[ ill-natured only to you. ]

「・・・・・・・・・・いい?」


「・・・・・ダメぇ・・!」


昼休みの、図書室。


一瞬、シーンとなる瞬間もあれば、校庭や廊下の喧騒が風に乗って流れ込んできたりする、不思議な空間。


その、時間に。


事実上貸切となっている図書室に、重なる、影。


「だってお前・・・・・・職員専用の本が見たいってっ・・!」


息を体に感じるほど近づいたその距離で、顔を真赤にさせながら目の前の相手がそう呟いた。


「・・・・・・・はぁ・・・。」


・・・・・・・・・・マジ、鈍すぎ・・・。



今、なんでこの二人がこの状況になっているのかというと――――・・昼前に。



ちょうど今日は4時限目の授業が数学で、昼のチャイムと共に、慎は久美子に
呼び出されたのだ。


・・・・・・・・・・・なんだ?


そう思って黙って久美子の後をついていくと、着いた場所は、昨日も来たばかりの、図書室で。


「じゃーん!」


「・・・・・・は?」


そう、自分で効果音をつけながら見せた、一枚の、紙。


『貸し出し許可証。』


それには、センタリングされた文字でそう書かれている。


「・・・・・・・・・ナニコレ。」


「何って・・・・・・お前、昨日自分で言ってたこと忘れたのか?」


・・・・昨日?


そう、昨日――・・・・・・・・・・


昨日自分はここで、久美子と甘い一時を過ごした。


何度も、何度も、深い口付を交わして――――・・・・・・・・・・・・



で。



ここに、連れ出す為に使った手段が、今、まさに久美子が手に持っている許可証を
必要とするそれで。


・・・・・・・まさか、コイツ本気にしてたのか・・・?


ガク、と力が抜けそうになる。


いつもの事ながら――というよりも。付き合い出す前も、付き合ってからも。


・・・鈍さ、変ンねぇし・・・・つーか・・。


ニコニコ、と昨日とは打って変わって元気な久美子の顔を見て、慎は少しムカついてくる。


だって。


昨日の、帰り道。


・・・・・チュ。


――と、可愛い音を立てて、降ってきた久美子からの唇。


一瞬の出来事に、頭がついていかなくて。


――――――・・へ・・・?


ロクにおやすみの挨拶も出来なかった。それに翻弄されて。


ピシャン・・・・・・


久美子が後ろ手に、玄関の扉を閉めた後も、暫くその場から動けないで―――


部屋に帰ってからも、思い出しては色んな妄想や疼きが襲ってきて。


「・・・・・・寝れねぇ・・・・・・」


なんて、一人そんな目にあっていたというのに。


今の久美子ときたら、てんで昨日のことなど何も無かった様子で自分にピカピカの笑顔を
向けるもんだから――・・・・・・・



・・・・・・・イジメテやろ。



そう、思ってしまった。


だから。


「ふーん・・・・・・・サンキュ。」


「おぅ!」


ニ、と唇の端を上げた笑顔を向けて、とりあえず久美子を安心させて、さり気なく図書室へ
再び連れ込んで。


「なぁ・・・・・・・・・」


「えっ・・・・・?」


自然に、冒頭の状況へ持ち込んだので、あった。




「・・・・・・・はぁ・・。」


「な、何だよ、その溜息はっ・・・!」


久美子の鈍さに思わず溜息が出ると、キ、と羞恥から潤んだ瞳が自分を睨み上げてくる。


・・・・つーか・・それ、可愛いし・・・・・・・。


ガタ・・・・・・・


「わっ・・・・・・・!」


久美子の後ろには、一番端の本棚が。


そこに体を押し付けて、逃げられないようにした自分の体が蓋をする。


・・・・・どうすっかな。


昨日、眠らせてくれなかった仕返し――・・・・・・・。


眠れなかったのは自分自身のせいだけど、きっかけを作ったのはこいつだから。


だから、それに見合った、仕返しをしないと。


なんて。


勝手なことを思いつつ、久美子の頭の上に覆い被さるように置いた腕を片方下におろすと。


ス・・・・・


指を、首元が空いたジャージの間に差し込んで、軽くなぞり上げる。


「・・・・ひゃっ・・!」


小さく久美子の肩がすくみ上がるけど、それを無視して――そのまま、ジャージのチャックをグ、と下に降ろしていく。


「・・・・・や、や・・・!沢っ・・・!!」


「・・・・・『慎』だろ?」


「・・・・・・・!!!!」


付き合い初めの頃のような、名前の意地悪。


それに、カァっとまた久美子の顔が赤くなっていく。


・・・はっ・・コイツ、全然変ってねぇのな・・・


可愛い反応に、思わず頬が緩んでいく。


「・・・・・・・・・・・いい?」


「・・・・・・・ダメェ・・っ!」


・・・・・・・・あ、でもコレは変ったか。


変ったのは―――その後の、反応の仕方。


可愛い事には変わりないけれど、なんというか―――


色が増した。その声を聞くだけで、自分が高ぶってしまう様な、色。


・・・・・・・・やべぇな。


フルっと震えて、ギュゥっと目を瞑る久美子を眼下にすると、どうにも押さえがきかなくなってきた。


ツツ・・・・


そのまま、ジャージの前を全て開け放って、露になった首元に手を這わせていくと。


「・・・・・・・・っ・・・!」


ビクン、と久美子の体が揺れる。


目に映るのは、その綺麗な首筋と――――――自分の手によって段々大きくなった、
その胸元。


・・・・・・・・触りてぇ・・・・・


決して豊満とはいえないけれど、自分を魅了するには充分すぎるほどの、それ。


でも。


・・・・・・・・・・まずいよな・・・・・。


今は、昼休み中で。


学校で久美子を抱くなんて珍しい事じゃないけれど―――・・・まさか、この休み時間中に
するわけにもいかないのも事実で。


・・・こいつ、午後も授業あるしな・・・・・


そう考えるならば、今すぐ意地悪なんて止めればいいのだけれども――そうもいかないのが
男心らしく。


・・・・・・どっちかだったら、だな。


あることを自分の心の中で決めて、慎は、そのままの状態で静かに口を開いたのであった。


「・・・・・な、久美子。」


「え・・・・・・・えっ?」


パチ、と開けられたその瞳が、自分の視線と絡み合う。


「お前さ・・・・・・・・・」


「うん・・?」


「昨日・・・寝れた?」


「・・・・・・へっ・・?」


「・・眠れたのか、って聞いてンの。」


「い、意味くらいわかるぞっ・・・!」


そう、決めたあることと言うのは―――・・・・・・・・・


『眠れた』か、『眠れないか』。


その、どっちかの答えで、どこまでするか決めたのだった。


・・・・・・・・・ま、コイツのことだからな。眠れたに決まってるんだろうけど。


心の中で、そう呟く。


眠れた、ならばもうこれ以上は何もしない。授業終了まで我慢する。


でも、もしも――――・・『眠れなかった』なんて言葉が出たら。


自分と、同じとは言わないけれど、そんな状況になったんだといわれたなら。


・・・・・・ちょっと、俺我慢できねぇかも。


ゴクリ、と喉を鳴らして久美子の答えを待つと――・・・・・・・・・・・


「昨日な・・・・・・・・・」


「・・・・・・・あぁ。」


「・・・・・眠れた。ぐっすりと。」


――――・・・・・・・・やっぱな。


・・・・・・・・・・はぁ・・・・・・。


残念、というかなんと言うか――自分で決めた事だけど。


その答えに、ため息を心で吐きつつ、スッと体を離して意地悪を終了しようと思った。


が。


次の久美子の言葉によって、再び距離が近まった。


「・・・・・・・でもな、眠る前にな。」


「・・・え?」


小さく、でも恥かしげに久美子の言葉が続いていく。


・・・・・・・・なんだ?


「お前の写真に向かって、ちょっと言った・・・・・・・」


「・・何を。」


なんだ、何言ったんだよ。


「その・・・・えぇと・・・・あたしに、その・・・・甘えてもいいんだ、って。」


・・・・・・・・・・・・!!!!!!!


ニコ。


言葉と共に向けられた、恥かしいな、とでも言うようなはにかみの微笑に。


それに、その、言葉の、内容に。


・・・あー・・・・も、ダメだ・・・。


せっかく抑えていた理性ががらりと音を立てて崩れ去っていく。


「・・・・・・・久美子。」


「・・・・・・・ん?」


名前を呼べば、首を斜めにして自分を見る久美子の姿。


・・・・・・イタダキマス。


狙うは――・・・・・・・・・・・・


「えっ・・・・・ぁ・・・!」


その、薄っすらと白桃色をしている肌。


「や!ダ、ダメだってば・・コラ、慎!!」


イヤイヤ、と身をよじって逃れようとする久美子の腰をガッチリ掴むと、そのまま。


チュゥ・・・・・


「・・・・・・んっ・・・・!!!!」


まずは一箇所吸い上げていく。


「・・・・・・はっ・・・」


唇を離せば、そこには綺麗な赤が咲いていて――・・もっと。


もっと、自分の印をつけたくなる。


だから。


「あっ・・・・!ゃ、一杯つけなっ・・・・!!!!」


チュ、チュ、チュ・・・・・・


首筋に、鎖骨に、首の回り全てを舌でなぞるように吸い上げてキスマークをつけていくと。


「・・・・・やっ!・・そこはホントに・・・・っっ・・!」


グイ、と着ていたTシャツと下着をたくし上げて、甘い匂いを放っていたその胸元も露にする。


「や、ん・・・・・・・!!!」


ググッと再び体をよじって自分の腕から久美子が逃げようと必死に頑張っているけれど。


「・・・・・・・逃げるなよ。」


「・・・・・っっ!!」


耳元に唇を近づけて、そう囁いて――・・・・・・・・・一瞬、久美子が震えたその隙に。


チュ・・・・・・・・


「・・・・・ふ・・ぅんっ・・・!!!」


柔らかな二つの胸に、自分の印をいくつも残していって――・・


クニュ・・・・・・


「ぁあ・・・・んっ!・・はっ・・・・・・!!」


そのまま、口唇と残った手の先で、胸元と胸の先を責め続けたので、あった。




―――――そして。




10分後。



「しっ・・・・・沢田のバカヤロー!!!!!!」


バキィっ!!!


「・・・・・・・てぇ・・・・・!」


自分の力が緩んだその隙をついて、顔を真赤にさせた久美子の鉄拳が頬にクリティカルヒットした。


「・・・・・っつー・・・・何すんだよっ・・・」


「じ、じ、自業自得だろ!」


パパっと胸元のシャツと下着を元に戻しながら、自分との位置をゆうに1メートルは取って
久美子が叫ぶ。


「お、おまえっ・・!今はまだ昼休み中なんだぞ!そ、それにあたしこの後も授業あるのに・・
・・・・・なんでこんなに痕残すんだよ!!!! こ、これじゃずーっとジャージ着っぱなしで、
恥かしくて帰る時服着れねぇじゃねぇか!!」


「・・・・いいだろ。俺のモノ、って証拠だから。見せ付けて帰れよ。」


「・・・・・!!!!」


「・・・・不満かよ?」


「そ・・・んなこと誰も言ってねぇだろ!ていうか・・ち、近づくなよっ・・!!」


「・・・近づいちゃいけないわけ?・・・続きは、帰ってからしてやろうか?」


「・・・・・!!バカー!!!!!!!!」


ドシン!!!!!


「・・・・・・ぃってー・・・・・・・・」


最後の言葉に、真赤になった久美子が、渾身の力で突き飛ばす。


――――と、そのまま。


「も、もう・・・・・知らねぇっ・・・!!」


ガラガラ・・・・・・バン!!!


走って、久美子は図書室から逃げ出て行ってしまったので、あった。




「ぷぷっ・・・・小学生かよ、あいつは・・・・・・ってぇ・・」


その様子に思わず笑いが零れると、殴られた方の頬が後からズキズキと痛み出してきた。


「あいつ・・・・・思いっきり殴りやがって・・・・・・。」


・・・・・ちょっと、いじめすぎたかな・・・・・・・・・


頬を擦りながらそう思うと、ふ、と目についた本を一冊手にとって。


「ま・・・・・・せっかくだから、使ってやるか。」


床に放り出された、発端のその紙を拾い上げると―――・・・・・・・・


そのまま、誰も座っていないカウンターへと向かいだしたので、あった。







ちょっとした意地悪をしようと思って、代わりに頬へと返ってきた代償。



それは。



「帰ってから・・・・・またこれで遊べるな。」



結局の所、慎には全く堪えていなかったのだった。





そして、逃げて戻った久美子のほうは、というと。



「あれー?ヤンクミー!今日、なんか一杯首に巻いてねぇ?つーかそれ・・・ジャージと
あわねぇぞ。」


「う、うるせぇっ!いいんだよ、今日はあたしは寒いんだ!!!!!!!!」


首の上のほうにまで印をつけられていた為に、タオルをぐるぐると巻いて授業に挑む、久美子の姿が午後中あったと、いう。






意地悪の代償、それは。



どう転んでも、最終的には慎に有利に働くので、あった。



「・・・・ヤンクミ。首、どうかしたのか?」


「・・・・う、うるせぇぞ、沢田っ!!!」





*END*

**アトガキ。(又の名を言い訳)

ハイ、えー・・そんな訳で。前作"Conceal my heart."のその後、みたいな感じで書いた訳ですが・・・。その中に、さり気なく、よしの様からのリクエストを取り入れる・・というか、リクエストで書こうと思ったらこの話しになっちゃったといいますか・・・こんなはずではー!な話しになってしまい、よしのさんゴメンナサイ!(汗) えー・・えー・・・せっかくのお休み中なのにね・・しかも最終日にね・・UPでホント申し訳なかったです。ハイ・・。

ちなみに背景の薔薇ですが、一応意味はありまして。『熱愛』という意味で使いました。エヘ。

ええと・・・・。夜中にコレを書いたんで、ちょこっとだけ15禁のような気がしなくも無いですが、まあそんな所も本当に一瞬だけだし流して読めばわかんないと思うんで、禁指定無のお話しとなりました。次は・・次は・・・えー・・・・どうしようかなぁ・・。と、悩みツツ。色々と他の話し、頑張りマース! そんなわけで、ここまで読んでくださってありがとうございました!他のリクエストにつきましても、これから頑張りますVv リク下さったかた、ありがとうございましたv