【2】


「なんだって・・・・?」


努めて明るい声でハクを呼び止めたリンは、ブスっとして機嫌が悪いハクに気後れしつつも何とか話を切り出した。



「だ、だからよぉ。その、この間千に切り出した話あるだろ?それなぁ・・千の奴が困って俺に相談してきたんだよ。」




この間切り出した話・・・・・??この間の話とは何だ??千尋が切り出された話とは一体なんなんだ?



ハクの頭の中にはクエスチョンマークが乱舞していた。それもそのはず、千尋はハクにこの話があったということをしていない。言えばきっと、自分の身が危ういとでも考えたのであろう。



そんなこととは露知らず、リンは益々話を先まで進めていく。



「俺に何処まで言わせればピントが合うんだよっ!このトンチキ野郎!!!!求婚の話に決まってんだろ、きゅ・う・こ・ん!!!!」



「求婚!!!!?????」



『求婚』・・・・・リンが一字一句区切っていった言葉。ハクは豆鉄砲でも食らったかという風に同じ言葉をリンに返した。



「そうだよ、お前、一昨日千に求婚したんだろ?千の奴、そりゃー困って俺に相談してきたんだぜ?まぁ、詳細は千から聞いてくれ・・・・・て?オイ、なんだよ?」


クルっ。


リンは肩に置かれた手の感触にハッとして後ろを振り向いた。




「・・・げ・・・。」



「千が、求婚されたというのは・・・まことか?」




振り向いた先には、さっきまでの不機嫌さとは比べ物にならないほど黒いオーラを身に纏ったハクの姿。



や・・やべぇ・・・・この策、逆効果だったか・・・??



しかし、ハクに負けじと劣らず(?)トンチンカンな答えを出してしまったリンは、更に墓穴をほっていく。



「ああ、"まこと"に決まってんだろ!て、お前自分で言ったこと覚えてねーのかよ!」



「私は千に何も言っておらん。」



「だろ?何も言ってないだ・・・・・・・あぁ!?何も言ってない!!??」



何も言っていない・・そう、ハクは告げた。リンは、確かにそう聞いた。



や・・やっべぇ・・・・これは、もしや―――


思いがけないハクの言葉に、リンの頭は急速に回転を始める。


ハクは言ってない。つまり、求婚したのはハクではない。ここまではいい・・・が、問題はそこではなく・・・・・ハクは、千が求婚されたのを知らなかった。つまり――千が、故意にハクへは言わなかったということであり―――



「やべぇ・・・」



ポソっとリンは口に出して呟いてしまう。



てーこたぁ、俺はすっげぇまずい事をやらかしてしまったんじゃねぇのか!?その証拠が・・・・あいつの、あの凄まじいまでの黒いオーラ・・・



ポンっ


もう一度、肩に手を置かれた感触でリンははっと我に返った。



「あ。」


目の前には、ニッコリと冷笑を携えながら自分を逃がさぬように肩を掴んでいるハクの姿がそこにあった・・



やべぇやべぇやべぇやべぇ!!!!



「あ、わりぃ!俺、用事思い出しちまったから部屋戻るわ!お前も、今のこと忘れてくれな!な!んじゃ・・・・う゛っ!!!」



「・・・・逃がさないよ、リン。一体、今言ったことはなんなのかハッキリと教えてもらおうか?千がどうしたって?求婚がどうしたって?私は、千尋になぁぁぁぁんにも聞いてないものでね。・・・まさか、私に教えられぬことだとは言うまいな、リン?」



こ・・・怖え・・・・・・・悪い、千――――!!!!!



ハクの脅しにすっかりと怯えあがってしまい、リンは洗いざらいハクへと話してしまったのであった。











そして、女部屋を出て数刻後――――リンは再び千尋のもとへと戻ってきた。青ざめた顔をして。




「あ、りんさん!!!どうだった?分かってくれた??」



千尋は何も知らずに期待に輝かせた目をリンへと向けた。



はぁ・・・・・・・とため息をつきながらリンは先ほどあった事を千尋に話だす。



「あのな、千が言ってた相手って・・・・」



「ん??白水様だよ。白蛇の神様・・・・・」



「か、神様だったのか・・・・」



リンはがっくりと項垂れて千尋の方に頭を落とした。


え?え??? リンさんは、一体誰に言ってきたの??


千尋の頭の中でもクエスチョンマークが踊り出す。そして、一つの可能性に気がつくと――
千尋も、気のせいではなくすぅっと顔から血の気が引いていく。



「ね、ねぇリンさん。怖いこと聞いてもいい??」



「ああ・・・・」



もはやリンには何も言う気力は残ってはいない。ハクの圧倒的な力の前に、自分の気力を使い果たしてしまったのだ。



「リンさんが言いに行った相手って・・・相手って・・・ま、まさか・・・・」



恐る恐る問い掛ける千尋の言葉の後に―――リンではない別の声が続いた。



「そう、私だよ千尋。」



「ハ、ハク!!!!!」



フワフワと宙に浮きながら自分を見つめる人物・ハクがすぐそこにいた。


「さぁ、千尋。どういう事なのかじぃぃぃぃぃぃ〜〜〜っくり、教えてもらおうか?」



ハクの言葉にジリ、ジリ、と千尋は後ずさるが、ドン・・と背中を誰かに押される。



「え?!え、リンさん!!」



「ワリィ・・千・・・・・オレ、一年も大湯の掃除当番は出来ねぇ・・・・・」



「なにそれっ?リンさん!?どういうことぉぉぉぉ!!??」



売られたっ!瞬時に千尋はそう思い、何とか逃げ出そうとするがリンに背中を取られてしまい、ぐいぐいと押されてとうとう千尋はハクの目の前まで押し出されてしまう。



「千尋、おいで。今日の仕事は休んでもいいからね。たっぷりと理由を聞かせてもらおうか???」



「や―――――――だぁぁぁぁぁぁ―――――――!!!!!!!!!!!!!!!」




バタバタと暴れる千尋をハクはグイッと抱き上げて、リンに一言言い放った。



「助太刀、感謝するぞリン。」



その後にすかさず千尋の言葉も続く。



「リンさんのバカァァァァァ!!!!きゃぁぁぁぁ―――――!!!!!!!!!!!!」



その言葉を最後に、ハクと千尋は上へと姿を消してしまい、後にはリンのひところがポツっと空に向かって吸い込まれていくだけだった。



「千、ワリィ・・・・・・・・・・だって、俺とお前だけで大湯掃除1年間は・・・きっついだろぉ・・・・ごめんなぁぁぁ!!!!!!」







そして。その日一日、一種の店の目玉である帳場係と人間の娘の姿は営業時間内に姿を現すことはなかったという――――――






(おまけ)


「リンさんのバカ・・・・ハクの、鬼ぃ・・・・」



「・・・隠していた、千尋が悪い。鬼の私が希望ならば・・・・もっと相手になってもらおうか、千尋?」



「え゛!!!???や゛!!! やぁぁぁぁ!!!!!!!!!」



余計な一言を言ってしまったため、ハクにスッと再び布団の中へと入り込まれ千尋はその後数時間に渡って甘い声をあげさせられる羽目になったのであった・・・。










*おわり*




今回の話はリン主役でした(笑) 書いてて面白かった(笑)


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