[秘・密・の・代・償] |
「な・・なぁ・・慎。」 「・・・・・・・・・・・・あ?」 ぅ・・・・・怒ってる・・よな・・。 はぁ、と久美子は慎に気付かれないように心でため息をつく。 ここ数日、慎の機嫌がすこぶる悪い。 名前を呼んでも、いつもよりも低い声で返事を返し。 学校で顔をあわせても、そ知らぬ顔でシカトするし。 それでも、平日の夜にこの部屋に訪れたのは・・・慎が好きだからで。 他の、誰でも無い、慎が好きだから。 ・・・・・・・そりゃ・・・・あたしが悪かったよ・・・。 慎の機嫌の悪くなった原因は―――自分。 そう、判っている。 原因は―――・・・・・。 「あ、じゃぁ・・・篠原さん、今日は済みませんでした。こんな・・・」 「いえ。山口先生の為なら、例え仕事中でも駆けつけますよ。」 社交辞令。大人の、会話。 本当に、仕事中に駆けつける事などできるはずは無い。 そんなことは、もう社会人になれば誰にだって感じ取れる物で。 大人の会話だからこそ、「嘘ばっかり」とでもいう、笑みがこぼれるのであって。 案の定というか、お約束どおりというか、二人の間にも、そんな大人の雰囲気で 笑みがこぼれ落ちる。 そして――家のそばの通りの前で、そんな会話を終えて。 篠原さんの白い乗用車を見送った後、視線を反対側に移すと。 「・・・・・あれ?」 少し前を、見知っている背中が遠ざかっていくのが見えた。 ・・・・・・・よしっ! 誰よりも知っているその背中。 一目見ただけで、すぐにわかる―――その、愛しい姿。 タタタタっ・・・! なるべく音を立てないで、後ろから驚かしてやれ―――と、そぅっと 近付いて。 「なにしてんだっ?」 パッと、目の前に突然その身を出した――が。 「・・・別に。」 ・・・・・・・あり・・? 意外にも、不機嫌そうな――というよりも、怒っているその顔。 いつもなら、呆れた顔で笑っていてもおかしくないのに。 どうかしたのかと思って、チョチョッと袖を引っ張ってみるも――ナシのつぶてで。 ど、どうしたんだよ・・・・! 慎は、スタスタと久美子を無視して自宅への道を進んでいってしまっている。 ・・・・む・・・・・・。 別に、今この時点で自分は何もしていないのに。 なんで、こんな態度をとられないといけないのか。 「おい・・・・」 「・・あ?」 「なんか、怒ってンのか・・・?」 ドキドキと、鼓動を早くしながら聞いてみる。 が。 「・・・・しらねぇ。」 ・・・・む。 知らない、の一言を慎は告げて、また歩き出していく。 こっちを、見ようともしねぇし・・・。 「なんだって!」 「・・・しらねぇよ。自分の胸に聞け。」 再度聞くと、今度は自分の胸に聞け、の言葉も追加される。 ・・・・・・・・・・・・あたし、何もやってねぇよな・・。 「あたし別に・・・何もしてないぞ。」 ボソッと、小さく呟いたその言葉。 本当に、自分は何か怒られるようなことを――した覚えは無かったから。 でも。 ・・・・ピタ・・。 ・・あれ? 自分のその呟きが聞こえたのか、慎が歩みをピタリと止めた。 「・・お前、本当にわかってねぇの?」 くるっと自分のほうを振り向いて、不機嫌そのものの声と表情で自分に告げる。 「・・・・・・・・え?」 「・・マジかよ・・・・はぁ・・・」 な、な、なにがだよ!!! 「あた・・・・・・・」 「お前、ふざけんな。自分の女が他の男の車から出てきたの見て・・・・むかつかねぇ馬鹿が どこにいンだよ。ちょっと考えろ・・・・・・・」 ・・・・・・えっ・・ 「帰る。」 「あ、慎・・・・・!!!!!」 ―――そういえば、今日篠原さんと会うことを―― 言ってなかった・・・・・・・・・・・。 だって。それには、理由があったから。 だから――・・・・ 「慎!待てよ!慎!!!!」 久美子の呼び声にも振り向かないで、慎は、そのまま、スタスタと 道を歩いていってしまったのだった。 「・・・・・・慎・・。」 ―――そんな事が起きたのが、3日前の、夜。 そして。 今は、慎の部屋の、中。 モゾモゾ。 カタカタ。 シーンとした、張り詰めた空気が部屋の中に充満している。 ・・・・落ち着かない・・・・・。 慎の方は、まるで自分なんていないみたいに。 ・・・・・さっきから本に目を向けたままだし・・・・。 どうすればいいんだろう。 こんな状況、うまれて初めてなったから・・・・どうすればいいのかわからない。 別に、篠原さんとやましい事をしたわけでもないし。 かといって、慎の一言でいっきにそれが後ろめたい事になったのも事実だし。 うぅぅ・・・・。 チラ、ともう一度慎の方を見ると、さっきと変らずの状況で。 ・・・・・・よ、よしっ・・・。 とにかく―――何か言わないと始まらない。 そう思って、初めの一歩を。 慎の部屋に来てから早小一時間して、ようやく、久美子は踏み出したのであった。 「慎・・・あの・・なぁ、ちょっと話し聞いてくれないか・・?」 うぁ・・・っ。 かなり、緊張しているみたいで、声がちょっとだけ上擦る。 と。 その声色に気付いたのか、それとも待っていたのか――慎が。 「・・・・なに。」 ようやく、顔を上げて自分の方を向いてくれた。 でも、まだ、表情は硬いままだけど。 「あ・・・・・・・あのな・・」 ドキドキドキ・・!!!! 鼓動が自然と早くなる。 まるで、まるで・・・・告白でもするみたいに、心臓が、口から飛び出そうなほど。 ええい、収まれ、心臓!! ス、っと息を吸い込んで。 「あのな・・」 久美子は、話を始めたのであった。 「あの、この間の事だけどな。あたしは別に、篠原さんとその・・変な事していたわけじゃなくて、 その・・・・・付き合ってもらってたんだ。あたしの用事に・・・」 「・・・ふーん・・その用事って、なんだよ。」 ・・・・・ドキ!! 用事・・・・・用事の内容も・・・・・い・・言わないと・・・ダメだよなぁ・・ 実は、あの日、篠原に来てもらってまで、付き合ってもらった用事。 それは―― 慎に対しての、贈り物を何か買いたくて。 部屋の鍵にしろ、指輪にしろ、全部、自分は貰ってばっかりで――なにも、自分からは贈っていない・・・と。 つい、この間。 自分の買い物をしていた時に、ハタ、と気付いてしまったのであった。 でも。自分は、女だから。 それに、付き合った人なんてコレまでにいないし。 何を、贈っていいのやら―――・・・・もう、さっぱりで。 だから、カタギで、なおかつ男の知り合いで、しかも色んな店を知っていそうな、男性。 つまり――久美子にとっては、篠原に。同伴を、お願いしたのだ。 それが、この間の夜のことで。 そこを、偶然見られてしまっていただけで――・・・。 でも、これを。 どうやって説明すればいいのだろうか。 ここで、『慎への贈り物』なんていって・・・・迷惑がられたら・・とか。 考えてしまうと―――・・。 「・・・・・おい。」 ・・・はっ!! 「・・・言えねぇのか?やっぱ、お前・・」 「ち、違う!!!別にあたしは!!篠原さんとなにもしてない!!だから、だから・・・・・・その・・・ 贈り物を、一緒に選んでもらってたんだよ!!」 ドキドキドキ・・・・・! 「・・・・・贈り物?」 「・・・・・・・・あぁ。」 「誰へのだよ。」 ・・・・・・・っ!!! ど、ど、どうすればいいんだっ・・・・・・・! 「え、えっと・・・・・」 「・・・・言えねえのか。」 ・・・・はぁ。 慎の、呆れたため息がイヤでも耳に届いてくる。 どうしようっ・・このままだと、慎に・・・誤解されちゃっ・・ 「・・・・・・・もういい。わかった。」 ・・・・・・え・・。 「お前、今日は帰れ。話になんねぇよ・・・・・」 あ、あ、あ・・ 「じゃあな。」 〜〜〜〜〜〜・・・・!!! このまま、言われたとおりに帰ったら。 きっと、もっと。こじれて――― 元に、戻せなくなる、かも。 ・・・・・そんなの・・・いやだっ・・・!! こうなれば、もう取れる行動は一つしかなくて。 でも、でも、それをとったら。 もし、迷惑な顔をされたら――・・・・・ ちょっと・・いや、かなり浮上できねぇかも・・・・。 でも。 行動しないままで、元に戻れなくなるんだったら。 〜〜〜〜〜〜・・・・っ頑張れ、久美子っ・・・! 行動して、後悔した方が――いい! 「慎!!!!」 グ、と握っていた拳に力を入れて。 抱えていたバッグから、綺麗に包装された小さな物を取り出すと。 「コレ!!!!!」 バっ! 慎の、目の前に、それを突き出した。 「・・・・・・・・・は?」 いきなり渡された、分けの判らない小箱。 それに、変な顔をするのは当然で。 ・・・・ふぅっ・・い・・・言うぞ! 「あの、あのな!あたし、お前に、何か贈りたくて・・・それで!篠原さんに、 どこがいいか・・・ついて来てもらってたんだ。お前に贈るのに、お前に言えねえし・・ だから、その・・・・・」 「・・・・・・・・・。」 久美子の言葉が続く中、無言のまま、ガサガサと、包みを開ける音だけがする。 「あの・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・。」 コト・・・ 箱を、開けた音だけがしたけれども。 何の、言葉も返ってこない。 「・・・・・・・・・慎?」 不安な気持ちのまま、チラリと目だけを上目遣いにして慎の姿を見ると――― ・・・・・・・・・!!!! 手に、小箱と中身を持ちながら、固まって、いるままで。 ・・・・・・あ・・・・・。 やっぱり・・・ 迷惑だったのか。 なんか、自分だけ・・・空回りしているみたいで。 は・・・・恥かしい・・・・・・・・・・・。 「あ、あのな!その!!め、迷惑ならいいし!」 苦し紛れに、付け足した最後の言葉。 ジワ・・・・。 あ、やば。 恥かしさと、何も言ってくれない不安と、哀しさが。 直に、目じりに結びついてきてしまう。 ガ、我慢しろ、久美子!!! もう、話をしたい事は話したし。 渡したいものは渡したし。 迷惑、だったかもしれないけれど――・・・・・・・ 数分が、そのままで過ぎる。 居心地の悪い、数分間。 自分にとっては―――何十分にも感じられる。 このまま、今この場にいるのは辛い。辛すぎる。 ・・・・・に・・逃げよう。 そう、思って。 「あ・・・あの。あたし・・・帰るっ・・」 小さく呟いて、立った――・・・その、瞬間。 ・・・・・・・・・・・・あっ・・・?! 手が引っ張られて、目の前が、反転した。 と、思ったら。 「わ!!!!!!!!」 ドサ、と言う音とともに、思いっきり何かが顔にぶつかってきた。 いや、顔といわず――全身に、温かい・・・・・・・ 「え、あ!・・・・し・・・・!!」 「・・・お前、ほんっっっっっ・・・・とーに・・・・バカだな。」 カチン! 今まで何も言わないで。いきなり引っ張って。 ・・・・・出した、言葉がそれか。 「バ、バカとはなんだよ!」 「じゃあ、大バカ。」 「なにっ・・・・・・!!!!」 「バカとしか言いようがねぇだろ。違う男と買いに行くし。」 ・・・・・・・・ぐっ・・・! 「いつまでたっても理由はいわねえし。」 ・・・・そ、それは・・・っ・・ 「挙げ句の果てに・・・・・・・・」 キュ。 いつの間に気付いていたのか――指先で、目じりをキュ、と拭われる。 「・・ん、あ、や、これは・・・・・・・!」 「・・・泣いてンなよ・・バカ。」 ふふ、と困った子供を見るような、いつもの慎の笑う声。 やっと、見れた、その表情。 「・・・・しょーがねぇから・・許してやる。」 グ、と頭を慎の胸に押し付けられて、全身を抱きこまれて。 ほぅ、っと体の力が抜けていく。 久しぶりに感じる、慎の鼓動に、再び。 ジワ・・・・・ あ、やば・・・! 涙腺が、緩んでいく。 「・・・泣くなって。」 「・・・だいでだい。」 「はっ・・・・言えてねぇぞ。」 「・・・うるさっ・・・・ん、ん・・」 顔を上げると、唇が額に、瞼に、濡れた瞳を拭うように―― たくさん降り注いできて。 キスされるたびに、胸の中に安心が満たされていく。 と。ふと、頬に当てられた指に、感じる違和感。 今までは無かった――・・・さっき、自分が上げた物だと、すぐわかる。 「あ・・それ・・・・」 無理やりしているんじゃないか―――・・ なんて、思いを拭いきれなくて、言葉にだすと。 「悪いけど、もう俺のモンだから。いくらお前が言っても・・・返さねぇし。」 にやりと笑いながら、そう宣言される。 慎の左手に光る、自分の愛情の印。 迷惑なんて、思ってない―――・・そう、言われて。 本当の安堵感が体を駆け抜ける。 「・・・もう、返品きかねぇからなっ・・・バカ・・」 「だから、しねぇって。ていうかな・・・・・・これ、お前が選んだんだろ?」 ・・・ん? 「あ、あぁ。店は、篠原さんに連れて行ってもらったんだけどな・・って痛ぇ!なんでデコピンすんだよ!」 「・・・その名前出すな。でもまぁ・・・見せ付けたわけだし、いいか。」 ・・・・・・へ? 「え、何・・・・」 「・・わかんねぇならいい。無意識だから、もっと堪えたか・・・」 ・・・・・・・・なんなんだ? 見上げた瞳に写るのは、満足げに笑っている慎の顔ばかりで。 ・・・むぅ。 「おい、なんだよ!」 「・・・別に。」 「言えって!」 「なんでもねぇよ・・・・ってバカ!止めろ!」 「言わないなら・・・くすぐっても吐かせる!」 「ガキかよ・・・・!」 くす、と笑いながらベッドの上でじゃれあう事がまた出来て。 ・・・・よかった。 本当に、そう思う。 「吐けってば!この・・・あ、んゃっ・・・!・・バ、バカ!」 首を突然吸われて、そのままピタッと動きが止まる。 あ、と自分の上に被さっている慎の顔を見ると、真剣な、瞳。 「・・もう、他の男と出かけんな。俺に内緒で何かしようとするなよ?」 ・・・っ・・・・・・! 「・・好きだ。絶対、離してなんかやらねぇから・・・・。」 「・・・・んっ・・んぅ・・・」 うん、という言葉は口付の中に飲み込まれて。 3日間という短いようで久美子にとっては長かった、仲たがいの期間が、ようやく終止符を打って。 もう、隠し事はナシにしよう―――・・・・・ そう、本気で思ったのであった。 でも。 「うぅ・・・・体・・・・・・・だるい・・・・・」 「じゃ、今日休むか?」 本気で、隠し事をナシにしようと実感したのは、翌朝。 「・・ふ・・・ふざけんなぁー!!!誰のせいでこうなったと思ってんだよ!」 「誰って・・・きっかけを作ったのはお前だろ?自業自得だ、バカ。」 ・・・・・・・・くっ!!!!!! ベッドの中で、明け方まで散々惑わされたために、体がだるすぎで、動けなくて。 一人、悔しさに拳をコッソリ作ったときなので、あった・・・。 「あ、そうだ。」 「・・・・なんだよっ!」 「とりあえず、今日も明日も離さねぇから。」 「な、な、なんでだよっ!!!!!!」 「3日間、お前に触れてなかったんだから当然だろ?・・・・・覚悟決めとけよ。」 「・・・・・・・・・・・っ!!!」 隠し事の、代償。 それは。 「・・・楽しみだな?」 「〜〜〜〜っ・・お前だけだろっ!!」 あと2日間、たっぷりと、久美子の身に、降りかかる。 「も、隠さねぇから・・・・!」 「・・却下。諦めろ。」 ・・・・うぁぁぁぁ・・・・・・・・・っ!! その後、久美子がどのくらい代償を支払ったのかは――― 「死ぬぅ・・・・・・・」 「・・・死ぬほど抱いてねぇぞ。」 「ゆ・・・言うなぁぁ――!!!!」 また、後日、明らかになる・・・かも? *オ.ワ.リ* |
やっ・・・やばっ・・・すごい、すごい・・・ワケわかんねぇー!・・・・・・・ハっ。取り乱しましてどうもスミマセン。(by竜ちゃん) ぎぁー! 本当にワケのわからないモノをUP。自分でもおかしな話だと思うのに、どうしてUPしたかと言いますと。ええとですね、なにかしら話をUPして、感を取り戻さないといつまでもあの会話SSSだけが増えていくと。。危惧したからでありまして、その・・・・。あの・・・・・こ、ココまで読んでくださり、本当にありがとうございました!次回作は、ちゃんと意味の分かる話にしたいと・・・え、えへVv では、では、サラバです!(再々逃) |