【A Happy New Year】

「千や。やはり私と来てもらえぬか。」


「え・・・・・・・!!は、白水様!!」


呼ばれて振り返った先には、以前自分に求婚してきた白水阿蘇那岐神。


「千尋。こちらにおいで。私と共にずっと過ごそう。」


「ハ、ハク!」


逆の方向をみてみると、ニッコリと微笑みながら自分に手を差し出すハクの姿。


ど、ど、ど、どうしよう!!!!


「「さぁ。」」


二人の声が重なったかと思うと、ぎゅ、と自分の両腕がそれぞれの方向に引っ張られる。


「うそ!!! きゃーーーきゃーーー!!!や、やめてよーー!!!!」


ブンブン顔を横に振って、ハッと顔を正面に戻すと、そこは現実の世界で。


「千尋。あなた何やってるの?早くどちらかに決めなさい。」


「お・・お母さん?!」


「そうだぞ、千尋。二人に悪いじゃないか。それに早くしないと体が二つに分かれてしまうぞ」


「お、お父さん!?体が・・って・・・やだーー!!!!」


なんで!?今私は湯屋の世界にいるはずで・・・お父さんとお母さんが居るはずないのに・・・!!!


「セーン。何やってんだよ。ほら、茄子食うか?」


「リンさん!?なんで居るの!?なんで・・なんで茄子そんなに持ってるのー――!?」


叫んだ途端。ぐわんぐわんと周りの景色が巻き起こり、手を引っ張るハクも那岐もみんなみんな円を描いていって―――


ドスン!


「いったーーーーい!!!!!!!!」


気がつくと千尋は自分のベッドから落っこちていた。


「・・・・・ゆ、夢・・・・・??」


キョロキョロと辺りを見回してもここは紛れも無く現実の世界で。


「・・変な夢だった・・・・リンさん・・・茄子・・・・ぷぷぷ・・・・」


クスクスと思い出し笑いをひとしきりして、思い出したかのように千尋はTVのスイッチを入れた。


「・・であるでしょう。では、今年の初夢について・・・・」


「あーー!!今のって・・今のって、初夢かぁ!」


ぽん!と手を打ちながら、初夢について詳しく解説するTVへと耳を傾ける。


「一富士、ニ鷹、三茄子とよくいいますね。これを見た人は一年、良い運気で過ごせるでしょう。」


「きゃー!やったー!!」


茄子、茄子!リンさんが持ってた!!


TVの解説に千尋は飛び上がって喜ぶ。が。


「また、何かの神様が出てきた人は自分に対して何かのメッセージを言っている場合が多々ありますので、その神様が言っていたことを良く覚えておいてくださいね。一年に通じてのメッセージかもしれません。」


「・・・・え?」


「それでは、皆様よいお年を〜〜〜。」


チャララララ〜♪ と小気味いい音楽を奏でながらTV番組は終りCMへ突入してしまった。


神様が夢に出た人は。メッセージ。一年を通じて。


「い、一年・・・・・・?!?」


ということは。年の初めから・・・始まるのだろうか。まさか。まさか。


コンコン。


ビクゥ!


突然ノックされた音に、千尋はまたも飛び上がる。


「は、はい!!!」


「千尋、起きてるの?」


ほ、何だお母さんか。


「なーに??」


カチャ。っとドアをあけると、そこにはまぎれも無く母親の姿がある・・が、なんだかその顔は怒っているようにも見える。


「・・・なに??」


「『なに?』じゃないでしょ!あんた、お友達と約束していたのにいつまで寝てるつもりなの!」


「へ?」


・・友達?約束なんかしていたっけな・・・・・・・りっちゃんに、美里ちゃんに・・


「ほら、もう部屋まで上がってもらうからね!早く着替えなさいよ!」


きゃ。


バタン!母親はいい音を立てて扉を閉めると、なにやら玄関まで誰かを呼びに言っているようだった。「もう、恥かしいわ」だの、「もっといい服着るのに」だのといいながら。


「変なの・・」


そんな言葉に首を傾げながら千尋は服を着替え出す。ああ、その前に顔も洗わなくては。


「ふー・・・」


顔を洗って、部屋に戻ろうとしたその時、母親が痺れを切らしたのか階段を昇ってくる音が聞こえる。


やば!!


バタバタ・・・・バタン!


慌てて部屋に入って、扉を閉める。着替えるために、寝巻きのボタンを外そうとしたところで―――誰かがいるのが目に入った。


「・・・・。」


「おはよう、千尋。明けましておめでとう。」


「ハ、ハ、ハク!!」


ベッドの上に腰掛けているのは、紛れも無くこちらの世界に順応した服装をしているハクの姿。


コンコン。


ドキ!


「は、はーい!!!!」


「千尋?もう着替えたの?」


「あ、うん、き・・着替えました!」


母の呼び声に、思わず声が裏返りそうになる。


「そう。ならよかったわ。お友達・・お部屋に通しておいたからね。」


「うん、ありがとう!」


は、は、早く行って〜〜〜!!!


「そうだ。これから初詣に行くの?だったらあんまり遅くなっちゃ駄目よ?女の子2人なんだからね。」


へ?


「お・・お母さん?」


今なんと?


「女の子2人なんだから、遠い所までいったらダメよ。お母さん達ももう初詣に出かけるから、きちんと戸締りしてね。じゃあね。」


「おっ・・・・・・・むぐ・・・!!!」


思わず母親を呼び戻そうとすると、すいっと白い手が自分の口元に伸びてきて押さえられた。


「・・・しっ・・・・」


「ん〜〜!!!!!」


パタパタとした音が下で響いて。やがて、父親が運転する車の音が聞こえ―――消えた。


「んーーーっ・・・はぁっ・・!ハ、ハク!!な、何かしたの!?」


「別に?私は何もしてないよ?ただ、そなたの母親が間違えただけだろう。私を・・・女性と。」


ニッコリと微笑みながら言うその表情は。「計画通り」とでも言うような満面の笑みで。


「ハク〜〜〜!!!!!」


いくら千尋が低く唸ってみた所で。


「早く着替えなくていいの?」


すらりとかわされてしまうばかり。


「きっ・・・着替える!・・だから、その・・」


「ん?」


「だから!・・・・ちょ、ちょっと部屋から出て・・・ん!」


恥かしくて俯くと、下からすくい上げられるようなキスを一つ。


「なんで?」


上目遣いでみられて言われるその言葉には返す返事も恥かしい。


「・・・・・・な、な、なんでって・・・!!」


「私は千尋の何?」


う。


言葉に詰まる。何・・といわれても。その・・・・。


「何?」


再度繰返されるその言葉に、小さく小さく答えを返そうとする。


「・・・こ、恋・・・」


「違う。」


が。思いっきり否定されて。


「え・・・」


「恋人じゃなくて・・・・私はそなたを生涯の伴侶だと思っているよ。千尋は・・どうなの?」


え。


今。


生涯の伴侶・・って。それって。それって。


「千尋は?」


再度繰返される質問に、千尋は無言で頷き返す。


「・・・・・・・っ。」


言葉も出ないほど朝から幸せな言葉を言われて。頭の中は今朝見た三茄子と解説と夢で言っていたハクの台詞がよぎっていく。


『私と共にずっと過ごそう』


まさか本当に言われるなんて。


『一年を通じてよい運気に・・・』


大当たり。一年の慶は元旦から。その通り。


「だから・・・着替えを見ても私は平気だよ?」


「な!何言ってるの〜〜!!!!」


幸せなじゃれ合いをしながら、ふとまた考えが頭をよぎる。


ん。ちょっとまって。茄子が当たったということは。


「あ。」


ふわっ・・・


突然部屋のカーテンが揺れ出した。


「千。新年の挨拶に参ったぞ。・・・・琥珀にも、な。」


いきなり現れた白水阿蘇那岐神の姿。これまた鮮やかな着物の井出たちで・・・と感心してる暇も無く。


バチバチバチ!


ハクとの視線が火花を散らして絡み合いはじめる。千尋を真ん中に添えて。


これは。


まるで。


朝の夢の続きのようで。


「・・・・・・・ひぃ。」


千尋は一瞬意識をはるか彼方へ飛ばしそうになる。


これから一体どうすればいいのか。自分はいつになったら着替えられるのか。


様々な思いが千尋の頭を渦巻いては消え、消えては浮び。



「「千尋。」」


両方から呼ばれ、千尋は新年早々頭を抱えてしまうこととなってしまった。


誰か・・・誰か助けて―――!!!!


心の中で助けを呼ぶが、頼みの神様は今目の前で。


結局、2時間後両親が家に戻ってくるまでは。


「・・・お帰り願いましょうか?」


「それは、千の決めることであろう?」


二人の冷戦状態に挟まれたまま、一歩もその場から動けない千尋なのであった。


そして、やっと初詣にいけた頃には、とっぷり日も暮れて。


「あーぁ・・夜になっちゃったね・・・」


コートにマフラーに手袋に、着こんだ千尋はチラッとハクの方へと視線を流す。


「そうだね。でも、私は千尋と一緒にいられるならいつだって構わないよ。」


くぅ・・・


どうして、ハクはこっちが恥かしくなるようなことをさらりと言ってのけるんだろう。・・・嬉しい。


「ぅん・・」


小さく、小さく返事を返して、千尋はある言葉を言ってないことを思い出した。


「あ、ハク。」


ん?と優しく微笑んでハクがこちらに顔を向ける。


「・・明けましておめでとう。これからも、宜しくお願いします。・・・ずっと、ね?」


きゃーーーきゃーー!!


最後に付け足した言葉に自分で行っておきながら真っ赤になってしまう。


「千尋・・」


チラリ。ハクをみるとちょっと驚いたのか、大きな目をもっと大きくさせてこっちをみている。


ああ、恥かし。


「あ、あ、あの!早くお社いこ!!・・きゃ!」


照れ隠しに駆け出そうとした体をハクの腕がギュウっと抱きしめる。


「・・ありがとう。」


うわ。


お礼を言われるなんて・・・ど、ど、どうしよう。嬉しくて恥かしくて・・・・。


「さ。いこっか?」


キュ。


抱きしめられた腕が、今度は手と手に絡みついて。


「うん!」


寒さとは違う顔の赤さに恥かしくなりつつも、千尋は強く手を握り返す。




今年も、幸せな年になるといいね―――


そんな願いをこめながら。


こうして、千尋の一年は幕をあけたのであった。




そして。




「セーーーン!!!!!! 何やってんだよ!!!こっちこっち!!!」



「ごめんなさーーーいいいい!!!!!!」




年の初めも、学校ではなく。湯屋の仕事から始まるのであった。



「あ、リンさん!」


「なんだーー?」


「明けましておめでとう!!!」


「!おう!今年もよろしくな!」


「うん!!!!!!」











(おわり)



・・・。なんで現実界にハクがいるのかとか。白水様出てるのかとか。苦情は受け付けません(汗)
説明できない小説・・それもあり・・ってことで・・・。いやもう、これに到っては何でもあり。だって
リンさん茄子持ってるし。茄子食うかって言ってるし。つまりこれは。現実界シリーズの伏線という
事で
・・・・・・・・・・終了!!!!! 読んで下さってありがとうごさいました!正月三賀日過ぎたら
消すかも知れませんので!(爆) あ、そしたら伏線になら無いじゃん(笑) ちなみに。これも
書く気が無かったのに・・・・・正月の雰囲気に飲まれてのらくらと書いちゃいました。ハハハ。

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