[早く急いで。]
*久美子Ver.*

「あたしだってなぁ・・・・!!!!」


バキィ!


・・・・言って、殴って、帰って来た。


ズキズキ、痛い。殴った拳も、左胸も。


殴るつもりなんて、なかった。本当に、なかったんだ。


・・・でも。


「・・・なんで電話もしねぇんだよ!」


と、言われた瞬間、物凄く哀しくなって。


分かっていてくれてると思ってただけに、なんだかショックで。


「・・・・・・なんて、あたしの我儘だよな・・」


それが、ただの自分の我儘だとしても――・・哀しみが怒りに変って、怒りが・・・・拳に乗り移って。


「・・・・・・って・・!」


・・・・・・・あっ・・!


気付いた時にはもう、殴ってしまっていた。


なんて短絡的。


なんて単純思考。


「・・・・・・・帰るっ・・・!」


バタバタバタ!


そのまま、その場所にいるのが居たたまれなくなって走って逃げた。


『卑怯。』


きっと、今の自分を表すならこの言葉が一番ピッタリかもしれない。


「はーぁ・・・・」


ボスン、とベッドに横になって、視線の先にある窓から見える空は、雲一つない快晴で。


本当だったら・・・デートしてたはずなのにな。


そんなことをチラッと思ってしまう。


・・・・・・謝りに行こうか?


だって、悪いのは自分なんだから。


・・・・でも、勇気が出ない。


そんな事思ってる場合じゃないだろ?


「・・・〜〜〜〜っっっっ!!!!」


バサっ!


寝転がっていた体を起き上がりこぼしのように大きく反動させて、ベッドから飛び降りる。


「・・・・・・やっぱ・・行こう・・!」


ガタガタガタ!


「お、お嬢!?どこかに行きなさるんで!?」


「ああ、今日は夜飯いらないから!あと、今日友達の家に行くから帰ってこない!」


「へ、へい!」


階段を飛ぶように下りて、ミノルにそう告げて。


玄関を出た先には、さっき見た雲一つない青空が目の前に広がっていた。


ドキン、ドキン・・


「い、行くぞっ!」


・・・・怒ってるだろな。


踏み出した途端、足元から不安が募っていく。


でも。


怒ってても。


「・・・今日は帰らない、って決めたし。」


どうあっても、許してもらう。


だって・・・・・・・・


「・・・・・・好きなんだ。」


ぐるぐる回った考えも、この一言であっけなく終り。

アイツなしじゃ、自分の世界は灰色のまま。

このすっきりとした青空を、自分の瞳にちゃんと映させるためには、アイツの笑顔が必要だから。


「あっ・・・・バス来て・・・・あー!いっちゃった!!!」


ついてないな・・・やっぱり、神様が意地悪してんのかな・・・自分が可愛くない事したから。


なんて、思って思わず俯いた顔をあげる――と。


「・・・・・・あっ・・。」


手で、口を押さえてしまうくらいビックリした。


バスが去ったあとの、バス停に立っているのは―――


「・・・・・・・・・・この、バカ。」


自分が殴った左頬を隠しもせずに、立っていたアイツだったから―――・・!


「〜〜〜〜っ・・バ、バカってなんだよ!」


ああ、だめだめ!こんなこと言おうと思ってあたしは家を出たんじゃないのに!


また、可愛くない言葉が口を滑り出てきてしまう。


だから。


絶対に、また「バカ」とか言われると思ったのに。


「・・・・・・・・・悪かった。」


・・・・・・・へ?


慎の口から出てきたのは、謝りの、言葉。


え、え・・・・なんで?


驚いた顔で、向こう側にいる慎を見ようとすると。


「わっ・・・!」


いつの間に来たのか、もう目の前に慎の姿が、あった。


その距離20センチ。


「・・・なに、驚いた顔してんだよ。」


フワ、と頬を優しく、大きな慎の手が包み込む。


・・・い、言わなきゃ! 言え、久美子!


「・・・・・・あ・・の。」


見上げた慎の顔は、当然腫れあがっていて。その腫れが、また自分の心を締め付ける。


・・・・・・・・・バカだな、あたし・・。


キュ、と頬を包む手を優しく握ると、見上げた慎の瞳が一瞬見開かれるけど、
次には優しい目元になる。


「・・・・・痛かったよな・・ごめん・・。これ治るまで、なんでもしてやるよ・・。」


自分なりの、精一杯の謝り方。


自分の我儘で殴ってしまったんだから、もしかしたら許してもらえないかもしれないけど。


「・・・・・あの・・・許して、くれる?」


ちょっと瞳に涙がたまっている気がする。


いつから、こんな女々しくなったんだろ、あたし。


そんな事を思いながら、言った言葉に、酷くやさしい眼差しをした慎の顔がちょっと赤く染まっていく。


・・・・・・・なんで?


「・・・・・・・・・・・お前・・わかっててやってる?」


・・・・・・・・・・・・は?


きょと、と首をかしげると、もういい、というように今度は溜息をつかれた。


・・・・・どういう意味なんだ?いや、それよりも・・・


「・・・・・・なぁ。許してくれるのか、くれないのか、どっちなんだよ。」


今気になるのは、この点だけなんだから。


「・・・許すに決まってンだろ・・・ていうか。悪いのは、俺なんだから。ごめんな。」


そう言われて、また頬をつかまれて。


「これで・・・仲直り。」


チュ。


「・・っ!」


キスを、された。 いつもよりも、軽いキス。


――だけど。


いつもよりも、甘いキス。


「仲直り・・・っていい言葉だな♪」


「・・・・・・バーカ。」


クスクスクス。


また二人で笑いあうことが出来た。


・・・・・・・・・・よかった・・・・!


声を大きくして、本当は叫びたいくらい嬉しい。本当に、嬉しい。


「なぁ・・今日・・・」


「・・ん?」


「お前の家、泊まっていいか?」


「・・・・・・!」


あ、ビックリしてる。


そんな顔も、ちょっと珍しいな。なんか、今日は得した気分・・・!


「ンなこと言わなくても・・・今日は帰さねぇよ。」


フイ、とそのまま慎は背中を向けて、左腕を後ろに差し出してきて。


「ほら。」


「・・・うん。」


キュ、とそのまま大きな掌を掴んだ。


「・・どっか、いくか?それとも、このまま・・・家行く?」


「!!!」


見なくても分かる、いつも通りのからかい口調で表情はニ、っと笑っているのだろう。


む。何かちょっと悔しい。あたし、負けたみたいじゃねぇか。


ホントは家、って言いたいけど。頬の腫れもあるし、あんまり外歩かせたくないから―――


そう言いたいけど。


・・・んなこといったら、益々負けたみたいで悔しい・・・。


だから。


「・・・・・・デートしたいっ。」


負けじと、硬い声でそう言ってのけた。


「・・・・なに、怒ってんだよ。ったく・・ガキ。」


カチン!


「なにを〜っ!?」


くっそー!くっそー!あたしより年下の癖に、大人ぶりやがって!


「ハイハイ・・・。俺が悪かったです。じゃ、どこ行く?」


「・・・・・っ!」


そう言って、振り返った慎の顔は、自分だけにしか見せない極上の笑顔。


思わず、息を飲んでしまうほどに。


悔しいけど・・・今回は、折れてやるっ!


「・・・・・じゃぁ・・・・・」


真赤になりながら場所を告げて、歩き出した青空の下。


日が暮れるまで歩き回ったあと、慎の家にいけば甘い夜が待っている。


「・・・・・・えへ。」


「・・?なんだよ?」


「・・なんでもないっ!」


・・・・喧嘩も時々はスパイスなのかもしれない・・


そんな事を思いついて、頬を緩めながら慎の家に向かっていく。


―――なんて、不埒な事を思ったからか。



翌日。


「・・・・・・・・・・立てない・・・・。」


ベッドの中でそう呟くほどに、愛されてしまったのは―――その罰なのでしょうか?


「・・また、喧嘩しような?」


「・・・・・!!」


なんて悪態をつく恋人を尻目に、久美子はどうやって今日一日で回復できるか、
頭を悩ませる事になるのであった。


『我儘も、程ほどに。』


そんな言葉が頭を掠めていったけど。


また、数ヶ月に同じような事をしでかしてしまうのは―――・・


愛して、愛されている、せい・・・と、いうことなので、しょうか。



それよりも、なによりも。当面今の問題は。


「・・・・・・ぅ・・動けない・・・・」


どうにかして、この現状から抜け出したい―――・・・


そう思う、再び青空が広がる朝なのでした。





*オワリ*

日記にコソリとUPしたものを、久美子Ver.を書いたら長くなってしまったので・・こちらに移し変えました;
最初からそうしとけよ、って話しですね!(汗)
 でもまだアレですよ。。書きたい話をかけて無いので、まだまだ不満足な日々が続きます・・>< 頑張らないと、ですねー!ココまで見てくださって、ありがとうございましたVv そして励ましてくださった皆様、ありがとうございましたー!