6000HITリクエスト作品 【仕・返・し】 |
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ぺた・・・ぺた・・・・・ ゆっくり、近付く。部屋に立てかけてある時計はすでに夜中をさしている。 「ふー・・・・よしっ・・・・・!」 意を決したように小さく息を吐き出して、これまた小さく呟いた人物・・・荻野千尋16歳。 カチャカチャカチャ・・・・・・ガタっ! 「ひぇっ・・・・お・・起きちゃう、起きちゃう・・・・」 どこから持ってきたのかなんて愚問だけれど。お姉さまがたから借りてきた化粧箱を取り出すと、おもむろにその蓋をとりはずした。 「フフフ・・・・」 妖しげに千尋は笑みを零す。再度言っておくようだが、ただ今の時刻は夜中をとうに過ぎている。ハタから見たらきっと静かに、しかし力強く止められたに違いない。だが普通の従業員はこの部屋に入れないので千尋を止める者は誰も居なかった。 「さぁ〜ってと・・・どんな風にしちゃおうかなっ?綺麗だからやりがいあるなぁ・・」 そう言って眉墨を向けたその方向には―――普段ならとても考えられないほど可愛い寝顔を机に突っ伏してしまっている湯屋の帳場係・・・ハクが居た。 「いっつも虐められてるし・・・・・いいよね、これっくらい♪」 ウキウキ気分で千尋はそぉっとその寝顔に手を加え出した。千尋がこういう行動にでてしまったのはもちろん訳がある。それは、つい数日前のこと。 「ただ、おばあちゃんとかおなしと話してただけなのに・・・あんなことすること無いじゃないっ」 数日前。千尋は、銭婆に呼ばれてひと時の安らぐ時間を過ごしていた。家の中にリズムよく響く料理をつくる音。糸をつむぎ出す音。それは湯屋に居ては到底味わえない本当に平穏なひと時。 「おばあちゃんと・・・かおなしがつくってくれたケーキ食べて楽しくしてたのに・・・・」 ひとしきり、かおなしも夕食の準備を終えたのか、千尋が来る前に作っていてくれたケーキと紅茶を持ってリビングへやってきて三人で談笑をし出していた。 「そりゃ・・・あの場で即答出来なかった私も私だけど?」 千尋は、銭婆に冗談交じりにこういわれたのだ。「千尋は良い嫁になるね。どうだい、ハク竜はやめてかおなしに乗り換えないかい?」と・・・。 「えっ!?」 あまりの爆弾発言に、流石の千尋も一瞬驚くのは否めなかった。 「ななな・・・・??」 「なぁに、お前さんもすぐにハク竜と一緒になるというわけでもないんだろ?だったらほら・・・かおなしも秤にかけてもいいんじゃないのかい?」 「いいいい一緒にって・・・・!!!」 確かに、ハクと・・け・・・結婚ていうか一緒って言うか・・そういうのは何にも決めてないけど・・・・ 「あの、えっと・・・・」 「あー・・・・」 かおなしもちょっと困った声を出している。自分のほうを向いて困った顔をしている・・ような気もする。 「ほら、かおなし!お前ももっとアピールしなきゃ!嫁が逃げていくよ!」 ふふふっと笑いながら、銭婆はかおなしと自分をくっつけようと席までもずらしていく・・が、その瞬間。 「・・・・何のアピールですか?」 ピキィィィン!!! 誰が発した言葉か――――三人とも、後ろを振り向かないでもその空気で声でわかる。 「あ・・・・・」 「おやおや・・・・」 「あ・・・ぁ――・・・」 いつのまに家に入り込んでいたのか、「聞かれた!」と、一気に恐怖のどん底に陥ってしまった三人は同じトーンで声を上げてしまう。 「銭婆様。そろそろ千尋をお返し頂きたいのですが・・・よろしいですね?」 後ろを見なくても分かる。きっと、ニッコリを微笑を浮かべながら目は笑っておらず・・・冷たいオーラを漂わせているのだろう。 「さ、千尋。帰ろうか?色々と2人で話したいこともあるし・・ね?」 「あぅ・・・・はい・・・」 逆らえるはずも無く。大人しくそう答えて湯屋へ戻ったけど――結局、いつものようにハクに立てなくなるまで連れ込まれて。 「あんなの冗談に決まってるのに・・・もう!いっつもいっつも虐めるんだから!」 キュ、キュ、キュ。 「ふぅ・・・でーきーたっ♪」 最後の仕上げといわんばかりに赤い口紅をハクの口元へと塗り終えて――千尋はキュっと額の汗を拭った。 「わ――すっごい綺麗・・・ぷぷぷっ・・明日・・慌てて自分の顔見たハクを想像すると・・・可笑し過ぎる・・・っ」 カメラを持ってきてれば良かった―――そう楽しい後悔をしつつも、千尋は来た時と同じようにカチャカチャと化粧道具を箱にしまい出す。 「いつもの仕返しなんだからっ・・・ちょっとは困ればいいんだもん。」 スススッと音を立てないようにハクの部屋を出ると―――千尋は弾む足取りで女部屋へと帰っていき、来たる明日の仕事の時間までウキウキで眠りについた。 そして。 「わぁぁぁぁ!!!!!!!!」 朝一番に。従業員全員が耳を疑うほどの絶叫が湯屋全体に響き渡ったという。 「あははははは!!!!!!おかしぃ〜〜!!!!!!!」 その理由を知るものは、女部屋で笑い転げている、千尋一人だけにあり。 「仕返し・・・成功〜〜〜♪」 しかし千尋はまだ知らない。この後、営業が終わってから自分もまた仕返しの仕返しに合う事を・・・・。 「リンさん、仕事いこっ♪」 「お、おう??」 上機嫌な妹分を目にして何となくピンと来たリンは、その日一日千尋から距離をとって仕事をしていたという・・・。 そして。 「きゃぁ――!!!!!!!!」 再び、湯屋の中全体に悲鳴が響き渡る。しかし今回の悲鳴には誰も耳を疑って意識を傾ける者は居なかったのであった。 「さぁ、千尋?どういう事か聞かせてもらおうか?」 「うぅぅ・・・・・・っ」 いいもん!また、仕返ししてやるんだから〜〜〜!!!!!! ――千尋がどんな仕返しの仕返しをされたのか。また仕返しの仕返しの仕返しを千尋はしたのかは、また後日。 (終り) |
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葵さまへ
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