【始まりの予感】 |
「またあえる?」 「きっと・・」 ―――ハクと千尋がその約束をしてから、すでに5年が経とうとしていた・・・。 「千尋―!!早く、早く〜!!」 「わぁっ!!待って〜〜!」 千尋は今年で15歳。4月に高校に入ったばかりの高校1年生。いつも、近所から 通っている友達と登下校を共にしていた。 「ね、ね、千尋聞いてっ!私ね・・・・」 その友達も最近好きな人が出来たといって、朝も帰りも話題に上るのは好きな人の ことが比重を大きく占めていた。 ・・・・好きな人、か・・・・・。 『きっと・・・』 いつもこの言葉が頭の中をリフレインする。 きっと、っていつなの・・・。もう、あれから5年も経って・・・・ハクはもう、忘れちゃったのかな・・ 「千尋?千尋ってば〜〜??」 「あっ・・・なーに?」 「もう!だから、今日ね〜、山下君と一緒に例の森の中に行こうと思うんだけど、千尋も行かない?」 「えっ・・・・」 例の森・・・そこは、千尋と両親が迷い込んだ、あの森のことだった。地元の人たちは”神隠しの森”と呼んで、誰も近付くことの無い禁域・・・。 むろん、千尋はトンネルの入り口まで何度も行ったことはある。が、あそこに行くのは誰かとではなく・・・1人で。行くのなら一人で行きたかった。 「ね〜〜?行こうよ!ね、ね??」 「・・・・・すぐ、帰る?」 「やだ、千尋ったら怖いの〜?いいよ、すぐ帰るから!いこ!」 「うーん・・・分かった。」 「やったーv」 そうして、千尋と友達は神隠しの森へと行く約束をしたのだった。 ** 「うっ・・・・やっぱり、ここ怖いねぇ〜」 「・・・・・・・うん・・・」 午後8時。千尋たちは森の入り口で待ち合わせをして、恐る恐る森の中へと足を進めていく。 ドキドキドキ・・・・・ どうしたんだろう。なんで、今日はこんなに胸が高鳴るの???いつもと、変わりないのに。 森に入った瞬間、千尋は胸の高鳴りを抑えきれずにいた。まるで、何かの予感を体が感じ取っているように。 「・・・ね、千尋・・・私ね、ここで告白しようと思うの・・・」 「えっ・・?」 コソコソと友達が千尋に耳打ちをしてくる。 「だからね・・・ちょっと、2人きりになってもいいかな・・・・」 大切な友達のお願いを断わることなんて千尋はするわけがなく、一も二もなく「わかった」と返事をすると、千尋はスッと道をそれてあの石造の前までテクテクと歩いていった。 「うわ・・・・綺麗なお月様!」 上を見上げると、空には真ん丸く輝いている綺麗な月夜空。周りには電灯なんてないため、煌々とその明かりが千尋と周りの景色を照らし出す。 ドキドキドキ・・・・・ 相変らず、胸の高鳴りが収まらない。 なんでだろう?綺麗な月夜空だからかな・・・・・・。 10分くらいその場でボーっとしていただろうか。ふと目をトンネルに向けると、入り口のあたりに何か光っている物が落ちているのを千尋は発見した。 「あれ・・・??何だろう・・・」 タタっと千尋は入り口まで駆けて行き、その『光る物』手にした瞬間、ブワっと光と風が千尋の周りを取り囲んだ。 「きゃーーーーー!!!!??? なっなに!!??」 「・・千尋・・」 「えっ!?」 何処からか自分が呼ばれたよう(泣)がする。でも、その声の主は何処にも見あたらない。 「千尋・・!」 「・・・・・・・・・・っ!!!」 遠い昔、聞いたその声。ともすれば、忘れてしまいそうな時もあったその愛しい声。 「・・・・・ハク!」 「千尋・・!」 「何処にいるの、ハク!?私、ずーっと待ってたんだよ・・・・!」 キョロキョロと、包まれた風の中を見渡してもハクの姿は何処にも無い。不安を感じつつも、千尋はハクの姿と声を探し続けた。 「ごめん・・・今はまだ、千尋の世界へは行けないんだ・・・私も、ずっとそなたのことを想っていたよ・・・・」 「ハクっ・・!! 会いたい・・会いたいよっ・・・!!!!」 ギュウっと千尋は掌を握り締めると、フト手の中に何か握っているのを思い出した。 「あれ・・これ・・・!?」 手の中にあるのは、ハクの銀色の鱗。トンネルの入り口に落ちていた者は鱗だったのだ。 「それはね、千尋。私の一部なんだ・・・今、私はそなたの世界へは会いにいけない。けど、そなたはそれを持っていれば・・・この世界と向こうの世界を行き来できるように私がまじないをかけたんだよ。」 「ほんとっ!?」 「あぁ、本当だよ・・だから、千尋・・・」 「行くっ・・・・!!私、ハクに会いに行くからっ・・・・!!!」 「嬉しいよ、千尋・・けど其れには一つ難点が・・・・・・・から・・・・気・・・・・付けて・・・」 そう、ハクが何か大切なことを言おうとしたとき、鱗にかかった魔法が切れ始めたのか途切れ途切れにしか声が聞こえなくなってくる。 「え!?何、何て行ったのハク!?聞こえないよ!!」 「・・・・から・・・・・1・・・・・!!」 ゴォォォォ!!!!! ハクの声が良く聞こえぬまま、千尋の周りにあった光と風は、周りに四散して消えてしまっていた。そして、それと同時にハクの声も聞こえなくなってしまっていた。 「1・・・・・!?なに、ハクー!!!!それってなんなのぉー!!??」 まだ聞こえるかな、と思い千尋は大きな声で叫んでみるが、空しく声は空に突き抜けるばかり。 また、辺りには月の光と共に静寂な空気が舞い戻ってきていた。 「ハク・・・・肝心な所をいっていかないなんてズルイ・・・!」 ぷぅっと頬を膨らましながら千尋は手の中にある銀の鱗を見て、今遭ったことは夢じゃないんだと、嬉しくてまた胸が高鳴ってくる。 「また・・・会えるんだ!また・・向こうの世界に・・!」 ドキドキとした胸の高鳴りはこの事を予感していたんだと千尋は後から思いつつも―――― 別れてからずいぶん経つだろう友人の下へと、千尋は弾む足で戻っていった。 ** 「あれー?千尋、なんかあったの??」 「えっ!?なんで!?」 ニヤニヤと頬か緩んでいるのがばれてしまったのだろうか。 「なんか、嬉しそうだから。あ、わかったー!」 「えっ!?」 「今日、綺麗な満月だもんねぇ・・・。」 「え?」 「お月様=お団子のこと考えてたんでしょっ!!もう、千尋ってば色気より食い気、なんだから・・」 「はは・・・は・・・・・」 千尋は引きつった笑いをしながらも、ばれてないとホッと胸を撫で下ろした。そして・・・ いつ、会いに行こうかな・・・・ 本当は今すぐに行きたいけど、まだ学校のことがある。それに、ハクが言っていた聞こえなかった内容も気になる。あと少しすれば夏休み。千尋は、夏休みに入ってからすぐに会いに行こうと硬く決心したのであった―――――――――――――――――。 |
FIN. |