【Starting One Life】




「ちひろ、憶えている?」


スッと取り出したハクの手の平には小さな子供が履く靴が乗っかっていた。


「これ・・・・!」


あっ、とした顔を千尋はすると、すぐにハクの方へと向き直った。


「そう、あの時の靴だよ、千尋。」


「ハクがもっててくれたんだ・・・」



それは、千尋がこはく川に落ちた原因となった、自分のピンク色の靴。


「これはね、私が名をなくしていた時から持っていた物だったんだよ。なぜだか分からないけど・・とても大切な物だと思っていた。・・5年前、そなたに名を取り返してもらって更に大切な物だと分かった・・・」


ハクは優しく笑い千尋の肩を抱きながら、ずっと千尋に伝えたかったんだ・・・と真剣な眼差しを向けた。


「ありがとう・・・ありがとう、ハク・・!私――・・私、ハクのこと・・・!」


千尋の言葉がすべて紡がれる前に、ハクは千尋の唇にしぃっと人差し指をあてる。


「そこから先は・・私から言わせておくれ・・千尋。私は、そなたのことを大切に思っている。何よりも、愛しい存在だと。だから・・・ずっと、傍にいて欲しい・・・・千尋?」


ハクの愛の告白に、千尋の瞳からは大粒の涙が溢れていた。


「っ・・・ハク・・ハク!ハク!!わっ・・私も、ハクが好き!大好き!離れたくない・・!!」


涙を零しながら、千尋はハクにギュウっと抱きついた。そして、ハクもきつく抱き返した。




―――風がそよそよと吹き、空はもうすぐ夕焼けに染まろうとしている刻。もう少ししたら湯屋での仕事が始まる・・・。



2人は、暫く抱き合うと互いにクスッと笑いあい、手を繋ぎながら湯婆婆の支配する湯屋へと戻っていった。



――5年前は、湯婆婆に支配されていたハク。でもその呪(しゅ)も同じ時に千尋が消し去ってくれた。すでに、ハクは支配下にはない。



――5年前は、何も分からない、何も出来ないただの臆病な子供だった千尋。でも他人への愛を知ることで、何倍も成長を遂げた。それはすべて、ハクと言う存在がいたからこそ。千尋の心にはすでに迷いの思いは微塵にもない。



手を繋ぎながら橋を渡り、そして互いに力を分け合って―――今日も、油屋での忙しい日々が始まりの合図を告げた――



「「いらっしゃいませ――――!!!!!」」





(完)




なんだかしっとりとした短いお話が書きたくなったので・・。
そして、初めてでしょう・・ホワイトハク様でありました(笑)


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