【真夏の光線】
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それから暫く、千尋は相手の顔を見ることが出来なかった・・・が、いかんせん、顔だけをエクソシストの様に体とは逆方向を向いたままでいるのはかなり辛い。

手がぶつかったってことは・・・とりあえず、「人」と言うことであり、恐ろしい物ではないことは分かった。

すぅっ・・・

・・・・・・・・よ、よしっ・・・・・!

深呼吸を一回、ファイト一発、気合を込めて―――

とにかく、平手の事を先に謝ろう!!!それから、文句だ!

くるっ。

その「人」の方へ、勢いよく振り向いて、謝ろうと口を開いたのだが。

「ごっ・・ごめんな・・・・・・!!!」

「な」の口のまま、千尋は目を見張ってしまった。今、自分の目の前にいるのは。

「・・・・・・・・・・え?」

あれ、誰かに似ています。誰でしょう?

テスト形式のように、自分の中で自問して。

「・・・・・・・・・・・・・っ」

ゴクリ、と唾を飲み込んで。

「も・・・・・しか・・・・・・して・・・・・・・」

千尋は、名前を。

「ハ・・ク・・・・・・・・?」

呼んだ――








「・・・・・七日ぶりに会ったのに、その対応は酷いと思わないかい、千尋?」

「ご・・・・・・ごめんなさい・・・・」

目の前にいたのは、幻でも他人の空似でもなく、ハク本人で。

『ハク?』と呼んだときのハクの表情といえば、不機嫌極まりないそれになっていて、流石に千尋も素直に謝るしかなかったのだった。

だって・・・・・・まさか、ハクが来てるとは思わなかったし・・・・・・ハクだと思わなかったし・・・・・・だいたい、何でここにいるの?!

妙な緊張感が、静かな図書室の中に流れている。

「・・・いつ、こっちに来たの?」

「ちょうど、千尋が帰ってから翌日に・・ね。」

まだちょっと、むすっとしながらハクが答える。その様子に、千尋は再度視線を床に落として居たたまれなくなる。

うぅ・・まだ怒ってる・・・・。

「でも、千尋は私に会いたくなかったのかな・・・・手を触れても、分かってくれなかったし・・・・・」

う。

「教室へ入っても、うつぶせていて見ようとはしなかったし・・・・・・・」

うぅ・・・・・・。

「・・・やっぱり、あちらの世界へ―――」

え?!

「や、やだ!!!!!!!!!」

ハクの言葉に、跳ねるようにパッと頭を上げると――

「・・・・え?」

「くくっ・・・・・」

ハクは、眉間を押さえながら―――笑っていた。

「ハク――――っ!?」

「あははっ・・・・・・!」

信じらん無い!!わ、私はてっきり本当にハクが怒って帰っちゃうのかと思ったのに!!!

「もう知らない!!!!!!」

からかわれた様な気がして、千尋はプイっと背を向けてしまう。

もう!もうもうもう!!!!!

「はは・・・・・・嘘だよ。千尋、こちらを向いて?」

「知らない!」

「・・・・・・・・・千尋?」

〜〜〜〜〜もうっ・・・・・・・・・。

ハクの真剣な自分を呼ぶ声に、千尋は渋々体を向き直す。

「か、からかわないっ・・・・・・ん。」

「目も・・・・・私のほうに。」

ムニッと両頬をハクの手が包み込んで、視線を上に上げられると、ハクの優しい眼差しが自分へむけられていた。

「会いたかったよ。私も・・・・・」

「っ・・・ハク・・!」

「千尋の、『会いたい会いたい』という言葉もさっき聞けたし?」

「――!!!も、も〜〜!!!からかわないでってば!!」

暴れ出そうとする千尋を、ハクはキュっと胸に抱きこんだ。

「千尋・・・・」

「・・・あ・・・」

2人の距離が、あと8センチ。7・・・6・・・5・・・触れるまで、あと少し・・・と来た時。

ピンポンパンポーン・・・・・・・・・・

『1−桜の転入せ・・・・あ、わわ何するんですっ!』

・・ん?なんだろ??1−桜って、うちのクラスだ・・・

ハクと顔を見合わせ、きょとんとした2人の間に、次にスピーカーから流れてきたのは。

『いいからいいから!こぉらぁっ!速水!説明の途中でどこいっとる――!戻ってこんかー!』

キーンという音と共に、大声で聞こえてくる・・・担任の声。

「・・・速水?」

聞いたことのある名前に、目の前の人物を見る。

「・・・・残念。これから口付をしようと思ったのに。」

「ハ、ハクっ!」

苦笑いをしながらも、ハクはさらりと今しようとしたことを千尋に言ってのけると、スッと千尋の体を開放する。

「こちらの世界での名はね、速水琥珀と名乗る事にしたんだ。真名を使うと・・・他の人間に支配されかねないからね。・・では、私は行くよ、千尋。」

「えっ・・・・・・・」

行くって・・・・・行くって、どこに??

「・・大丈夫・・心配ないよ。・・還ったりするわけではないのだから。」

千尋の不安そうな気持ちが思わず表に出たのを感じ取って、ハクはクスリと笑いながらガラッと図書室の扉を開けた。

「では、また後でね、千尋。」

「・・・・・うんっ!!!!!」

満面の笑みを出し、千尋はハクに微笑み返事をすると――ハクは安心したようにその扉の向こうへと姿を消していった。












千尋の目の前から、ハクが姿を消して暫し立ち。

ぎゅ。

「いったい!!」

千尋は、一つまみ自分の頬をつねってコレが夢なのか現実なのか確かめた。

「・・・今の・・ホントにハクだ・・・ハクが・・・目の前にいるんだっ・・!!!!」

ズキズキとつねった頬が痛みを増すが、これから、ハクがいるかと思うと千尋の気持ちは天にも昇る勢いで。

「きゃ〜〜〜っ!」

思わず、歓喜の声を上げずにいられないのだった。






高校生活最初の夏休み明け――千尋にとって、最も幸せで最も頭を悩ませる時間が、これから始まろうとしていた。






[第二章へ続く]



はい、とうとう・・・やりました!私的に禁断だったのですが・・・学園シリーズ(爆)。最後ちょっと・・変な感じで終わってしまいましたが、後に続くって感じで・・第一章は終りです。今回は、ハクがこちらの世界に来た、というところまででで。い、如何だったでしょうか(汗)。第二章からは・・・別に、普通に書く私の文と変わりはないんですが、一応区切っておこうかなと。油屋編と、学園編。分けて、書いていこうと思います。学園・・ていうか現実編ですかね〜。なんか知んないけどコレ書くまでにすごい時間が・・・こんなちょっとしかないのに、時間かかっちゃって・・更新遅かったのは、この為だけって訳ではないですが、これも理由のうちに入ってます。
ここまで読んでくださって、有難うございました!今度からは、こちらの話を中心に進めていきます〜。興味もってくださいましたら、この後もお付き合いくださると嬉しいですvでは、今回はこの辺でv

2002.1.27 月子拝

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