[*Honey day*]


「マジかよ・・・・・・・・・・・・」


慎は、心底呆れたような声を出して、はぁー・・っと深くため息をついた。


事の起こりは、2時間前に遡る。




ピンポン・・・・


チャイムを鳴らして、自分の家へやってきたのは―――


「よっ!来たぞ!」


シュタっと片手を上げて、元気よく挨拶をする、山口久美子――自分の、恋人。


「いちいち鳴らすなよ・・」


勝手に入って来いって言ってんのに・・・・・


もう、部屋の鍵も既に渡してある。それなのに、久美子はまだ一度も使ったことがない。


その、理由は、


「だって!人ン家だぞ!勝手に入れるわけないじゃないか!」


と、言う物で。まだ他人扱いされている所がどうにも腹正しいのだけれど―――とりあえずは、
いつも家に来てくれるようになったから、この話題はまた次の機会にするとして。


「上がれよ。」


「はーいっ!」


まったく・・・と言った顔をしながら、慎は久美子を招きいれた。


「・・・・・・・・で?今日はなに、持ってんだ?」


来た時からイヤでも目についた、オレンジ色の袋。


まさか、また・・・食事を作ろうとか思ってんじゃねえだろな・・・。


いや、それはそれでありがたい。ありがたいの、だが――食える物をつくってもらいたい。


そういった思惑を裏に込めつつ、慎はストレートに久美子に聞いてみる、と。


「ああ、これかっ!これはなぁ・・・・じゃーん!!!!!」


「・・・・・・・・は?」


袋から取り出されたものは、ついこの間発売されたばかりの―――超ヒットアニメ映画。


「これ・・・千と千尋じゃん。」


「ピンポーン!ここでみようと思って!お前、どうせ見に行ってないんだろ!あたしもだけどな!だから、一緒に見ようと思って持ってきたんだぞ!別にあたしン家にDVDが無いとかそういう理由ではないからなっ!」


バン!と、一筋の曇りもなく胸をはって言う久美子に、慎はやれやれといった顔つきで、
スッとそのソフトを取り上げる。


「・・千と千尋ねぇ・・・・お前、こんなもんばっかり見てっから今まで男の一人も
出来なかったんじゃねえの?」


まじまじをソフトを見つめ、とりあえず、お約束の毒舌を久美子について。


「・・・・!!な、何言ってんだてめえ!いいんだぞ!宮崎駿の映画はなぁ・・・っむぐ!」


熱く語りそうになる久美子の口を手の平で包んで。


「わかった、わかった・・・ま・・・とりあえず、鑑賞会始めるか。ほら、始まるぞ。」


ムッとした久美子をさり気なく自分の前に座らせる。


「う・・・・・うん・・・・・」


心なしか、恥かしがっている久美子に気付いたものの、それはさり気なく無視して、二人で
DVDを見始めて―――全編が終わると。


「・・・・・・・・かっこいいよなぁ〜・・」


久美子が、冒頭に慎があきれ返ったほどの問題発言をしたのであった。





「ハク・・・・・・カッコいい―・・・!!!!!!」


「・・・・・・・・・・・はぁ!!???」


何言ってんだコイツは・・・・


あまりにも同調できない言葉に、思わず否定の言葉が漏れる。


「お前なぁ、かっこいいって・・・・・バカじゃねえ?」


「んなっ!」


まさか、架空の人物に。架空の男に、自分に対して向けられる言葉をのっとられるとは。


あー・・・・・・・・・・・・気にいらねぇ・・・


「お前な、よく見てたのか!?美少年だぞ、美少年!マンガも現実も美少年はカッコいい
だろうが!」


ムカ・・


「ふーん・・・美少年、ね。」


「見ただろ、あの優しさを!今時のそこら辺の顔だけの男よりもよっぽどいい男だよなぁ〜」


ムカ、ムカ・・


「そこら辺の男で悪かったな・・・」


「ハクが現実にいたらなぁ、あたしもきっと絶対惚れてるなぁ・・・うん、うん。」


こくこくと頷いて、一人で納得する久美子に。


とうとう。堪忍袋の、緒が。


「・・・・・・おい。」


プチ、と。


「えっ・・・・・ひゃあ!」


切れた。


ボスン!と二人の体が床に倒れこむ。いや、引き倒したといった方が正しいのだろう。


「わ、わ!ななな・・・なにすんだよ!」


久美子の慌てた顔。真赤に染まった頬に、光る桃色の唇。


・・・・・・・・っはぁ・・・・・・・・


腕の中に入って、やっと頭の血も下がっていくのがわかる。


俺も我慢が足りねぇよなぁ・・・・・・・・・・


そう思いつつも、アニメとはいえその唇から他の男の名前が出るのは許せない・・許したくない。


だから。


「『ハク』が現実にいたら、本当に惚れンの?」


「えっ・・・・!!!」


突然の質問に、ピクっと久美子の体が動く。


「大体なぁ・・・本当にあんな奴がいたら怖いし・・・。現実を見ろ、現実を。」


「そっ・・・そりゃそうだけど・・・」


ぷぅっと膨らむ久美子の頬。その様子はまるで23歳には程遠い。


「それに―――今時の男で、顔だけじゃない男なら・・・目の前にも、いるだろ。」


「・・・・・・えっ!」


驚いた声に、一瞬、2人がいる空間に静かな間が出来て―――


「えっ・・あっ・・・・・・」


「・・・カッコいいとか・・惚れたとか言うのは・・俺だけに言えばいいんだよ。バーカ。」


チュ。


「ん!」


すかさず、プルっとした桃色の唇を、掠め取る。


「バババ・・・・バカヤロォ・・・!あたしが・・・その・・・・好き・・とか本気で言うのは・・
・・お前だけに決まってんだろ・・」


ごにょごにょと、真赤になって俯きながら言う久美子が、可愛くて。


「お前って、ホントにバカ・・・・」


幸せな笑みとともに、からかう言葉が出てしまう。


「な、何だとぅ!」


「可愛い、って意味に聞こえねぇ?」


「・・・・・・!!!!!」


「・・・・・照れんなよ。」


「・・・・・・っっ!!」




――じゃれあう、休日。


幸せな、一時。。


嫉妬も、全部、愛しさに変えて。




「おい、慎!朝だぞ、朝!!!!!!!!!」



また平日の、朝が、来る。



「あー・・・・」



自分の恋人が、なぜまだ家にいるのかは。



それは・・・また別の機会に・・・・・v



****END...




[アトガキ。またの名を言い訳。]

おおお。珍しく
連続更新で・・・!いらっしゃいませ、皆様。見てくださってどうもありがとうございますv
今回はすらすらと書けたので、なんとか2人のMY設定が出来上がってきたのではないかと。お、遅っ・・;
皆様に楽しんでみてもらえたなら万々歳ですvv
  自分的にはこのお話し好きですv ていうか・・・・・だしちゃった。千と千尋の神隠しをここでv(笑) いまや大分熱が冷めましたが、ここ10ヶ月ほどはまっていた千と千尋。思わず、久美子にも見させました(笑) そしてハクかっこいいと・・言わせてしまったりして・・・・。
これだけで、私満足してます(笑)。
 ではでは、ココまで読んでくださり、ありがとうございましたv できれば
また早くお話しUPしたいですっv

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