[ 会いたくて。] |
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「ただいま・・・っと・・」 バタン・・ 言いながら、自分の部屋の扉を閉める。 「ぅわ寒ぃっ・・・!」 誰もいない、真っ暗な部屋。自分だけの部屋だから当たり前だけど――人気の無い、 しんみりしたその部屋の中。 「はぁ・・・・・・・・・」 バン、と持っていたバッグを投げ捨てて、着ていた学ランをハンガーにかけて。 ボスン・・・・・・・・ 慎は、ベッドの上になだれ込んだ。 「いち、にー、さん・・・・・・・」 仰向けに寝ッ転がりながら指折り数えていく―――久美子と、会っていない時間を。 『明日から研修旅行なんだ。』 ―――そう言って、出かけて言った、4日前。 「・・・・・・・あー・・・・・・」 腹の底から空しい思いが言葉になって口から飛び出してくる。 会いたい。会いたい会いたい会いたい。 会いたくて、たまらない。 出かけていった当日からずっと代わりの担任は藤山静香。 クラスの連中は喜んでいたけど、やっぱりどこか物足りなさを感じていそうだったのは・・・ 「・・・気のせいじゃねぇよな。」 あいつも、あいつもあいつも。ニコニコしてたけどどこかツまらなそうだった。 ――・・・お前に会いたいのが俺だけじゃない、って言うのもなんかむかつくけど。 「・・・・早く帰って来いよ・・・・」 ボソリ、と自然に言葉が漏れる。 こんなに人恋しくなるなんて、久美子を好きになるまでは知らなかった気持ち。 こんなに、会いたいと思うなんて。 こんなに、触れたくてどうしようもなくなるなんて。 「・・・あー・・・もう・・・・」 ゴロン。 仰向けの体を、横に向くように寝返りを打って。 「・・・・・ぃしょっ・・」 放り投げた鞄から携帯電話を取り出した。 「・・・・・・ねぇよな。」 ここ数日の着信履歴に、まだあいつの番号は入っていない。 「・・・・お前は淋しくねぇのかよ・・・っ」 いいながら、かかってきて欲しい番号が出た画面をビシッと指先で小突くと、そのまま――・・・・・ ピ ピ ピ・・・・・・・・・・・・ ―――――・・カチャ。 「・・・・・・・・・やっぱやめるか。」 かけようか、かけまいか。 声だけでもいいから、聞きたい―――・・・・・・・・・・ そう切望してるのは、自分だけなのか? そこまで思って、ハタ、と気付く。 「・・・・ったく・・・俺もホント・・・」 どんな時でも天邪鬼――――・・・・・・・・ 会いたいなら会いたいって、電話すればいい。 迷惑か迷惑じゃないかなんて、考えている余裕は無いはずで。 大体――――・・・・・・自分が思うほど、相手は迷惑してない事も多くて。 大抵は、むしろ喜んでくれる――――――― なんて。 理屈では分かってはいるものの。 「・・・・・これが掛けられねぇのが人の心理ってヤツだよな。」 かけようか。 かかってくるのを待ってるか。 カチ。 カチカチ。 カチカチカチ。 着信履歴をもう一度見て――― 一番新しい、かかってきたあいつの番号を画面に再度表示させて。 「・・・・・・・よし。」 やっぱり掛けようと決心をして、携帯の受話器ボタンを押した。 ――と。 ピっ。 「・・・・・・・・?」 受話器を上げる音がしただけで、その後の呼び出し音が聞こえない。 「あれ・・・・・・・・・・・・・?」 おかしい。なんで。 そう、思っていると。 『・・・・・・・・・慎?』 「・・・・・っ!!!!!!!」 一番聞きたかった声が、電話を挟んで向こう側から聞こえてくる。 ・・・な・・んで?もしかして、タイミングよく向こうから・・・・? ドキ・・・・・・・・・! タイミングのよさに、ドキンと心臓が跳ねる。まるで、初めて電話したみたいに携帯を持つ手が微かに 震える。 『もしもし?もしもーし??』 「あっ・・・!あぁ。」 『慎?』 「うん、そう・・・・・・・」 慎?なんて聞かなくても俺以外いねぇだろが・・・・・・・・・ にや、と口元が今日始めて緩んでくる。いや、この4日間の内初めてかもしれない。 今、なにしてるんだ、とか。 研修はどうだった、とか。 も、今、聞きたいことで頭は一杯なのに。 「お前・・・・・・向こうでも遅刻とかしてねぇだろうな。」 あ。やべ。また素直じゃない言葉が先に出ちまった。 『うわ・・一番最初の言葉がそれかよ。』 ちょっとばかり、呆れた声。 ・・・・だよな。俺もそう思うよ。 だから。 「なぁ・・・・・・・」 『・・・ん?』 ・・・・・ドキン。 久しぶりに聞いた久美子の声。なんかちょっと甘ったるくて、それだけでもうヤバイ・・ 「お前さ・・・この間、言ってたよな・・・」 『なにが?』 ・・もうヤバイから。だから、たまにはいいよな。 俺から――――・・・・・・ 「・・・甘えてもいいって。」 『・・・・・・!』 ちょっとだけ、ビックリして息を飲む感じが伝わってくる。 「・・・久美子?」 なんで、ビックリしてんだよ。俺がこういうこと言うの、意外か? 『・・・・・し、慎・・・』 ・・・・・・・何だよ。何。何。間が長いんだよ・・・・・ ―――早く言えって・・・・。 『・・・可愛いな、お前。いいよ。甘えて・・・・』 ・・・・・!!!!! フフ、と笑いながら言う、甘くて、甘くて、ちょっとだけいつもよりも大人っぽい――年相応の、声。 今の俺にはもう、厳しすぎる、その声。 ああもう。早くその声を耳元で囁かせたい――なんて、思ってることは・・・・まだ秘密にして・・・おく。 とりあえず、甘えてもいいとお許しが出たので―――この4日間、言いたくてたまらなかった言葉を、 言おう。 ・・言った後の、お前の対応がどう来るのか、楽しみにして。 「――・・会いたい。早く会いたい、久美子――・・・・」 『・・・・・っ!』 ガン! ・・・・・・・・ガン? 久美子の再び息を飲んだ声が耳元から聞こえた直後、玄関先で何かが落ちた音がした。 「・・・・・・・は?」 ドアの向こうに、誰かい――・・・・・・・て、まさか。 「おい、久美・・・・・・・・・っっっ!!」 パ、と受話器に再び意識を戻すと、既に通話が切れた音。 「・・・・・・・マジかよ・・・・っ!」 ガバッと寝転がっていた体を起こして。 ダダッと短い玄関までの道のりを転びそうになりながら駆けて。 ガチャン―――――・・・・・!!!!!!!!!!! 扉を、勢いよく開ける、と――――・・・・・・ 「・・・・・・っ・・・!!!」 顔を真っ赤にしながら口を押さえて、片手に荷物をもって――そして携帯を、廊下に落していた 久美子の姿。 「・・・・・!!!」 驚きで、声が出てこない。 じゃあなにか。今、俺が電話で言った事は――――・・・・・・・ 「あ・・・あの・・・・な?えっと・・・・」 みなまで言わなくても、何を口にしたいがためにドモってしまっている久美子の姿に思わず自分も 赤くなってきてしまう。 ・・・・・・・・・いいから。もう、言わなくていいから。 ・・・・・俺、すっげ恥かしいから・・・ 「・・・・・と・・とにかく、中入れよ。」 「あ、う、うん!」 慎の言葉に、久美子は戸惑いつつも、何とか入っていって。 再び、ガチャンと扉を閉める。 途端。 ・・・・・・・・・・ほっ・・。 安心した空気が、部屋一面に蔓延して。 さっきまでアレほど荒みそうになっていた心が、潤っていく。 ・・・・・・ったく・・。 今もまだある、自分の右手に携帯電話。 左の方には――――・・・・・・ 「・・・・・・・。」 顔を真赤にしながら、その場で佇んでしまっている、自分の、愛しい人。 ・・・・・・・やられた。 明らかに、分かっていて電話をしたに違いないその状況に。 恥かしさが、時間が立つごとに募っていく――――けど。 「・・・・・なぁ」 「へ・・・へっ・・・・・わっ!?」 その恥かしさを隠すように、その場に佇んでいた恋人を、自分の胸の中に強引に抱き寄せて。 「・・・・・お帰り。」 「・・・・・っ!」 言いたかった一言を呟いて、その欲しかった唇に―――自分の唇を、そっと重ねていく。 「・・・・・・んむ・・・」 体に電気が流れてきそうなほど、柔かい唇から熱が流れ込んでくる。 さっきまで寒いと思っていたこの部屋も、途端暖かい和んだ場所に変化する。 「・・・・・・っはぁ・・・」 唇を名残惜しげに離して―――目の前の、瞳を閉じてキスの余韻が残る表情を見詰めると、やっと。 ・・・・・なんか・・・・・・安心した。 心が、落ち着いてきた。 久美子の顔を見つめていると、そっとその瞳が開いて。 「・・・・・ただいま。」 ふわ、と笑いながら言ったその声色に。 久しぶりに見た、その笑顔に。 ドキン・・・・・・ 心臓が、また跳ね上がる。 情けないかもしれないけど――こんなに、目の前の相手が好きなんだと思い知らされた、瞬間。 ・・・・・・・なんか、俺だけ会いたかったみたいで悔しくねぇ? 「・・・・・なに、怒ってんだよ。」 フフ、と笑いながら言った久美子に、何故だか大人の余裕を感じて――悔しかったから。 「・・・・・お前に甘えたい。」 離した体を再び抱き寄せて、久美子の耳元で、低く、囁いてやる―――と。 「・・・・・・・へっ!あ・・!?」 途端、大人の余裕、なんてものはなくなって。いつもの、素っ頓狂な声が、自分の耳に伝わってくる。 会いたくて、会いたくて、会いたくて―――やっと、念願が叶った今夜。 ・・・・・・・いつまでもお前リードじゃ俺、情けねぇよな・・・・・。 でも。 今夜くらいは。 「・・・・なぁ・・・・・。」 「えっ・・・な、なに!?」 「・・・・甘えさせて、くれるんだろ?」 「・・・・っ・・・・・ぁ・・・ぁぁ・・。」 緩んだ頬はもう隠さないで、囁きかけた言葉。 「・・・・じゃぁ・・・今日はお前から愛して。」 「・・・・・・・っ!!!!」 無理かな、と思っても口に出た、甘えの言葉。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 「・・・久美子?」 暫く、無言が続いて――・・・・・・ 弱い力で、グ、と抱きしめていた腕を外されると。 ペタ。 真っ赤な顔をして、眉毛をへの字にさせた久美子が頬を包んでくる。 そして。 「・・・・・・・いいよ。今日は、あたしから――・・・・」 「・・・・・・・ん・・・・・」 言われながら、そっと自分の唇に、唇を重ねてきて――――・・・・ 「・・・・あっち、行こ・・・」 手を、とられて久美子の後をついていく。 ポス・・・・ そのまま二人でベッドになだれ込むと。 「・・・お前、今日可愛いな・・」 「・・・・バーカ・・・・・」 そう言いながら、久美子の口付が、降ってきた――・・・・・・・・・・・・ 会いたくて、キスしたくて、抱きたくてしょうがなかったこの4日間。 今日だけ。 やっと会えた、今日だけは――・・ 「・・・・んっ・・・ふぅ・・」 「・・・・久美っ・・・・・っはぁ・・」 ――――・・お前に甘えて、いいよな? 「・・好きだよ、慎・・・・」 「・・・俺も・・・・・」 見詰めあいながら、触れながら言い合う、囁き。 恋人の、特権。 そして、また明日から――――・・・・・・・・・・・ 「お・は・よ〜〜〜!!!!!!!!!!!!」 寝不足の頭にガツンと来る、元気のいいい声。 ホント、昨日の夜何やっても元気だなお前・・・・・・・・ 「おー!ヤンクミ久しぶりじゃん!」 「おはよーヤンクミ!!!」 「ちーっす!」 「・・・・・・・・・・はよ。」 「おっまえ、また職員会議遅刻じゃねぇのー!?」 誰かが言った、その言葉に。 「ぅわ、やべぇー!!!!!お、お、お前らも遅刻すんなよ!!!」 言いながら慌てて走っていく、その姿。 いつも通りの、その姿に―――フ、と頬が緩んでいく。 「・・・・・やっぱこうじゃないとな。」 ―――甘えたのは、昨日の夜だけ。 でも――――・・・・・・・・・ 「・・・たまには、アイツからもいいかな・・・」 「えっ?慎、何か言ったー!?」 「・・・・なんでもね。」 なんて不埒な事を思いながら、怒涛の日々が、また始まる。 「HR始めるぞー!!!!!!!!! お前ら席付け――!!」 *オワリ* |
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こ、更新できた・・・!よかたよー><! こんにちはこんばんは、アイコです。 今回は『会いたい』気持ちをテーマにチョコっと書いてみました。慎の情けなくも可愛い所を書いてみたかったので、久美子ではなくあえて慎で。でも、最終的にまた心情がよく分からない文になってしまっておりますが・・・(汗) そこン所は・・み、水に流してくださいっ; そして最後はやっぱりちょいエロ入る寸前を書きつつ・・その場面は想像をして下さい、と言う事で。エヘ。愛してあげる久美子も書いてみたかったんですー><; 情けな甘えた慎をちょっとでも感じてもらえれば、嬉しく思います><!ちなみに、今回頭に流れていたのは、プリンセスプリンセスの『ジュリアン』という曲でございました・・・。 それでは、ここまで読んでくださりありがとうございました!また、次回・・・・・! |