・・・・・・まだ言ってもらってねぇんだけど。」 「え?」 ?と首を傾げる久美子に、慎はぼそぼそと耳元に囁いた。 『お前、俺の事、好き?』 ボン!!!!! 久美子の顔が、ゆでだこよりも真っ赤に染まる。 「だ、だ、だから・・・・・その・・・・・・・・!!!!!!」 「だから、その??」 ――1時間目授業終了まであと20分ほど。20分後には――― 『・・・・・きだ。』 二人の胸の、卵が割れて。ロマンスが、生まれ出す。 その瞬間は、絶対くるんだから。だから、それまでは。 「えーっと〜・・・・・・・」 「てめ、やんくみ・・・・・早く言えってんだよ!」 それまでは、まだ教師と生徒の関係で、いたって、いいよ、な? 「な、沢田?」 「・・・・よくねえよ!!!!!!」 今後の2人、まだまだ波乱がありそう―――な、予感? (オワリ) |
::アトガキ:: 皆様、コンバンは&コンニチは。アイコです。 初の慎クミ小説!!ぎゃーあー!!! 書いちまいました!とうとう書いちまいました!!! こちら、古咲灰路さんの本へと載せていただける(予定)のSSですー>< 一応、私が書こうと思っている 慎クミSSのベースとなるお話しになってます。これからどうなるのか、とりあえず騒動アリアリでドラマのような SSを書いていきたいな、とか慎クミラブでレッツゴー!とか、色々考えてます。どうぞ、少しの間お付き合い 下さると嬉しいです。それでは、ココまで読んでくださってありがとうございましたv次回は・・・近々。 |