【湯女の告白】

―――――― 一方、千尋に身に覚えの無いことで平手打ちされたハクはというと・・・


「ハっハク様、今日のお座敷へのお目通しは・・・っひぃ!いいえ!いいえ此方でして置きます故!申し訳ありませんでした―――――-!!!!!」

兄役からの申し出も耳に入らぬほど、すこぶる機嫌が悪かった。

一体私が何をしたと言うのだ、千尋!!! 

バン!バン!と、ハクが廊下を通り過ぎるたびに横に連なる襖がひとりでに開いていく。

「ハ・・ハク様はどうなされたんだ・・・?」
「それがねぇ・・・」

ひそひそと従業員の話し声がそこここで沸きいだつ。その中を、ハクは千尋がいるであろう湯釜の元へと早足で駆け抜けていった。






「・・・ふぅ・・。リンさん!」
「お、おう!」

仕事疲れと泣き疲れで何か言う体力もなくしたのか、すぅっと気合を入れて千尋はリンを呼んだ。

「今日のお仕事、もうコレで終りよね?」
「あぁ、あたしらの分担は今日はコレでお終いだな。・・・なぁ、千。お前、本当に帰っちまうのかよ・・・」

リンは悲しげな声で千尋に問い掛ける。発端となった湯女達は既に各自の仕事へと戻って、この場所からはいなくなっていた。

「・・・・・・・・・・わかんない。でも、今の状態のままここにいるのは嫌。だって、ハクのこと嫌いになっちゃいそうで・・・・。」
「あのな、湯女達の言ったことはうそだぞ。あのいやみ面はな、興味をもたね―んだよ、他の女には。」
「え・・・。」

本当に?といった顔で千尋はリンに顔を向ける。

「本当だよ、本当。安心しな!そこんところは唯一好意がもてるところだぜ、あのいやみ面の。だからな、お前がそんなに泣くことも、ましてや帰る何て言う事も無いんだよ・・分かったか,千?」

しかし、自分のその言葉を聞いたあとでも、千尋はウルウルとした瞳と不安そうな顔を解く事はしなかった。やっぱりあたしの言葉じゃ信用できねーか・・・?と思い、リンはちょっとガックリしそうになるが、どうも様子がおかしい。なんだか顔が青ざめてきている。

「?どうした千?なんか、あたしまずいこと言ったか?」
「・・・・・・・・・・ううん。ううんううん!!リンさんはまずくなんて、無い・・・まずいのは・・・」

―――私・・・そう、言葉をつむぎ出せないほどに千尋は恐怖で足がすくんでしまっていた。そう、湯女達の話をまともに聞いてしまって、ハクに平手打ちをかましてしまったのだ。それも、「最低!帰る!会いたくない!」と3大捨て台詞まで残して・・・。

「わ・・たし、やっぱり帰る!」

きっと、怒っているに違いない。いや、氷のごとく痛い位に静かに(?)怒っているだろうハクの姿を想像して、千尋はともかく逃げようと言う頭しか今は無かった。

「あ、おい!どこ行くんだ千――っ!・・っと・・あれ?何だ戻ってきたのか?」

タタっと湯釜を飛び出した千尋がズ、ズ、と後ずさって戻ってくるので、不思議に思い目の前に視線を移すと―――

「ぅげ。」

と、リンが唸ってしまう相手が千尋の目の前にいた・・・。






「どういう事だ、千尋!」

仕事中だという意識が無いのか、ハクの物言いは完全にタガが外れた様子だ。

「あ・・っと・・えっと・・・な・・なにが?」

てへv っとした様子で、周りのピリピリとした雰囲気から脱しようと、千尋は首をかしげて誤魔化そうとしてみる。

が。

「ほぉっ・・・・何が、と聞くか。まさかそなた、先刻のことを忘れたと言うまい?」
「え・・えへへ・・・(滝汗)」

まずい。まずすぎる。このハクの様子だと、何か言われるとかそういう分類には収まらない・・・気がする・・・。

「よかろう。そなたには1度じっくりとお灸を据えなければいけないようだな。」
「おっ・・お灸!?・・・・やっやだ・・・!!ね、ね、もっと平和に話し合おうよ?」

お灸と称して何をされるのか分からない――そう感じ取った千尋は、極めて平和的な「話す」という和解策を出すが、

「話し合いをすっとばしたのは何処の誰だ?」

・・・と、逆に言われてしまい、結果的には―――――

「やぁーーだぁぁぁ―――――!!!!!!」
「私の許可無く帰ろうとしたらどうなるか・・・きっちり体に染み込ませてあげないとね、千尋
?」
「や・・・んっ!んんっ!!」

がっしりとしたハクの腕の中に抱き上げられた千尋は、ハクの部屋につくまでに口付の洗礼を何十回も受ける羽目になったのであった。









そして、数時間後―――――――・・・


「・・・・・そんな、湯女達の話を信じたのか、そなたは?」

千尋はぐったりとした体をハクの方に摺り寄せながら、なるべく顔を見ないようにしてコクコクと頷いた。

結局、部屋につれてこられた後「お灸」と称して、ハクに何度も愛された千尋はその動かなくなった体とは逆に今度は口の方を動かされる羽目になり、事の発端を全て話す羽目になってしまった。。。

「千尋・・・確かに湯女達はね、気に入った男を誘うこともある。それに乗る男もいる。けど、私は一度もそういう事は無いよ。安心おし・・」

言いながら、サラッとしたハクの髪が千尋の顔にかかってくる。そして、キュっと胸に引き寄せられると背中を優しく撫で上げられた。

「・・・ごめんなさい,ハク・・・最低、何て言っちゃって・・」
「気にしなくとも良い・・・」
「暫く会いたく無いって言っちゃって・・・」
「誤解は解けたのだからそれも無効なのだろう?」
「・・・・・・・帰りたいって言っちゃって・・・」
「・・・・・・・・・・・。」


その言葉に、ハクは背中をなでる仕草を止める。

「ハ・・ハク・・・・?」
「そうだったな・・・千尋は帰りたいと言っていたな・・・・・・やはり、帰る気力も残さぬようにしなければだめか・・・・・・・」

キュ、と千尋を抱きしめる腕に力が入ると、千尋はまたハクに組み敷かれてしまう。

「ハッハクーーーーー!!!??あ、や、きゃぁぁぁーーっっ!!」



―――――――この一件があってから、もう二度とハクの前では「帰る」と言わないことにしようと誓った千尋であった。







<おまけ>

その後、千尋に変なことを吹き込んだ湯女達は暫く寝る暇も無い仕事漬けの日々を言い渡されたと言う・・・。



過剰な場面を千千では書けません(私的)・・・これで精一杯・・てか充分?(笑)


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