[しあわせのカタチ。]



「なぁっ、これ可愛いと思わないか?」


「ん?・・・ん、そうだな。」


パラ、と雑誌のダイニング用品のページを捲りながら、夢中になって読みながら言う久美子の言葉に返事を返す。


昼間の日差がうららかに差し込む、もうすぐ夏がやってきそうなこの季節。


あと数ヶ月もすれば自分も卒業で、晴れて卒業すれば久美子との結婚も控えている、今のこの時期に雑誌を見ながらする話といえば、新婚家庭に必要な道具たちの話で。


どうする、どうするっ、と声を弾ませて言う久美子の姿がなんともたまらないくらい、可愛くてしょうがない。


来たる至福の時を予感させる姿に、思わず頬も緩んでいく。


と。


じっと久美子の弾む心を映し出す背中を見ていると、急に大人しくなってしまった。


・・・なんだ?


さっきまで、うるさいくらい騒いでいたというのに。


どうしたんだろう?


「・・・久美子?」


もしかして、急に自分との結婚生活が嫌になったんじゃないだろうか。


―――なんて。


まだ結婚もしていないのにバカな考えが少しだけ頭によぎったから、座っていた場所からそっと久美子の後姿に向かって言葉をかけながら近づけば。


「・・・・ふふ。可愛いよね、赤ちゃん・・・」


「・・・・・ん。」


ハラっと捲ったページの次にでもあっただろう、その記事にジッと視線を落として、優しい表情で写真を見る久美子の姿が目に飛び込んできた。


それは、とても優しい表情で。


まだ、母親にもなっていないのに、それはもう母親の顔で――――


・・・すげぇ、不思議・・。


男には理解できないその心理が、久美子にもちゃんと宿っていたのに不思議な気持ちになる。


性別が違うだけで、他人の子供に対してもこんな優しい顔を向ける事が出来る不思議。
世の中の母親の強さを、久美子の中にも見た気が、した。


気がした、けど。


・・でもさ。


ちょっと、早いんじゃねぇ、それ?


「なぁ・・・」


そっと、後ろから目の前にある小さな身体を抱きしめる。


「わっ・・・なんだ、こっち来てたのか。どした・・?」


一瞬ビックリして肩越しに自分へ振り向いた久美子のおでこにチュ、っとキスを落して、そのまま甘えるように首筋に顔を埋めていった。


「久美子・・・今、子供欲しいんだ?」


「えっ・・・!」


ぶつけた質問で、重なった久美子の心臓がドッキンと跳ね上がって体温が上昇する。


「んん・・・・ほ、欲しく無いって言ったら嘘になる・・けど・・慎は、その・・・子供、欲しくない・・?」


「俺・・・?」


「・・うん。」


「・・・・・欲しくない。」


「えっ・・・!」


「――なんて、嘘。」


そう、欲しくないなんて言うのは、うそ。


・・・だけど。


まだ、新婚生活も始まってないし。


それに。


それに――――――


「・・・・俺、子供に久美子をとられたくねぇ、まだ。」


・・って言うのが、本音だし。


「・・・へっ・・?」


呟いた自分の言葉に、久美子があっけにとられた声を出す。


「と、取られるってお前・・・・自分の子だぞ?」


コノヤロ・・・声震えてんだよ。


多分どころか、絶対笑いたいのを堪えて言う久美子の声に少しだけムッとしてしまう。


・・だってしょうがねぇじゃん。


結婚してすぐ子供産んだら、絶対俺放っておかれる気がするし。


『子供が先だろ?』


・・って。絶対ぇ、こいつなら、言う。


だから、今はまだ、欲しくない。


と。


本音の本音を小さく耳元で呟けば。


「お前、ほんっとバカだなぁ・・・・あははは・・・っ」


ギュ、と抱きしめた腕の中で、久美子が笑い転げて、収拾がつかなくなった。


・・・ちきしょー。


こいつのこう言う素直な所がたまにカチンと来るんだけど。


でも。


そう感じられる今が、すげぇ、幸せなんだよな。


だから、強く出られるわけなんて、無いんだ。


結婚する前から俺って――――――・・・・・・・


・・尻にひかれてるよな、ホント・・。


「・・いい加減笑いすぎだろ、それ・・・」


ムッとした声色を隠さずに久美子を正面に向かせて抱きしめなおせば。


「・・・っと・・もう、可愛いなぁホントお前は・・・」


ぐりぐり、とまるで高校生と担任教師に戻ったように、頭を両手一杯に撫でられてしまった。


「可愛いって・・・男に言うセリフか、それ。」


「ん?だってしょうがないだろ?本当に可愛いんだから・・いいよ、大丈夫だよ、まだあたしも子供はいらないよ・・・」


「・・なんでいきなり。」


「だってお前、あたしの目の前にこーんな大きい子供がいたら・・・いっぺんに二人も面倒見れないだろ?大きい子供が少しだけ大人になったら、考えようかな?」


ふふ、としてやったりと言ったようなイタズラな言葉で返されれば、ハッキリ言って完敗なわけで。


「・・・・・ヨロシクお願いシマス。」


「ん、よろしい、よろしい。」


・・なんて、言うしか自分に選択肢は、残されてないのであった。




幸せはいつでも、どんな時でも転がってるんだ。


今日の幸せは明日にも繋がっていて、その明日の明日の明日も――――・・ずっと、繋げていけば。



『おめでとうございます、お父さん!』



・・って。


そう言われる日まで、ずっと、ずっと続いていける。




だからさ。


子供・・出来ても、出来るまでも。


俺の事構ってくれよ?




なんて、また呟いたら。


「あはっ・・・バカ、もう・・・。当たり前だろ?あたしは慎を・・愛してるんだから。構わないでいられる日なんて、無いよ・・・」



そう言いながら、今度は久美子から抱きしめてきて、くれるのだった。



来たる日は、すぐ、そこに。


幸せも、すぐ、隣に。



その日まで、こんな風に新しい生活の事を話しながら、じゃれながら、過ごしていこう、な?



「・・でさ、あたしはもっとこう言うのが・・・」


「んー・・・俺はどっちかって言ったら・・・」



取り留めのない会話、普通の日常。



それは。



幸せの、証。



「あたしはこっちがいい!」


「お前ばっかりで決められる事じゃないだろ!」



・・・たまには喧嘩も。



二人の、幸せの、カタチ。




*オワリ*


いつも遊びに伺っております、七生ちゃんのサイト様1万HITお祝いに捧げさせていただきました品ですv リクエストとはちょっとあの・・ええ、か、掠ってる?ぐらいの出来なんですが・・!ごごごごめんはい・・・!『雑誌を見ながら新婚生活など子供の事を交えて未来をラブラブに話し合う二人』というのがあのそのリクエストだったわけなんですが、子供・・の事だけ掠って・・ま、ますですか。てへへ。っていうか子供が慎になってるあたり思惑から180度ずれてるし!みたいなネ!(滝汗

七生ちゃん、本当にカウントオーバおめでとうございますvこれからも、ぜひぜひ通わせて頂きますので、無理せず七生ちゃんペースで頑張って下さいv応援してます〜〜v

そして、ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございました。やっと当初の頃の様に18禁じゃない作品が書けるようになりました。どうぞ、これからもよろしくお願いしますvでは、ではまた・・v