[脱・日常宣言。]


「「「「うわっ・・・下手っ・・・!」」」」


がくぅっ!


そんな効果音が鳴り響きそうなくらい、久美子の体は崩れ落ちた。


4人の声がこだまする、ここは。


「・・・・・・・だから来るなっていっただろ・・・」


「くっそー!お前らー!!」


とある、カラオケボックスで、あった。


**


いつものように、いつもの帰り道に。



「なあなあ、しーんv今日カラオケいかねぇっ?」


「・・・は?」


後ろから肩を組まれてそういわれた言葉。


いつもの―――遊びの誘い。


今日は珍しく、合コンじゃ無いようで。


「・・・そうだな。」


そう、OKの返事を小さく呟く――と。


ガシっと、空いた右脇のほうから背中に腕が回される感触。


明らかに男の感触ではない、その柔かさ。


・・・・・・・まさか・・。


嫌な予感がする。


いつもそうで。


いつだって、あいつは俺の目を盗んでそうやって―――・・・


「よーし、行こうー!!」


・・・・・・・・はぁ。


やっぱりな、と思いつつ目線を右の方へ向けると。


「ん?どうした、沢田っ?」


ニカっと笑った、その顔が目の前に迫ってくる。


・・・おわっ・・危ね・・・っ!!


あと数センチ近付けば、触れ合いそうになる唇。


まだ、周りにばれてはいないとは、思う――二人の関係。


ありふれた、生徒と教師という日常的な関係のカモフラージュをしている、二人の関係。


『卒業するまでは、内緒だ!』


・・・・・・・そう言ったのは、どこの誰だったけな・・・。


「・・・はぁ・・・」


何度目の溜息になるだろう。


目の前のこいつはいつだって心配なんてしてやがらなくて。


頭痛めてんのは、俺だけかよ・・・・。


なんて、無駄な考えに思考をとらわれそうになりつつも。


「どした?」


ひょい、と覗かれたその屈託のない笑顔にまた騙されて。


5人プラス1人、は。


カラオケBOXへと向かったのだった。。



そして。



「ヤンクミ・・・・・・お前、悲しいぐらい歌下手だな・・・・・」


「・・・・・なっ・・なにぃぃぃ!!!!」


冒頭へと、戻るのであった。









「だってよぉ、お前下手にも程があるぞ!」


「大体なんでのっけから『兄弟仁義』なんて歌うんだよっ!!」


・・・・・ぷぷっ・・。


ヤベ。


思わず、笑いが止まらなくなってくる。


そりゃ、そうだよな。いきなり初めから兄弟仁義、ってのもインパクトありすぎだろ。


・・・・・俺も初めはびびったし。


ひとしきり笑いを抑えて、フと横を見ると。


ブツブツと呟きながら、気に入らない、といった顔で大人しく座る久美子の姿が目に入る。


・・・・ったく・・しょうがねえ奴。


「・・・おい・・・いつまでも拗ねてんなよ。」


ポンと軽く手を頭に乗せて、皆に分からないように慰める。


「・・沢田・・・!」


・・・・・・おい、やめろ。そんな目でこっち見ンなって・・。


うるうる、と瞳を光らせて、自分の方を見る久美子に。


・・・・・あーもー・・


思わず、手が出そうになるのを―――必死の思いで、耐えているというのに。


「沢田っ!!!!」


「・・・・・・!!!!?????」


いきなり、久美子がガバッと抱きついてきた。


・・・・・は!!???


一瞬の事で、まだ状況が飲み込められない。


なんで、こいつはいきなり抱きついてきてんだ!?


「おおおっ!!やーんーくーみー!そりゃいけねぇんじゃねぇの!?」


「禁断の愛かー!!!??」


はやし立てる周りの連中をサッと一瞥して抑えさせて。


「・・・・・・・・・あ?」


視界の端に入っていた、グラスに目をやると――途端、4人がやばい、といった顔をする。


「・・おい。これ、なんだ?」


カラン・・・・


まだ氷がとけきってない――でももう、グラスの下1センチほどしか残っていないそれを自分の口に含んで見る――と。


・・・・・・・・・げ。


案の定。


「・・・・・・・酒か。」


しかも、普通の酒じゃなくて、ジンやらウォッカやら色んなものが混ざり合っているようだった。


―――ハッキリいって、結構キツイ。


いくら強い久美子でも、一気に飲めばそりゃ酔いも回るかもしれない。


・・・・・はぁ。


溜息が、止めどなく出る。


ほんと・・・・・・・・頭痛めるのはコイツだけにしてくれっつーの・・・・・・・


「し、慎〜〜・・・・・」


「ご、ごめんって・・・・怒んなよぉ・・・」


「たださ、俺たちちょっとしたイタズラで・・・な?」


「ヤンクミも強そうだったからそんなことするとは思ってなかったし・・・」


口々に謝る4人の顔。


バカな子ほど可愛いとはよく言うけれど。


・・・・・っていうか俺の子供じゃねぇけど・・・・。


「・・・・・・もうしょうがねぇだろ。飲んじまったんだし・・俺の横に寝かしとく。」


そう、「許し」とも取れる言葉を呟くと、4人の安堵した顔が横目に入る。


「・・・よっ・・・と。」


ドサ・・


抱きつきながら、既にそのまま寝息をかいている久美子を抱き上げて、自分の横へと座らせる――と。


「・・にしてもさぁ・・・」


野田が、ポツリと呟いた。


「慎って・・ヤンクミの・・・アレみたいじゃない?」


「・・・・・・あ?」


ドキ、と密かに心臓が跳ねる。


・・なに言うつもりだ?まさか・・・・気付かれてたりしてンのか?


「あー、だから、あれ・・・・・・そう!お守り!」


「・・・・・・・・・は!?」


カチン。


野田の言い分に、ちょっとだけ頭にくる。


バレてはいなかった。


――が。


言うに事欠いて、お守り、と来たか・・


確かに。


今のこの状況やら、いつものやりとりやらで自分が久美子よりも落ち着いた対応を取っているのは分かっている。


でも、よりにもよって。


『お守り』とくるとは――・・・


・・・予想できなかったな。


恋人と思え――・・なんて言えるはずはない。


そんな事は分かってる。


でも。


「うーん・・・・・・・」


この、寝つきのいい恋人を横にしてお守り、何ていわれたならば。


男として、我慢できるかと―――言えば。


・・・・・・・できるわけねぇだろ。


「あー、それ言えてるよなー。」


「だな。いっつも、慎がストッパーの役目とかしてるしよぉ。」


「お守りって・・・・ナイスだよな♪」


・・・・・・・ナイスじゃねぇだろ。


口々に言う面々に。


「ん・・・・・」


微かに吐息を洩らす恋人に。


・・・・・・・ったく・・。


ちょっとした、イタズラ心が湧きあがる。


「・・・・じゃ、賭けしようぜ?」


「「「「 賭け? 」」」」


「そ。俺が、今コイツに口移しで水飲ませて―――殴られなかったら、俺の勝ち。お守りなんかじゃ無いって証明。」


「「「「 ・・・・・・・えっ・・・・!? 」」」」


一瞬強張る4人の顔。


・・・・・・・ま、当然か。


そんな表情が出るとわかって口にした言葉。


もう二度と自分と久美子がいる場面を見てもお守りだなんて思わせない為。


と、もう一つ。


ちょっとした・・・・牽制。


いつ、自分のように久美子を好きだと思う奴がこの中から現れたら・・・・・


・・・・たまったもんじゃねぇし。


「じゃ・・・そゆことで。」


ゴク。


一口、口に水を含みながら4人をサッと見回していく。


「おい、やめろって!」


「いくらヤンクミでもそりゃ怒るだろ!?」


色んな言葉が4人の口から次々に発せられた後。


「「「「――――――――っ!!!!!!!!!!」」」」


息を飲む気配を背中に感じながら、唇を、まだ眠る久美子の光る唇に近づけていく。


ク、っと少しだけ親指で唇を開けると――・・


「ん・・・・・・」


舌を割り込ませながら、水を注ぎ込んでいく。


「「「「〜〜〜〜・・・・・・・っっ!!!」」」」


くちゅ、と、静かになった部屋に、水音だけが響き渡る。


動かない舌に自分のものを絡ませながら、意識が戻るまでずっと絡め続けていく。


と。


「・・・・・・・んん・・・・」


ピクン、と久美子の舌に力が入った。


「・・・・・・・・は・・」


・・・・・起きたか?


そう思いながら、そっと唇を離して、目の前の顔を覗き込んでみると。


パチ・・


外したメガネの奥にある、瞳が半分開いていた。


「・・・・・・ん?慎・・・?」


開口一番、呟いたのは、自分の、名前。


「「「「・・・・・・・・・ええええええ!!!!!!???」」」」


そして、周りの4人からの、驚愕の叫び。


・・・・・・・予定通り、だな。


キュ、と水と唾液で濡れた久美子と自分の唇を袖口でふき取って。


「・・・・・そういう事だから。俺の、勝ち。」


静かな声で、呟いた。


「え?え??」


「そういう事って、どういう事!?」


「し・・・慎〜〜〜!!???」


「・・・・・お、お守りじゃねぇ・・な・・・」


4人の顔を満足げに見終わった後、久美子の顔に瞳を戻すと。


チク。


ちょっとだけ、胸が痛むけど。


でも。


・・・・・どうせ、卒業までなんて無理だったんだし・・・・いいだろ、こいつらには。


なんて、自分の中で結論付けて。


「・・・・・・じゃ、俺と久美子帰るから。」


ガシっとまだ寝ぼけている久美子を抱き上げると、そのままBOXを後にした。


後に残るは。


「え・・・・・・・え・・・・・?」


「なに、今何が起こったんだ・・・・・・?」


「ていうか・・・・今、久美子、とかっていった・・・・・・?」


「つーことは、あいつらって・・・・・・・・・・・・」



「「「「・・・・・付き合ってる・・・・・・・・????」」」」


4人の、様々な呟きのみだった、とか。



とりあえず―――――――――



沢田慎、17歳。



本日、夜半過ぎ。


周りに思われていた、今までのイメージの一掃を成功させる。


いつもの、ありふれた日常からの脱出――――




でも。




「んん・・・・・慎・・・・・・水ぅ・・・」


「・・・・はいはい。」



この可愛い恋人の頭を悩ませる言動からは。


・・・・・・はぁ。


まだ、脱出できそうにないので、あった。



少年の、悩める日々は――――――



「・・・・しょうがねえやつっ・・!」


ピシ!


「・・・ぃたっ!」



――まだまだ、続く。





*オワリ。




・・・・・すみません・・ノ、ノーコメント状態で・・・。ホントに、私はなにを書いてんだか、ってね(汗)。何の気なしに書いていたこの作品・・訳わかんないまま終了にこぎつけたのでUPしてみたり・・(汗)。
うわー!駄っ!駄っ!ギャフン、とジャイアンじゃなくて私が言っちゃいます。 と、とりあえず、この一件であの仲間達には二人が恋人同士だと知れた、と言う事で・・・!そういうのを書きたかった、と言う事で・・・!そしてまた他の話が煮詰まっていると言う事で・・・!本日はこの辺で、逃走します(逃)
・・・見てくださって、本当にありがとうございました;; ご、ごめんね・・!