[バレンタインデイ・キッス]



「・・ふふふん♪ふふふん♪ふふふふ〜・・♪」


ドサ、とベッドに横たわる自分の横で、雑誌を捲りながら久美子が何かを口ずさんでいる。


・・・・すげぇ下手だな相変らず・・・・・


なにを歌っているかなんて、自分以外が聞いたら絶対に分からないほどの、音程。


「・・・・・・なにそれ。」


・・・ま、一応聞いてやるか・・・・


はぁ、とわざとらしく溜息をつきながら、お約束、とでも言う風に聞いてみれば。


「なんだお前、知らないのかっ?」


キランっ!


大きな瞳が音を立てて、自分のほうへ向けれられた。


・・・ったく・・・。


知らない、のではなくて。


本当は。


・・・・知ってて聞いてるンですけど・・


なんだけど。


「ふふっ・・・知らないんだっ」


・・なんて言いながら、雑誌から目を外して自分を見る楽しそうな久美子に、思わず立て肘を突いて、
魅入ってしまう。


・・・ほんっと、23歳には見えねぇよな・・・。


キョロキョロと動く、綺麗な瞳。いつも、自分の家にくるときには必ず外してくるから、
いつも見えるのだけれど。


・・・・見るたび、違う風に見える、よな。


瞳から視線を下に向ければ、綺麗な頬。化粧なんて本当にしているのか、とでも言いたくなるほどの、
白くてモチモチした肌。


触れば、プニプニして柔かくて―――――本当の意味で、食べたくなるほど、柔かい。


・・・一回、本当に食おうとしたら怒られたんだよなー・・・・・


・・当たり前だけど。


そして、もっと下にずらしていけば。


・・・いつもの俺の悩みの元・・・・・。


プル、と綺麗に桜色に光る、その口唇が目に入る。


今日も、そこから発せられた音で今の状態が起こっているわけだけど。


「・・・・・・・でな?」


「・・・・と、・・が・・・」


・・ふふ・・・・可愛い。


口をパクパクと開けたり閉めたりして、一生懸命説明する久美子の姿に、そんな小さな出来事なんて
すぐに忘れ去ってしまう。


「・・い。おーい。おい、慎!聞いてンのかよ?」


「・・・聞いてるよ。」


「・・・・そっか?」


キョト、として自分を見つめる姿も可愛くて。


どうかしたの、と自分に近寄る姿が愛しくて。


「・・・な。今の歌、声に出して歌ってみて。」


「・・ぅわっ・・・え!」


きゅ、と上に被さってきた久美子の腰を抱きしめて、そう言ってみた。


・・・ホントは俺、その歌知ってんだよな。


ニッコリとして、心の中でそう思う。


何で、久美子が明日じゃなくて今日もここに来たのかも、知ってるし。


何で、今日その歌を歌ったのかも、本当は、知ってる。


「・・・サビだけで、いいから。」


「・・・・えぇ・・恥かしいよ・・。」


ぽっと染まった頬を、隠すように自分の首筋に顔を埋めてくるから。


「・・・じゃ・・俺が歌おうか?」


意地悪に、甘くそう呟いた。


「・・・へっ・・・!お前、知って・・・!」


「・・・知ってるだろ、今は誰でも。この時期どこの店でもかかってるし。」


「・・・・〜〜〜!!」


・・・バァカ。


驚く久美子が、さらに自分の体に柔らかな身体を埋めてきたのを確認すれば。


「・・・・バレンタインディ・キッス・・リボンをかけて・・」


「・・・!!!!」


抱きしめたまま、そっと、呟いた甘い歌。


「・・バカァ・・・・・知ってて黙ってるなんて、ずるいぞ・・・!」


「・・・・知ってて俺の前で口ずさむお前もずるいだろ?」


「・・・・う・・!」


「・・・・最後は、なんだっけ?」


ニ、っと笑って最後のフレーズを促せば。


「・・・素敵にキッス・・・ぁ・・・・・っ・・!」


首に埋めた顔を、そっと目の前に持ち上げて。


「・・・慎・・・ぁ・・んん・・・・・」


チュゥ、っとその桜色の唇を、吸い上げる。


甘い甘い、2月13日の夜。


いつか、誰かが歌っていた、この甘くて可愛い歌。


歌のフレーズでは、明日が『特別スペシャル・ディ』――――だけど。


「・・今日から特別に・・するだろ?」


吸い上げた唇を名残惜しげに離して、目の前の柔らかな耳元に囁けば。


「・・・・!で・・・でもあたしチョコ・・・」


その言葉に、ポッと頬が更に熱をましていく。


・・・・バカだな。


「・・・・チョコレートだったら、目の前にあるから・・いいよ。」


「・・・・えっ・・?」


「・・久美子が、チョコ。・・・・俺に、くれるだろ?」


「・・・!!!」




初めて向かえた、甘い甘い、バレンタイン・デイ。




記念すべき、第一回目は――――――・・・・可愛い、歌にのせて。




「・・・なぁ、頂戴?」


「・・・・・・ぅん・・」




前日の13日から、スウィート・デイへと、変身したので、した。




バレンタインデイ・キッス―――・・恋の記念日・・・・・・・




vオワリv




えー・・すいません。まず壁紙が目に痛いです・・(汗) ってあんまり見えてない!? 今これを書いている私だけが痛いのかも・・・・(汗) と、ま、まあ!それはいいんですが!

思わず、『バレンタイン・キッス』 という国生さんの歌を口ずさんでいたら、あっ、いいかも、とSSSが書けてしまいました。変なところで書けてしまうものですね、人って・・・! でも、久しぶりに甘い気持ちで書けたので、なんだか嬉しかったです。 そして恐れ多くも久しぶりに、こちらのSSS・・・人様にお返しとして差し上げてしまいました・・・!スイマセン、突然・・・・(汗) うわ迷惑かも。いやでももう送ってしまったんで・・テヘ。

14日、恋人達の一大イベントですねー。いいですねー。片思いッ子にも一大イベントで。いやー・・・会社勤めの人には、なんて嫌な日なんですかね・・学校でもないのに妙な空気が社内に流れ・・そしてギリチョコが往来するという無駄な出費の日・・イヤイヤ。いつものお礼ですからね。でも廃止して欲しいんですけどね、そいう社内での風潮は(本音)。

そんな訳で、久しぶりに少し甘めのお話しでした。いつも、いつも、ココまで読んでくださってありがとうございました―!また、次回・・・・・・vv