[ 上手な嘘の使い方。]


「ねえ、山口先生?」


「は・・・・はい?」


ごくり、と久美子は息を飲んで返事を返した。


「先生ってさーぁ、あたしとぉ、川嶋先生とぉ、篠原さんとぉ、えーっと・・柏木さん。
このメンバー以外で、合コンとかした事あるのぉー?」


グデ、っとした格好で、久美子の方によっかかりながら聞いてくるのは――同僚の、
藤山静香。


うわぁ・・・・・・出、出来上がってるよ・・・・。


そう、今日は、2人だけの飲み会で。本当は、上記のメンバーも来る予定が、
ことごとく断わられてしまったので、二人だけの本音大会になってしまったのだ。


最初は、特に問題はなかった。聞いたり、聞かれたりしたのは学校でのどうでもいいこと
から、たわいもないことで。


久美子も、笑って返事を返せていたのだけれども、2時間もすると。


「ふ、藤山先生、大丈夫ですか!?」


――と、久美子が言うくらい。藤山が、酔っ払ってしまった。


・・お、おいおいおい・・・・・・・・・。


女の酔っ払いというのはたちが悪い。それが、今時の女性なら―――尚更で。


「付き合ってる人はいるの?」


だの、


「経験はあるの?なさそう〜っ!」


だの。


ことごとく、恋愛方面の質問攻めに、久美子はあっていたのだった。


「ねー!山口先生!聞いてるの!!!!??」


ドン!と、藤山がグラスをテーブルに叩きつける。


あーもー・・・勘弁してくれよ・・・!


「は、はいはい・・・聞いてますよ・・・。ないですよ、他の人たちと合コンはしたこと
ないです・・。」


はぁ、と溜息をついて、久美子は渋々返事を返す。


そう、久美子は高校時代も、大学時代も、『合コン』というものに縁がなくて。
この高校に入ってから、やっとこさ合コンという物を体験したのだ。


そして、『恋愛』も―――白金学園に入ってから・・・・初めて、した。


二人でする恋が始まる前も、始まった後も―――もう、振り回されっぱなしで。
篠原との、大人の恋愛って言うヤツを理想としていた自分には、想像もつかない毎日で。


でも。


「好きだ」


・・と。そう、言ってくれるアイツの顔は、いつもとは比べ物にならないほど真剣で―――


「・・・ふふっ・・」


思い出すと、思わず笑みがこぼれてしまう。


今日だって。2人だけで、飲みにいくとつい、ポロリと口から出てしまうと。


「・・・・9時までには家にもどれよ。」


そう、ムッとした顔で彼は自分に言ってのけた。


「なんで?」


と、もちろん自分は問いただす。でも、そっぽを向いて、「・・・別に」という
アイツ。


その姿が、可愛くて。きっと、本人に言ったら渋い顔をするのだろうけど、こんなに自分は
想われているんだ――と、そう思うと・・・・・嬉しくて。


「わかった、9時までな?」


そう、言ってあげる事しか選択肢はなくなっているのだった。


「・・・9時、か・・・」


笑みを隠せないまま、ポツリと約束の時間が口から出る。


9時なんて、今時の高校生でも遊んで帰るって言ったらもうちょっと遅いだろ・・・。


そう、考えていると、ムクリと起き上がった藤山が、一言、呟いた。


「・・・もう、9時半過ぎてるわよぉ・・・・・・・・」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ・・!!!!??


ぱっと腕時計を見ると、確かに。


チッチッと動く、秒針の下にある針がさす時間は――もうすぐ。


「げっ・・・・!!!!!!じ、10時っ・・・・・!!!!」


――を、指そうとしているではないか。


やややややべぇ!!!!!!!!! そういえば、そういえば・・・!!!


「9時になったら電話しろよ。」


とか・・・・言って・・・言ってなかったか・・?!!??


今までの笑みはどこへやら。久美子の肌に、サッと青みが増していく。


もし、電話を、しなかったら。


「まぁ・・・とりあえず、罰として軽いヤツ一回。30分遅れるごとに、舌入れ一回な。」


ととととととか・・・・・・言っていたような・・・・・・!


やばい。これは確実に、軽い――触れ合うだけのキスと・・・もう、一方も。


「っ・・・・・!!!!!!」


「先生?どうしたのぉー?顔色悪いぞっ!」


ヒョイ、っと藤山が自分を覗き込んでくる。


ななな・・・・・何かいいアイデアないかっ・・・!!免れるような・・・!なんか、なんか・・・!


「あー、私、他の人たちとも、合コンしたいなぁー・・」


「えっ・・・・・・?」


「ゴ、ウ、コ、ン!」


あ!!!!!!!!!!


藤山の言葉に、久美子の頭の中である事が閃いた。


そう・・・そうだ!飲んでいる最中に、誰かに掴まって、それで電話が出来なかったとか
明日言えば・・!


「合コン・・・いいかも!」


ポン!と、手の平を打つと、久美子は安堵の息を深く吐いた。


安心、した。本当に、安心した。いくら、自分が極道の娘でも――惚れた男の言葉は、
怖い。


なんて、心ここに有らずの状態にいたから。


「えー、じゃあ、用意しておきますね!」


何て言う、藤山の言葉は、当然のことながら久美子の耳に入っているはずもないのであっ
た・・・。



―――そして。




「おい、沢田!!」




次の、朝が来た。



**



「・・・・・・・・・・・は?」


なんか今、理由にならない理由を聞いたような。


『他の男と、楽しく飲んでたから電話するの忘れた。』


――と、そう自分には聞こえる。


だから。


「わり・・・もう一回、言ってくんねぇ?」


慎は、もう一度久美子に理由を聞いたのだけれども―――


「えっと・・・だからな・・・・」


何度聞いても、そういう理由にしか聞こえない。


はぁ・・・・・・・・・・・・。


自信過剰、と言う訳ではないけれど。久美子は、他の――しかも、知らない男と
楽しく飲めるほど、愛嬌がありすぎるわけだとは到底思えない。


だから、きっと、今言った事も。電話を忘れてしまっていたことに対しての――


『嘘』


――と。そう、わかっている。


付き合い始めてから、初めてつかれる――嘘。嘘にも色々種類はあるとは思うけど。


これは・・・・つかなくてもいい嘘だよな・・・。


よし。


イジメてやれ、と、久美子の態度に慎はそう小さく思うと。


「なぁ・・・」


おもむろに、行動を開始したのだった。




今いる場所は、数学準備室で。自分が呼び出したから、ここには久美子と自分の
2人だけ。


誰も、邪魔するものは――ない。


「えっ・・」


トン、と久美子の体を壁に押し付ける形を取る。


久美子の小さな驚きの言葉と、髪の毛の、いい匂いがフッと鼻を掠める。


すっぽりとつつまる、久美子の体。目線を下に移すと、白い首筋が見えて――


あ・・・・・・・ちょっとヤベぇかも・・・・


なんて、不埒なことを思ってしまう。きっと、健全という証拠なのだけれど。


イタズラに、ススッと首筋を指先でなぞり上げる。


「わっ・・・!何すんだよ、沢田っ・・!」


「慎、だろ?2人の時は・・。つーか・・お前さ。本当に、他の男と飲んでたんだ?
へぇー・・そりゃ楽しかったろうな・・・」


久美子の髪に顔を埋めるようにして、責めて行く。


「えっ・・・あ・・別に・・・そんな楽しくは・・その・・」


しどろもどろに答える久美子を胸で感じて、思わず笑いが漏れそうになる――が。


ヤベ、ヤベ・・。


グッとそれを飲み込んで、慎は言葉を続けていく。


「電話しろって言ったのになぁ・・」


「あ・・だから・・その・・」


「俺、ずっと待ってたんだけどな・・・・」


「ご!ごめん・・・」


「俺も、いこっかなー・・・・・合コン。」


「!!!!!!!!!!」


その言葉に、久美子がはっとして自分を見るのがわかる。


チラ、っと視線を下に向けると―――不安そうな、久美子の顔。


「え・・・あ・・・・さ・・し、慎っ・・・!」


震える声に、潤む瞳。


あーもー・・・・・その顔は・・反則だろ。・・ったく・・。


「はぁ・・・・」


抱きしめて、全部奪いたい体の望みを溜息に変えて。


「・・・なんてな。」


慎は、イジメ終了の言葉を搾り出したのであった。


こいつには、弱いよな・・・・俺。





*****:



「・・・なんてな。」


!!!!!!!!!!!!!!!!!


その言葉に、久美子の心臓は跳ね上がる。


「なんてな・・・・・なんてなって・・・お、おまっ・・・!!」


「お前が嘘ついたのが悪りぃーんだろ。他の男と飲んでたなんてなぁ?」


してやったり、という顔の慎に、久美子はグ、っと言葉に詰る。


ば・・・・・・・・ばれてるじゃねえかっ・・・!!!!!


「あ〜・・・・・・いや、別にそれはその・・なっ!」


何とか・・何とかごまかさねえと・・・・!! 今の、この状況は・・・!


さっきは動揺して気付かなかったが、後ろには、壁。前には、慎。左も右も、慎の腕で
ふさがれていて。


に・・・・・逃げ場所がねぇよっ・・・!こ、このままいくと・・・!


「あ、ほらなんだ・・・ほら!もう授業が始まっちまうぞ!」


「・・別に。うけなくてもわかるし。」


!!


そうだった・・!こいつ、頭いいんだよな・・・・!く、くそっ・・!!


「あ、ほら!アタシそろそろ職員室に・・・!」


「用事ねえだろ。」


!! よ・・読まれてるし!


「あの、えっと〜・・・あ、そう!藤山先生に呼ばれてっ・・・て、おい!」


「・・・・・・・もう、諦めろ。やっぱ俺我慢できねぇし・・・」


!!!


顔が、近付いてくる。イヤ、正しくは――綺麗な形の、唇が。


10センチ。

あ。


8センチ。

あ。


5センチ。

あ。あ。あ。あ。


「ちょ、ちょっとま・・・・!」


「・・遅せぇ・・」


0センチ―――


「んっ・・・!」


フ、と軽く唇を掠め取られる――と、一回、唇が離れた。


「あ・・・・。」


もしかして、これで終り――――・・・?


安心したような、ガックリしたような。そう、思って唇を緩めて小さく言葉を洩らしたのが
いけなかったのか。


「あ・・っ・・ん!んんっ・・ふ・・!!」


時間差で、もう一度唇をふさがれて。


〜〜〜〜やられたぁっ・・・・!!!!!!!!!


それから数分以上、久美子の唇は、慎の、唇と、舌に。


「っは・・・・・ん・・・・」


占領されてしまったのであった。




**




「・・・・んはっ・・!!!」


「・・はぁ・・」


数分後―――名残惜しそうに、唇を離された。


「な・・・な・・!」


約束よりも、長くて回数も多かった―――!と、抗議の声を
あげたいけれど。


余韻が、まだ大きすぎて、言葉が上手く紡げない。


「ずっ・・ずるいぞ・・・!」


「・・・何が?」


ニコリとしながら、キュ、と再び頬を真の手の平が包み込む。


「だっ・・・・あんな一杯・・・!」


「・・・お前の嘘・・・これで、チャラ。」


チュ。


「!」


もう一度、軽くキスをされて――やっと。


「今日は、これでお終い。」


「・・・・ぅ・・。」


体を、自由に戻された。


「今度・・・・・・嘘ついたら。これ以上のこと、な?」


これ以上。これ・・・以上って・・・・・もしかしなくとも、セ、セ、セっ・・・・・・!


うあああ!!!!!!!


「わ、わかった!金輪際、嘘はつかない!!!!」


ブンブンと頭を振って、約束の言葉を口から出すと、いつもとは逆に。


ポン。


慎に、頭を撫で付けられて。


「上等。」


言葉を、かけられる。


・・・・・・・・・どっちが生徒だか、わかんね―じゃねぇか・・・。


「・・なに怒ってんだよ・・・つーかお前、藤山の所にいくんじゃねぇのか?」


ム、としていると、不意に慎がそう話を切り出した。


藤山先生・・・・・藤・・・・・・・あ!!!!!


そういえば。さっき、話があるって―――・・・・・・・昨日の。昨日の――


『合コン』


についてとか何とか言ってた気が・・・・・・・・・・・・。


グルグルと考えが頭の中を駆け巡っていく。


だから、つい、気持ちが言葉に出てしまって。


「や・・やべぇ・・・本当に用意したのかな・・・・」


「なにが。」


思わず、返事を返してしまって、いた。


「え、だから合コ・・・・・・・・・・・・・!!!!!」


うっかり口を滑らせてしまったことに、ハッとするも―――時、既に遅しで。


「ふーん・・・・・・・・・・いくんだ?」


う・・・やっべぇ・・・・!


きらりと慎の目が光ったのを久美子は見逃しはしなかったが、今自分は籠の中の鳥で。


ガタリと後ろに下がろうとする―――けど。


「逃げんな。」


ガシっと逃げ道を慎の足でふさがれる。


「あ・・その・・・・し・・・慎?」


ヤバイ・・・!!!!!


「とりあえず―――どういう事か、説明、な?」


そう言われて。全てを言った久美子に待ち受けていたものは。


「――嘘はついてねえけど・・つこうとしたから。半分、ベロチュー以上決定。」


慎のニヤりとしたいつもの笑みと。


「・・・・・・・・・・・えっ!?わわわ、ちょっと止め、ストップ――!!!」


ああああたしのバカやろおおおお!!!!!!



その後数十分にわたる、久美子の甘い声だけが、後に残ることになるのであった・・。



教訓。


すでについたものも。


これからつくものも。


どちらにしても。


嘘は上手に、使いましょう。




――その後、久美子が、行ったのか、行かないのかそしてその理由を知っているのは―――。



当人と、その恋人だけの、秘密なのであった・・・。





うわっ・・・またわけのわからないものを書いてしまった・・・。コンバンはこんにちは。書き手アイコです。
名誉挽回に・・・!と書いたこのSSですが、見事撃沈・・・・・・・・・・・・・。 うわぁ・・・スランプでしょうか(泣)
嘘をテーマに、甘く書こうと思ったら中途半端になっちゃいました! し・し・・失敗!うわーん!!!!
しかもちょっとずつ・・Hっぽくなってきてますね。来てますよ。本領発揮って感じですか・・・(汗)
これでも楽しんでいただければ嬉しいです・・・。 では、では、これにて逃亡!!! みてくださってありがとう
ございました!!!!!!!!!

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