[待ち合わせ。]


ワイワイ、と公園の中にざわめきがこぼれ落ちる。


木々の間から、木漏れ日も零れ落ちる。


その、零れ落ちた光の下で。


・・・・・・・・・・・っ。


妙にドキドキしながら慎を待っている久美子がいた。


そう。


今日は、デート。


それも、二人で色々と気持ちが通じ合ってから――


・・・・は、初めてかもしれない・・・・・


いつもよりも、周りのものがキラキラ光って見えてくる。


心一つで、なんて世界って変るんだろう・・・・・!!!


そんな、乙女チックな考えを体の回りに漂わせて。


まだ来ない、慎を待っていた。


「おせーなぁ・・・・」


待ち合わせから、10分ほどが過ぎている。


来ないんじゃないか。。。なんて、バカみたいな心配はしていない。


そんなに、やわな関係じゃないと、信じているから。


と。


ザワ・・・・・


なんだか、こっちの方に来る人来る人が、なにやら頬を染めて楽しそうに
話しているのが目に止まった。それも、全部、女の子で。


「なんだ・・・・・?」


これといって騒ぎ立てているわけじゃないけれど、チラ、チラ、と視線を
後ろの方向に向けたりしているではないか。


・・・気になる。


当然、久美子も気になって。他の女の子と一緒になって、その方向を見てみると。


「あ。」


その先にいたのは、慎で。


噴水の木陰で、木漏れ日に当たりながら誰かを待っているように腰掛けている。


その姿は―――・・・・


「・・・・・っ!!」


息を、飲むほど。


きっと、自分は慎を好きだから120%増で見えているに違いない・・違いないだろうけど・・・・


アイツってやっぱ・・・カッコいいよなぁ・・・・


なんて。


自分は慎にとって何の関係もない人間のように、客観的に思ってしまう。


その証拠に、さっきから若い女の子達がチラチラと慎を気にしながら通り過ぎているではないか。


「・・・その気持ち、あたしはよーく分かるぞ・・・!」


なんて一人呟いて、慎が時折時計を見ながら小さなため息をつくのを遠くから眺めていると。


・・・・・・・ん。・・あ?


・・・・ハっ!!!


今更ながらに、自分が待ち合わせ場所を間違えていたのに、気付いたのであった。


そ、そうか・・・・・!来ない来ないと思ってたのは、慎が遅かったからじゃなくて・・・・じ、自分が・・・・・!


「やべぇ・・・・・!」


ということは。


慎が、10分以上遅れているんではなくて。


自分が、遅れていると言う事で。


「・・・・・・・どぅしよ・・・・・」


視線は慎のほうに釘付けのまま、足は地面に釘打たれて、動揺のあまりこの一歩が
中々踏み出せない。


・・・・・な、何言われるかわかんねぇぞ・・・・!きっと、絶対無理難題を
言って来るに決まってるのは、目に見えてるよなぁ・・・・・・


そんな思いもあるし。


それに。


さっきも思ったが、木漏れ日の光やら、それに当たる噴水の光やら、色んなキラメキが
慎の姿をいつも以上に上昇させて、頬を染める若い女の子達の視線が集まるその場所に。


そんな、皆の注目が集まる、慎の前に。


「・・・・い、行けない・・・・!!」


どうにも自分の姿をさらけ出す事ができない。


年の差、とかじゃなくて。確かにそれも入っているが、なんというか。視線の、
『期待』を自分が行ったら裏切ってしまうような気がして――・・


きっと、女の子達の間には、どんな女性が来るのか絶対に見たい、と言う気持ちがあるはずで。


それは、自分も女だからわかる考え。


そして、その女性を値踏み――何て言うといやらしいけど、でもそんな考えも
混じっているのも、絶対あるはず。


そんな、『期待』を自分が一身に背負っているのかと思うと――・・・


「・・行き辛いのも、当然だろ・・・・・?」


かといって、ここでずっと待たせるわけにもいかないし。


しかも、時計を見ればもう20分も過ぎてるし。


時間を過ぎれば過ぎるほど、ヤバイ。


「えと、えっと〜・・・・・・・!!」


ぐるぐると考えが回る。どうすれば、そんな視線から外れるのか――――・・


なんて、考えていると。


「・・・・・・え?」


パチリ、と一人の女の子と目が合う。


・・・・何だ、今の・・?・・・・・・・・・ん?


あさっての方向を見渡していた視線を、ハ、と普通の高さに戻して見回すと。


チラ、ホラ。


いつの間にか、女の子達がこっちをちらりと見ながら去っていっているではないか。


「・・・・え?え?」


なぜ自分を見ているのだろう。慎は、逆の方向にいるはずなのに。


そんな疑問が頭を掠めて、もう一度噴水の方を見ると。


「・・・・・・・・げっ・・・・!」


いない!!!!!!!!! ど、ど、どこいきやがったんだ!?


いつの間にやら慎がその場からいなくなっているではないか。


まさか、帰ったんじゃ・・・・・・・・・・・!?


フ、と眉が自然に寄って、そんな不安がよぎる。


携帯にも、全然連絡はなかったし。こんな、自分の小さな悩みで
初デートが失敗に終わるなんて・・・


カクリ、と首をショックで垂らしながら、クルリと噴水に背を向けるように踵を返す。


「・・・・・・どうしよう・・・」


ポツリと、悲しい気持ちで言葉が漏れる。


本当に、どうしよう・・・・・・・・。


「どうもしねえよ。」


・・・・・・・・・え?


なんだろう、今の声は。ていうよりも。


下に置いている視線の先には、見慣れた靴と黒いパンツをはいた、人物の足が見える。


これは。もしかしなくとも、もしかして。


ドキドキしながら、目線を上にあげていくと。いつものTシャツに、アクセサリ。


その、上には。


やっぱ、いくら綺麗な顔してても男なんだよなぁ・・・・。


と、実感してしまう程に、太い首。そして、その上には、その、綺麗な―――顔と、開いた唇。


「お前、なんであそこに来ないんだよ?どこにいるかと思えばココ全然違う場所じゃねーかよ!!
ちゃんと、人の話聞いてたのか・・・・よっ!」


ピシ!


「いてっ!」


ついついボーっとその姿に見とれてしまうと、いきなりデコピンが降って来た。


と。


・・・・・・・んっ!?


ハタ、と我にかえる。


そうだ・・・この、目の前にいる人物は、幻でも何でもない――


「・・・・・・・慎?」


「なんだよ。」


「・・・・・・・・・本物?」


「・・・・はぁ?寝ぼけてんのか?」


この、口の悪さ。年上を、年上とも思ってない、遠慮無しのその口調。


・・・・・・慎だ。


それで、本物だなんてわかるとはどうかしていると思うけど。


でも。


・・・・・・・帰ってなかったんだ・・・・・・。


その、喜びの方が大きくて、ちょっとくらいのことなんて全部吹っ飛んでいってしまう。


「えへへ・・・・・・」


なんだか、嬉しい。帰ってなかったのも嬉しいけど、見つけてくれた。


そう、あんな遠くて、女の子も他の家族連れもカップルも間にたくさんいたのに。


自分を、見つけてくれた。


それが、嬉しくて。


幸せな、笑みがどうしようもなく零れてしまう。


「何笑ってんだよ?こっちはお前の事ずっと待ってたんだぞ?!・・・ったく・・・」


クシャ。


一つ、慎の大きい手で髪を無造作に扱われると、そのまま腕の中に抱きすくめられる。


「・・・行くぞ。」


「・・・・う、うんっ・・」



肩を抱かれて、出発の合図をかけられて。


スッと、そのまま行くのかと思いきや――


「あ、そだ。とり合えず、遅れたから」


トントン。


「・・・・・・・え?」


見上げると、慎が自分の唇を何かを言うように指差している。


「遅れた、罰。貰うのは当然だろ?」


・・・・・・・・・・・そ、それは、もしかしなくても!キ・・・


「キスしろ、ってこと・・・・・・・?」


「それしかねぇだろ。」


なななななな!!! 


「こ、公衆の面前でか!?」


「当然。それに・・お前、他の女と一緒になって俺のこと見てたし。
俺が、自分の物って意思表示しなかったその罰も含めて・・濃いやつな。」


こ、濃いやつって・・・て、いやいやそれも問題だけど!!て、え、てことは!


「・・・し、知ってたのかよ・・・・!!」


「バレバレ。」


!!!!!!


見、見られてた!! てことは、あたしが見惚れていたのも見られていたというわけで・・・!!


「・・マジっ・・!!!!??」


あまりの恥かしさに、できることならその場にのた打ち回りたい。


「え、えっとその・・・・・!アレはだな、あの〜・・・・・っ!!」


「・・・・・ま、久美子にそんな目で見られるのも悪くないけど。」


「・・え?今何て言っ・・・・・・」


「別に。それよりも・・・早くしろよ。しないなら・・俺が先に貰っとく。」


「え?え?あっ・・・・・・・ちょっ〜・・・!・・・んぅ・・!!」


今、何て言ったんだろう? 見られるのも悪くない、とか言ってた?


「んん・・・・・ぁん・・」


考えたいけど、考えられない。


キスと、背中に回された腕が熱すぎて――・・





そんなキスを交わし始めて10分後。





「バカヤロォ・・・うぅっ・・・・!!!」


「んな、気にすんなよ。」


「目一杯気にする!!!だって、こんな人がいる中あんなに長くしなくてもいいだろ!
あたしもう、この場所にこれねぇよ・・・・・・」



真っ赤な顔をしながら、慎の左手を握る久美子の姿と。



「・・・・他の虫がこねぇようにしただけだし。」


「・・・・・・・え?」


「なんでもね。」


シレっとして、久美子の右手をがっちり包み込む慎の姿が、そこで見えたとか。







何はともあれ。



待ち合わせてから約1時間後に―――やっと。



「どこいくか決まってンのか?」


愛しい目を向けながら、再び久美子の髪をクシャリといじる慎に。


「ん〜っ・・・・」


慎の手に指を絡ませながらキョロキョロと回りを見渡す久美子と。


そんなありふれたじゃれあいと会話をしながら、二人の初デートが始まりだすので、あった。





そして、その後。





今回の事が久美子の中でトラウマとなり、絶対に、デートの待ち合わせをする時は。


「右よし、左よし、時間よーし!」


ニコッとその場に笑みを浮かべて。


待ち合わせの、20分前に久美子は必ずその場にいる事にしたのだとか。



でも。



「よーし、この場所で・・・・場所で・・・・・あ、あってるよな?」



久美子のドジが――・・・直ってない、ような気がするのは。



「・・・・バーカ・・・。」



本当の待ち合わせ場所から見ている、慎の、心の中だけに。



「こことそこ、ど、どっちだぁ・・・・!?」



「・・こっちだよ。」



「え・・・・・!!??」






*オワリ*





こんばんは、コンバンハ、アイコです。無性に小説が書きたくなって、書いてしまいました。なんだか、初デート話ってありがちですが、乙女ヤンクミ的視点でデートが始まる前を書いてみました。内容は「デート」じゃなくて「待ち合わせの瞬間」がポイント(笑)。どうしても他の女の子の視線て気になるよなぁ、と思って、それがカッコいい彼氏なら尚更かな、と思いつき、ちょと書いてみました。ていうか、カッコいい人が誰かを待っていたら、その相手って気になりますよね・・・・?私は結構気になります(笑)。どんな女なの・・・!?みたいなね(笑) 別にその人が好きでもないけど、途端ライバル心を持ってしまうという・・・一般的な乙女心の持ち主です。(違う?)
ではでは、ここまで読んで下さってありがとうございました!では、また次回☆