【2】




「ハ、ハク様!お疲れ様でございます!」

「今日の名簿はどうした?」

「はい、ここに・・・・!」

ハクがいつものように客名簿に目を通した途端、湯殿の方で「わぁっ!」と歓声が上がった。


「・・・・・・何事だ。」

ハクは思い切り不機嫌な声で父役に問い掛ける。

「あ、ああ、なんでも千とリンが・・・・」

「なにぃ!!」

ガタン!

名簿をほっぽりなげて湯殿へ急いで向かうと、そこには案の定よし!っとガッツポーズをとるリンと、目をキラキラと輝かせた千尋の姿が目に入った。


――遅かったか・・・!


「すっごぉぉぉい!!!リンさん、本当に凄い!」

千尋が嬉しそうに声を上げる。

「そうかぁ?お前が何も出来なさ過ぎじゃないのか〜?」

「もう!リンさんの意地悪!!」


それは何も思わないギャラリーから見てみればただの軽い言い合いで。しかし、今の余裕のないハクにとって見れば――


・・・・・仲睦まじく話し過ぎだっ・・・・!!!!


と、どうにも邪まな想像にしか行き着かないのであった。



「千尋!!!」

「へっ?ハ、ハク・・・様!?」

居ても立っても居られなくなったハクは、ずんずんと千尋の方へと歩み寄っていく。

「こっちに、来なさい。」

「え??な、なん・・・・・・・きゃ!」

グイッと千尋の腕を掴み、どこかへ連れ去ろうとしたその時、逆方向から新たな力で千尋を引っ張られてしまい、ハクは足を止めざるを得なかった。

「リ、リンさん!」

「ったくよぉ・・・・・うちのお姫サマをどこに連れて行くつもりですか、ハク様?」


不敵な顔をしてリンがハクに責め立てる。加えてお姫サマ、と来たもんだ。流石のハクも、そこまで言われちゃ黙っていられない。なにせ、千尋は自分だけの『姫』なのだから。


「私が千尋をどこへ連れて行こうが私の勝手だ。そなたはおとなしく仕事をしていろ。」

「はっ!何言ってるんですかい!あたしと千尋は二人三脚で仕事をしているんですよ!かってに連れていかれちゃ困りますね!」


このぉ・・・とハクは思ったが、ふと見た千尋の表情にハッとした。


「リ、リンさん・・・!」

キラキラと潤んだ瞳でリンを見上げている。彼女にとって自分が本当の騎士(ナイト)のはずなのに、なんだか悪者になった気分だ・・・・・


「ちひ・・・」

「ハク様。皆、困ってます・・・私なら後で伺いますから、今は手を離して貰えませんか?」

「!!!!」


ガ―――ン!! 手を離して貰えませんか・・・手を・・・・

千尋の言った言葉が、頭の中に何度もリフレインしてハクは大打撃を受けてしまった。

スルっ。

打撃を受けたことで、ハクの手が緩んだのか千尋はタタっとリンの方へ駆け寄っていってしまう。

「千!お前よく言ったな!偉いぞ!」

「あ・・・だって、お仕事あるし・・・・」


リンはしてやったりといわんばかりにニヤッとハクに笑いかけると、そのまま「じゃぁ仕事すっか!」と担当の湯殿へと二人で歩いていってしまった。




「ハ、ハク様・・・・」

周りの従業員達が立ちすくむハクに声をかける。

「フ・・・フフフ・・・・これで勝ったと思うなよ、リン・・・・・」

「ひ!」


聞いてはいけないものを聞いてしまった――――父役をはじめ、周りに居た従業員達は身の危険を感じて、じりじりと後ずさりをしながらその場から離れていこうとする・・が。

「父役っ!これは一体どういう事だ!!!」

「は、はいぃ!!!!」

やはり父役を筆頭に、まずはハクの八つ当たりを受ける羽目になってしまうのだった・・・。






そして。




「うぅ・・・ち、千尋ぉ・・・・・・」




今日もハクの悪夢は続くのであった。



悩み無用になるのはいつの日のことになるやら・・・・。









(おまけ)




コンコン

「ハク、居る〜・・・・??」

すっとハクの自室に入る一つの小さな影。いつもとは違い、既にハクの部屋の明かりは消えて、苦しげな寝息だけが聞こえてくる。

「あ・・・もう寝ちゃったんだ・・・・・・」

入ってきた影の正体は、昼間冷たい態度を取って気にして自室まできてしまった優しい少女・・・千尋であった。


「・・・・・・ぅう・・・・・」


そんなこととは露知らず。ハクは今日も千尋が去っていく悪夢を見続けている。


「・・・・嫌な夢でも見てるのかなぁ・・。あ・・そだ・・・」

周りに誰もいないとは分かっていても、千尋はキョロキョロと辺りを見回して―――

「・・・・・・ん、しょっと・・・・・・」

カサッと一緒の布団の中に入り込み、ハクの拾い背中ごときゅうっと抱きしめる。

「ハクがもう嫌な夢を見ませんように―――――おまじない・・・」

「・・・・・・ぅ・・・・ん・・・・ちひ・・ろ・・・・・」

「・・今日は冷たくしちゃって、ごめんね、ハク・・・」


小さくうめいたハクにそっと寄り添って、千尋はハクが起きてビックリするその時まで、一緒の布団で眠りについたのだった。


そのうちに、ハクの寝息も苦しげなものから正常なものへと変化して―――

「千尋・・・・」

幸せな寝言を洩らしていた・・・・・・・・・。



――訂正。悩み無用になるのは、そう遠い日でもないらしい・・・・すでに、一つ解消されたのだから・・・・・後は。



「リン・・・・覚えていろ・・・・・・・・」


ハクと千尋しか居ないその部屋で。ハクの本気の寝言はどこにも誰にも聞かれぬまま、空気の中へと消えていき―――明日も、千尋を巡って攻防戦が続くのであった。














*おわり*




あ・・・あれっ?最初はこんな風にするつもりは・・・(汗)いつの間にか、
ハクが可哀想な役回りになってしまいました(笑)でもまぁ、
いっつも千尋虐めてるからいっか(笑) リンの逆襲、つことでvv
ちなみに、この題名を書いてる時、某CMの"リー●21〜♪"という
音楽が頭を回っておりました・・そう、今も・・・・・・・・・・(爆)



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