【2】

コンコン。

「し・・失礼いたします。」

さすが白蛇の神様と言うだけ合って、かなりの上客らしい。ハクによって案内された部屋は、豪華絢爛としか形容のない煌びやかな部屋だった。

「よい。はいってまいれ。」

カラカラと軽い音を立てて千尋は襖を開けると、正座になりきちんと挨拶をしようとした。


「い・・いらっしゃいませ。千と申しま・・・・」
「よいよい。お主のことはよぅく知っておるわ。ささ、何を遠慮しておる?我の方へよってたもれ。」
「はぁ・・・」

まるで麿のような話し方が似合うのか、それともミスマッチなのかよく分からないほど、白蛇の神は千尋から見ても美青年だった。

わー・・・綺麗な人―・・・女の人みたい・・・。

とり合えず行かないと、とスッと立って、神様の元へ行こうとする千尋の肩をぐっとハクが押さえ込む。

「ハッハク様?」
「お初にお目にかかります、白水阿蘇那岐様。ここの帳場係を勤めます、琥珀と申します。以後お見知りおきを・・・」

丁寧な挨拶ながらも、密かに棘を感じさせるような物言いに、千尋はハラハラしてしまう。

ハクってば一体どうしちゃったの??

そんな千尋の心配をよそに、ハクは続けて言葉を発する。

「この度は当従業員の千をお呼びになったそうで・・・・なにか粗相でもいたしましたでしょうか?」
「いや、粗相などしておらぬ。ただ、私は千と知り合いなのでな・・・久しぶりに会うて見たくなったのよ。な、千や。お主は覚えていないかもしれんが、私のほうはよーく覚えておるぞ。あの日の『約束』も忘れてはおらぬぞ?」

ニコニコとしながら白蛇の神は千尋に向かって話し掛ける。

「え・・えと・・・」

約束・・・?千尋の頭にはクエスチョンマークが羽をつけて飛び交っている。
なんだろう、その約束って・・・。私、こっちに来た時そんなのしたかなぁ・・・。

一方、それを見て聞いていたハクの方は、すでに怒りで周りが目に入らなくなりつつあった。

「恐れながら白水阿蘇那岐様。どちらで千と知り合ったのでしょう?千は湯屋より出るのを禁じられているはずなのですが?」

少し荒げた口調で神様に問うハクは、キッと目を見据えたまま片手は千尋の肩を掴むのを忘れてはいない。

それを見て白水阿蘇那岐の神も面白いものを見るように応戦してきていた。

「何も、この世界で知り合うのが常とは限らんだろう、琥珀よ?我はな、こちらでは会うとらん。千の世界で会うたと言う意味で言ったのじゃ。」

千尋の世界・・・・なんだって!!?? どうして千尋とあの世界とで通じることが出来るんだ!

「ともかくな・・琥珀はそこで待っておれ。千や、此方においで・・約束を記した紙を見せてあげよう。」

待っていろと言われた瞬間、ハクの周りだけに薄っすらとした壁が出来たのが見える。決壊を張られたのだった。

「なっ!!!!」
「きゃぁ!!!」

千尋は白蛇の神がハクに結界を張った直後、ぐぃっと不思議な力で神の元へと引き寄せられる。

「千・・・いや、千尋や。これを見て見なさい。なぜ、私がそなたをしっているか分かるであろ?」

カサリ、と千尋の手の平に白い小さな紙が置かれる。そして、その紙を開いてみると・・

「あっ・・・・」

千尋は、何か思い出したかのように小さく声をあげた。

「あなたは・・・・」
「思い出したかえ?そなたの願い事、しかと叶ったか見に来たのじゃ。しかし、この様子だと・・・あながち叶ったとは言えんかもしれんのう・・・はははは!!」

白蛇の神がおかしそうに笑った途端、ハクの周りに張ってあった結界がバチン!と大きな破裂音を出しながら四散した。

「白水阿蘇那岐様・・・これ以上お戯れなきよう・・・・」

いきなり結界を張られたのと、目の前で2人の仲良さげなシーンを見せ付けられたのでハクの怒りは頂点に達してしまっている。ズカズカと、千尋の方によってきたかと思うと、グイッと自分の方へ引き寄せた。

「これは、私の想い人ですので・・では、失礼致します。」
「きゃ!あ!神様!!ありがとうございましたっ!!」

バターン!!!!

千尋が最後の言葉を言い終わった瞬間、白蛇の神がいる客間の扉が大きな音を立てて閉められた。

「くっくっく・・・・琥珀・・・白龍も、まだまだ子供よのう・・・・あれくらいで嫉妬の念を抱くとは・・・・千尋も、苦労するだろうて・・・・まぁ、またからかいに来てやるとするかな」






白蛇の神がそう楽しそうに呟いていたころ、千尋はすごいスピードで進んだハクに、ハクの部屋へと連れて来られていた。

「千尋。どういう事か説明してもらおうか?」
「えっっと・・・・」

ジリジリとハクは千尋を後ろへと追い詰めていく。

「あの紙はなんだったんだい?何をあの神に願ったのだ?」
「あー・・・う・・・」

パッと千尋が白い紙を後ろに隠したのをハクが見逃すはずはない。隙をついて、パッとその紙を千尋の手から抜き去った。

「あーーーーーー!!!!!!!見―――ちゃ――――ダメぇぇ!!!!!」

千尋が大きな声でそう言いながら奪い返そうとするのをハクは魔法で押さえつけると、そっと紙の中身を確かめてみた。すると、そこには・・・・


『白蛇様。お願いします、不思議な世界にいるハクにもう一度会わせて下さい。ハクに会いたいんです。もう一度でいいです。お願いします、お願いします。ハクは私の、・・・・・・・』


後の方は掠れて見えなかったが、ハクの目にしっかりとその言葉が焼き付けられた。

「わぁーーーっ!!きゃーーー!!何も聞かない!!ハクの馬鹿!ハクの馬鹿馬鹿馬鹿!!!!」

その内容に暫し感動で固まってしまったハクだったが、千尋の恥かしいとでも言う声にハッと意識を戻す。

「ち・・千尋・・・・」
「やだやだっ!!何も聞かないもん!!」

恥かしさのあまり、顔を真っ赤にしてブンブンと千尋は首を振る。その千尋の仕草の可愛さに、ハクは後ろから千尋をギュ―っと抱きしめた。

「っハ、ハク!!」
「千尋、ありがとう・・・向こうの世界に帰ってからもそなたは私を想っていてくれたのだな・・・」

その言葉に千尋はピタ、と照れのための動きを止める。

「そっ・・そんなの当たり前・・・でしょ!ハクのこと、忘れた日なんか・・なかったよ?」

千尋は真っ赤になりながらも、大事な気持ちを素直にハクに告げた。
そして、次の瞬間それを後悔することになる―――


「そうか・・そこまで、そなたが思っていてくれたならば、会えなかった分まで今夜は愛してあげないとな?」
「え!?いっ・・・いい!!!会えなかった日はいつも神様にお祈りしてたし・・そ、それに今でも充分だし!!」

千尋は間接的な言葉で断わるつもりが、さらにハクに油を注ぐこととなった。

「毎日、祈っていたのだね。それは・・・・お仕置きだな、千尋?」
「えっ・・!?」
「例え神であろうと、私以外の男の神に祈るなんてことは二度としないように、お仕置きだ。それに、知り合いだったと思い出さなかったこともね。」
「えーー!? や、やだ!!謝るからっ!ハク、ごめんなさい!!」

パパっと謝り、その場から逃げるように部屋への出口へ急いだ千尋だが、そんなことをハクは許すはずもなく――


「無駄だよ、千尋。さ、こっちへおいで・・・」
「きゃぁ!!!や、や――だぁぁぁ――!!!」




フワッとハクの魔法で引き寄せられた千尋はその日一日中、悲鳴の代わりに甘い声をあ
げさせられたと言う・・・・・・・・・。




そして、次の日痛みできしむ体をさすりながら、他の客に呼ばれても必ず男か女か確かめてから行くのを承諾しようと思った千尋であった。



お仕置き・・ハクは仕置き人です(笑) 書きたいことの半分も
書けなかった・・・皆様、?と思う所が一杯のことでしょう(汗)



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