[Which wins ?]



「マジかよ・・・・・・」


慎は、目の前で瞳をキラキラさせている愛しの彼女の姿を見て――


はぁ・・・・・・


深い、溜息をついた。


以前も、このシュチュエーションに陥った事がある。


あの時見ていたのは、そう・・・・HITアニメ、「千と千尋の神隠し」で。


そして、今は――・・・・





パタパタ・・・・・!


休みの日、静けさが漂っていた自分の部屋の前を慌しげな足音が響き渡ると――


がちゃ!!!!!


「おい、来たぞぉ!」


大きな音を立てて開いた扉の前には、薄っすらと額に汗を浮かべて、
ピカピカな笑みを浮かべた久美子の姿。


そして、その胸の前には。


う・・・・・・・・・・・・


一瞬眩暈がするが、何とか持ちこたえて、視界の片隅に再びそのものを飛び込ませる。


今度は、ピンク色の袋がしっかりと押さえ込まれていたのだった。


なんか・・・・・・・・いつも思ってたんだけど・・・前はオレンジ色だろ。今回は
ピンクで・・・・・・コイツは一体どこのレコード屋で買ってんだよ・・・


フとそんな事も思うが、ニッコと笑った久美子の笑みにハッと意識を戻すと。


内心ちょっとビビリながらも。


「・・・・・・・・で?」


その中身を、約束どおり聞いてみる事にした。


と。


「これか!これはなぁ・・・・・じゃーん!!!結構前に出たヤツだけど、欲しかったんだよな!ウォーターボーイズ!!」


・・・・・・あ。まともじゃん・・・・・今回は。


なんて、思った事は伏せておきつつも、とりあえず。


「・・ふーん。」


あまり興味を持たない振りをしながらも、玄関先で話していた久美子を部屋へと押し込めて、バタンと扉を閉じ鍵をかける。


「わ、とと・・・・!なんだよ、見たくねぇのか??」


ちょっとだけ、不安な声。


「ぷっ・・・・・」


それが余りにも可愛くて、つい吹き出してしまう。


「・・・・バーカ。んな声出すなよ・・・」


ポン、と子供でもあやすかのように、久美子の綺麗な黒髪を撫でる様に手を降ろすと、
そのままキュ、と後ろから抱いて自分の中に閉じ込めて。


「あ、慎・・・・・・・・・!」


今度は、恥かしそうな声。


・・・・・忙しいやつ。


後ろからだと表情全部は確認できないけれど、耳の赤さと体温が上昇したことから、
いつも以上に照れているのがよく分かる。


誰よりも、好きな女だから。


「・・・見るンだろ、それ。座ろうぜ?」


「・・・・ぅん。」


小さく久美子が言葉を返して、慎が抱きついたままでテレビの前に行って、座って。


ピ。



再生―――そして、90分後。



「・・・・・なぁ・・!!!!!」


「・・・・・・・・・・・あ?」


嫌な予感がする。


非常に、嫌な予感をさせる、久美子の、声。


いや、もう、映画を見ている途中から薄々気付いてはいたのだが。


素知らぬ振りを決め込んで、最後まで見てしまっていた。


・・・・・絶対、言いそうだな・・・・・・。


映画の最後の名シーンを見ながら思った考え。


それを。


「今年の文化祭さ・・・・・!!!!!!」


久美子は。


「・・・・・・なに。」


案の定。


「コレ・・・・・コレにしよう!!3-Dの、出し物!!!」


言ったので、あった。





――そして、冒頭。





「・・・・マジかよ・・・」


「おう!あたしは何時だってマジだぞ!!」


キランっ! といった効果音が絶対入った。


それぐらい、今の久美子の周りは何か希望の光が差し込んでいる。


・・・・絶対、無理だろそれは。


チラ。


今見終わった、DVDをみる。今見た内容でやっていた物、といえば。


「やってみろよ、シンクロ!!!!!!」


どうだ!とばかりに輝く久美子の声が、目の前から降り注ぐ。


・・・・・はぁ・・・・・もう、考えがそっちにいってんな・・・・。


とにもかくにも。


あきらめさせないと。


・・・どうすっかなぁ・・・。


「南たちも賛成するかな〜っ」


ワクワクワク。


目の前に、抱きかかえている久美子からは色んな効果音が体から溢れ出てきている。


・・賛成するわけねぇし・・・・・・・。


人一倍、面倒が嫌いなこの学校の奴らが。


努力、とか。


根性、とか。


忍耐、とか。


そう言った、言葉の上にそれがベースでつく競技を。


「・・・やるわけねぇだろ、どう考えたって。」


「えー!!やらないのかよぉー!!」


クル、っと後ろを振り向いて、ギュ、と慎の首元を掴みながら久美子が慎に言いながら体を寄せてくる。


いや、正しくは。


首元を――締め上げられているというか。


・・・・・ったく・・。


「・・・おい、締め上げんの止めろって。大体、よく考えてみろ。
お前、3-Dの連中が本当にやると思ってンのか?」


パ、と久美子の手を首元から離させると、そのまま自分の手の平に握りこむ。


「・・・・・・・・・・う・・そりゃ、最初は反対があるかなーとは思ってたけど・・・」


「・・・最初どころか最後まで反対するっつーの・・・・ていうか。万が一、やる、ってなったとしてもだ。
あの学校には、それを演技する場所なんてねぇぞ。」


「・・・・・・・・・え?」


ピキ、と固まりながら、久美子の真ん丸くなった瞳が自分の方を見つめてくる。


・・・・・・はぁ。


「知らなかったのか?うちの学校・・・・・・プールねぇぞ。」


「・・・え?」


「プールは、ありません。ヤマグチセ・ン・セ・イ。」


「え、え・・・・・ええええええええ!!!!!!なんだよそれ!!!!!!!!」


一瞬、声をなくした後。今度は思い切り声を響かせて。


ガクガクガク!


「わっ!て、お前!いきなり揺さぶるの止めろ!!!!」


「だって!プールはあるの当たり前だろ!!!??なぁ!」


「知るかよ!・・・・だから、この話は終わりだろ。ったく・・他の参加モン考えろよ。」


ガックシ。


慎の言葉にそんな音を立てながら、今度は目の前にヘタレ込む。


「・・・・・・・そんなぁ・・・・・」


か細くそう呟くと、そのまま自分の太股のところに突っ伏して――そのまま。


ピクリとも、動くのを止めてしまったのだった。




「・・・・・・・はぁ。」


・・・まったく。


この、山口久美子という女は。


教師のくせに、なにもしらないし。


いきなり、無理難題を押し付けようとするし。


・・・・いつも止めるのは俺の役目で。


でも、別にいやじゃないけど。


・・・・・しょうがない、女。


その拗ねている様子が、可愛くて。


来た時と同じように、綺麗な黒髪を指に絡ませながら、その頭を優しく撫でる。


「・・・・・バカ。」


「うっさい・・・・・・」


キュ。


うるさいと言いながら、撫でている指とは別の手を、久美子が握ってくる。


「・・・・・・・ふ・・」


その様子に、思わずまた笑いが漏れてしまう。


「・・・・・・なんだよ。」


むすっとした、久美子の声。


「お前って・・・結構、甘えるよな?」


可愛くて、言った言葉。


甘えてくれるのが嫌なんじゃなくて、その、反対。


「・・・・・・な!そ、そんなことねぇよ!あ、こ、これか!?悪い!」


あ、と気付いて片方の握った手を離そうとする久美子の手を。


ギュ。


逆に、慎は握りこむ。


「あ、しっ・・・・」


「バカ。謝ってんじゃねーよ。別に、悪いことしたわけじゃねぇだろ・・・?」


「・・・・・ぇ、ぇと・・ぅん・・・」


少し起き上がって、こっちを見た久美子の顔が、再び自分の足の上にのっかって。


今度は、仰向きで、寝転がる。


瞳と、瞳を、あわせながら。


サラ・・・


髪に置いていた手を、そのまま指先でそっと久美子の頬をなぞっていく。


柔かくて、しっとりしてる、肌。


「もっと・・・俺に甘えても良いんだからな。」


「・・・・え・・・・・?」


ス、っと。


頬に置いてある指を、その綺麗な形をした唇になぞらせて。


「・・・・・ん・・」


「・・・俺の事、頼れよ。」


「・・・・・うん。」


二人でニッコリと笑い合う、その優しい空気。


久美子よりも大きい手で、その綺麗な黒髪をかき上げながら、そっと
その綺麗な唇に、唇を、重ねて。


「ん・・・・・・」


息継ぎを重ねるたびに、深く口付を交し合う。


「あ、ちょっと待っ・・・・」


「またねぇ・・・」


そのまま、手を柔らかな肢体に這わせると―――夜の闇に包まれるまで
淫らな音が部屋に響き渡るのであった。






**





「・・・・・ぅーん・・・」


パタ・・


激しい行為の後。


疲れて眠る久美子を、自分の方へ寄る様に寝返りをうたせて、
慎はそっと腕の中に抱き込んで。


「・・やりすぎたかもな・・・・」


ボソ、と心にもないことを呟く、と。


「・・・・・・・あ。」


ハタ、と慎はある事を思い出したのだった。


「・・そういや、プールって・・・あったな。」


ただ、数年前にどっかの馬鹿がぶっ壊して水が漏れるようになってから――


「・・使わなくなったんだっけ。」


チラ、っと抱き込んだ久美子の寝顔を見つめながら、言おうかな、とも思うけど。


「・・やっぱいいか、言わなくても。ンなことなったら・・こうする時間も減るし。」


フニ。


久美子のほっぺたを摘んでみたり。キュ、と寝ているところの鼻を掴んでみたり。


「・・む・・・・」


やべ、やべ。


こうした、二人だけの時間が減るんだったら。


「・・・言ってなんか、やるか。」


ベ、と心の中で舌を出して、慎はそのままその事実を胸の中にしまっておくことにした。





そして。





「あああぁぁぁーーーーーーー!!!!!!!プっ・・プっ・・・!!!」


久美子の、素っ頓狂な声が校内に響き渡ったのは、


文化祭も終わってから、1ヶ月も立った後だったとか。


「なんだぁ、あれ、やんくみの声じゃねぇ?」


「どーしたんだろうなぁー??」


「・・・・・・・・・さぁな。」


フ、とその久美子の声に唇の端を微かに上げながら、慎は足早にその場を去って。



「ちっ・・ちきしょぉ!沢田ぁー!!!!!!!!!!!」


後に残るは、久美子の悔しそうな声と。


「山口先生!?何騒いでいるんですか!生徒に示しがつかないでしょう!!!」


教頭の、久美子を叱咤する声だけだった、とか。



今回の、駆け引きも―――



「・・・俺の勝ち。」


「え、なんだよ慎?」


「・・・別に。」



慎の、勝利。



「・・・・ま、当然だろ?」



久美子が慎に勝利する日がくるのは。



まだまだ先、なのかも――――しれない。







*オワリ*



やてしまいました・・・・・・かなり大好きな、ウォーターボーイズを出してしまいました・・ネタで(汗)。面白いですね、ボーイズ!かなり好きで、この間TV放映になった時はウハウハでしたVv と、そんな映画をメインで差し込んだはずが・・・ヘタレSSになっちゃたー><;; 途中まではノリノリで書けてたのに・・一日置いたら!(泣)大変な事に・・;; ええと、でもなんとなく甘めでかけていれば良いな、とか思ってます;; 
え、えと!ココまで読んでくださってありがとうございました! ぼちぼちCAN YOU・・のほうも仕上げにかかります・・・!(先にそれを・・;) では、ではでは!(逃)