[Conceal my heart.] |
「えー、じゃあ今日のHRはコレで終り―!お前らちゃんと掃除していけよー!」 そんな自分の言葉で締めくくられる、いつもの風景。 ハ、と視線を感じて自分の瞳を移動すると―― 『お疲れ。』 そう言っているように、目で語りかけてくる―――自分の、恋人。 年下で、しかも自分の生徒という立場の――彼。 なんでだろう。気持ちは通じ合ってるのに。 なんでだろう。この、一瞬がとても切なくなるのは。 そんな必要ないくらいに、いつも触れ合ってるのに。心も、体も――・・・ ・・・・ニコ。 そんな思いを気取られないように、その眼差しの返事のように優しく微笑むけれど。 途端、今までの眼差しが怪訝な瞳に変る。 と。 「・・・・・ヤンクミ。」 え?え?なんだよ、なんで話し掛けてくるんだよ? 「・・・俺、職員専用の本見てぇんだけど。ちょっと図書室付き合って。」 グイ。 う、わ、わ・・・ そう言いながら、半ば強引に自分を教室の外から静かな廊下へと連れ出していく。 「なんか、あの中で探してた本でもあるのか?」 切なくなったなんて、知られたくないから。 わざとらしく、言葉を自分から切り出した。 「・・・・いいから。」 そう言った顔は、なんだかちょっと怒っているようで。 「あ、そか・・?」 ドキンと心臓が音を立てて、跳ね上がる。 そうして、そのまま図書室へ着けば―――早々に。 「・・・・何かあった?」 ガラッと扉を閉められて―――閉め切られて。二人の、密室にさせられて――― 低い声で、問い掛けられる。 ・・・言えない。 そんな気持ちになんでなったかなんて、自分でも分からないんだもの。 ただ、ただ―――――・・・・胸が、締め付けられただけ。 「・・・・なんでもないよ。」 だから、また、ニコッと静かに微笑みながら言った。 けど。 「・・・・・・・・・。」 あからさまに、ムッとした顔が返事の代わりに返ってくる。 なんでもないことあるか、って顔してる。 「・・・溜め込んでンなよ。」 あ、声が怒ってる。 「俺、そんなに役にたたねぇ?お前の気持ちも受け止めてやれねぇくらい、ガキ?」 ・・・そんなことないよ・・そんなこと・・・・ 言いたいけど、胸に何かが詰ったみたいで、声が出ない。 代わりに出たのは――――・・・・・・ 「泣くなよ、バカ・・・・・・」 言いながら、ギュゥ、と抱きしめてくれた。 一番安心できる、腕の中。 自分でも分からない、この説明のつかない切なさに―――・・・ 「ふぇ・・・・・・・・・」 ギュ、と目の前にある学ランを握りながら、顔を押し付けて、泣いてしまった。 「・・・・・お前、赤ん坊みてぇだな・・・・ったく・・」 そんな自分を腕に抱きかかえながら、苦笑交じりに言われたその言葉も、今は―― ――愛しい。 ポンポン、と背中を軽く叩かれて、その後頭を優しく撫でられる。 そうされている内に、なんであんなに切なかったのか少し、分かった気がした。 ――・・・・あたし・・・甘えたかったんだ。 そんなこと、学校で想いを出しちゃいけないの分かってるはずなのに。 今日、慎と目が合ってしまったから――溢れ出してしまったんだって。 ・・・・・今、優しく撫でられて、やっと分かった――・・・・・ 「・・・・・ごめん。」 理由がわかったとなると、物凄く恥ずかしくなって、パッと腕の中から飛び出そうと 身を起こした。 ――けど。 「・・・いいから。」 そうはさせるか、と再びギュ、と腕の中に閉じ込められた。 「・・・・・・なぁ、頼むから・・・」 「・・・・え?」 「もっと、俺の事頼ってくれよ。・・・甘えていいんだぞ、お前は・・俺の特別なんだから。」 「・・・・・・・・えっ・・」 ・・・もしかして、見抜かれてた?あたしが―――寄り掛かりたかった、事・・・・ 「・・だから。もう、あんな風に笑うなよ。あんな風に笑われるの、あの時だけで充分・・・・・」 ―――あの時? あっ・・・・・・ ハ、と思い出した。自分が、この学校を辞める、辞めないの騒ぎの時――家にまで 来てくれたこいつに対して返した、笑顔。 決心と、優しさと淋しさと――・・・色んな物を織り交ぜて返した、笑顔。 「あ・・・・・・」 「・・・俺、お前のその顔見るだけで嫌な予感が胸に走る様になっちまったんだよ。 だから・・・・さっきも、お前がとんでもない事を俺に言うんじゃないかって・・ホントは、 死にそうにドキドキしてた。」 ・・・・・・・あ・・・・・・! 「ご・・・ごめん・・ごめん・・・・・!」 「・・・いいけど。今、さっきの笑顔の理由分かったから。」 そう言って、見上げた慎の顔は優しく微笑んでくれていて。 切ない気持ちを抱えていた、自分の心に暖かい物が流れ込んでくる。 「・・・・ごめんな。」 「いいよ。甘えた、のお前の姿が見れたから。」 言って、再び笑ったその顔は、いつもの―――小憎たらしい、あの笑顔。 だから。 「あ、あ、甘えたって!あたしは別に・・・・・・!!!!」 やっと、自分もいつもの調子を取り戻して―――取り戻しすぎて、また可愛くない言葉が口をつく。 「・・・・ププっ・・・。お前、顔真っ赤。」 「なっ・・・!!!!!!!!」 その言葉にムゥっと頬を膨らまして、自分より上にある顔を睨みつけると。 「・・・・甘えたお前も、好きだから・・我慢しないで甘えろよ?」 「・・・・っ・・!」 恥かしげもなく、甘い言葉が降ってきた、から――・・・・・・・・ 「・・・うん・・・」 トン・・・・ 小さく返事をして、そのまま再び厚い胸板に寄り掛かるように顔を、埋めて―――・・・・ そのまま。 人の気配など、外にする事なんてありえない図書室で。 「ん・・・・・っ・・」 深く、深い、口付を―――・・ 「・・・・・っ・・・はぁ・・」 「・・・・・も一回・・・」 「・・・んんっ・・・・・」 何度も、何度も、交わしては離れて、また、交わして――・・ 結局、図書室を離れて家路に着いたのは、もう月が姿を現している時刻になってしまっていた。 たまには、甘えていいのかな。 でも、いつも甘えすぎてるから――・・・・・甘え難いんだ。 なんて、帰り道一緒に帰った慎にさり気なく告げると。 「・・・・・・バカ。お前、全然甘えてねぇよ。お前のそれは、一人で頑張りすぎなんだよ・・・ もう、一人で頑張るの止めろ。俺が、いるから・・・・・・」 そんな、また甘い言葉が降ってきた。 恥かしかったけど。 また、可愛くない言葉が出そうになったけど。 「・・・・・ありがと・・・」 慎の方を見て、赤くなりながらもニッコリと微笑んで、そう言った。 今度は、ちゃんと――・・・可愛い言葉が、出せたかな? そんな風に思った心配も、「お前可愛い・・」と突然言われながら抱きしめられた腕によってどこかに吹っ飛んでいってしまった。 切なくなる、そんな時もあるけれど。 こんな風に、二人の気持ちがまた強く繋がるきっかけになるのなら――・・・ そんな風に思う時がまたあっても、いいのかもしれない。 「じゃあ、また明日な。」 「・・・うん。送ってくれて、ありがとう。」 玄関先まで送ってくれた慎に、お礼を告げて。 慎が、今来た道をまた戻っていくのを見送ろうとその場に佇んでいると、慎も中々その場を動かない。 ・・・・・・なんで? 「・・・・・・・・・・。」 「・・・・・慎?」 不思議に思って、もう一度名前を呼んでみれば、ちょっと苦い顔をしてぽつりと言われる。 「・・・・いいから。早く入れ。」 「え、いやあたしお前が見えなくなるまで見て・・・」 「ダメ。」 「なんで?」 「・・・・・ここから、また連れ出したくなるから。――俺の、腕の中に。」 「えっ・・・・・・・・・」 「だから―――早く入ってくれ。お前が入ったのを見てから、俺も帰るから。」 早く早く、と今度は背中を押されて言われた言葉。 う、う、腕の中って・・・・・・・う、わわわ・・・! ボン、と顔が赤くなるのを感じながら、「わかった」と小さく告げて、門をくぐろうとした―――けど。 クルっ。 踵を返して、吃驚した顔でこっちを見ている慎の元へ足早に駆け寄ると。 チュ。 自分の方から、驚いた顔の慎の唇に、ひとつ、お土産を残してくる。 「・・・・・・・おやすみ。」 フフ、と赤くなりながら微笑んで言ったその言葉に、「・・・やすみ・・」と小さい呟きが何とか 取って聞こえてきた。 切ない夜は、もう来ない。 今日、充分に甘えさせてもらったから――・・・・・・・・・・・ だから。 明日は。 「えへ・・・お前が甘えてもいいんだぞっ・・・と・・。」 コツン。 飾ってあった写真に向かって、そう呟くと、久美子はグッスリと眠りについたのであった。 * * ――次の日。 「あれ?沢田、どうした?なんか疲れてるな???」 朝一に会った慎の顔に、寝不足の疲労が手にとって見えた。 「・・・・誰のせいだと思ってんだよ・・・・・・・」 苛立ちのような、呆れた、というような含みを持った呟きの、意味を。 「・・・・・へ?」 久美子が身をもって知る事になるのは――・・・・ また、別の、お話し..... *END* |
**アトガキ(又の名を言い訳)** 数日振りに更新でございます。こんばんは、アイコです。ええと、今回のテーマは両思いだけど切ない瞬間、てな感じで・・。いや、MDに落していた曲が切なかったからってだけなんですが、本当は・・!ディズニー映画の「ムーラン」という作品の中にかかる、REFLECTIONという曲を聞いた途端、「切なさを書きたい!」と思い立って書いちゃいました。話は全然切なくないけど・・!少しでも楽しんでいただけてればいいなー、とか思いつつ・・・これにて逃走いたしますv てへv また、次回Vv >>追記。 今読み返したら・・あらイヤダ・・いつものごとく、?な作品になってました・・アハ・・(汗) |