(8) |
「―――あなたを、離したく、無い。」 ・・言ってしまった。 とうとう。 彼女の考えている事を聞いてから言おうとしたはずだったのに。 のに。 ビーデルの涙を見たら、どうしても抱きしめて、一番近くに鼓動を感じて、自分の気持ちを言いたくなってしまった。 『勝手だわ!』 ビーデルの声が聞こえるような気がする。 それを証拠に、まだ彼女から何のアクションも、無い。 言った後の怖さがなかったわけではない。現に今、抱きしめた腕を緩められないほど、身体が緊張して強張っている。 ――――怖い。 でも ――――早く。 言葉が、欲しい。 「・・・しい・・」 「えっ・・?」 「悟飯く・・・苦しい。ちょっと、緩めて・・」 思っていると、小さく言ったビーデルの言葉にドキッとした。 「す、すみません・・・!」 腕を緩めて少し離れれば、コホン、と咳き込みながら潤んだ瞳が自分を見る。 「・・・もう・・・」 ・・ドキ・・! どうしたら良いのかわから無い、と言う風なビーデルに、緊張の糸が益々張り詰められる。 いやな汗が、背中を伝う。 「・・・ずるいわ。」 ビーデルがようやく口を開いた。 ・・・・ずるい? 「あたしが・・・あたしが悟飯くんを嫌うなんて、そんな事あるわけ無いじゃない・・・」 そんな。 「そんな事わからないじゃないですか!急に目をそらしたり、それに―――――」 「・・それに?」 「・・それに。僕と一緒に帰らなくなった・・・・・」 声を落としてそう言えば、違うの!とビーデルが恥かしそうに大きく言った。 「え・・?」 「それは、その・・・・・・」 もじもじとするビーデルの姿が可愛くて、もう少し、と抱きしめようとすれば待ってと止められる。 「なんですか、ビーデルさん。」 早く、早く――――その理由が、知りたい。 「ま、待ってよ・・・その、だからね。その・・・・・ちょっと、こっち・・・」 言い終わる間もなく、不意にビーデルの顔が近付いた。 ・・・・ビーデルさん!? ふ、と耳元に息がかかる、と。 「・・・悟飯くんが、好きなの。」 小さい声で、囁かれた。 『だから、急に傍にいるのが恥かしくなったの。』 ごめんね。 こつん、と肩にビーデルの小さな頭が乗っかる感触が、した。 好き と、言われた。 自分を避けていたのも、嫌っていたんじゃ無くて―――――逆だったから? 目をそらしていたのも、自分に見られるとどうしていいかわからなかったから? え、え、え・・・・!!!!!! 感情が爆発しそうに、なる。 どうしよう。 こういう時、どうすればいいんだろう。 「ビ、ビーデルさん本当ですか?」 「・・・・うそ言わないわよっ!こんな事!」 恥かしがって肩に顔を埋める彼女が可愛くて、再び待ってよ!といわれた制止を聞かずにギュッと抱きしめた。 柔かい体が心地よくて。 また、同じように―――――いや、それ以上の日々が明日から待っているかと思うと嬉しくて。 「・・・僕も、好きです。」 悟飯は、弾む声で、ビーデルに気持ちを返した。 「・・・嬉しい。」 「・・・僕もです。」 腕を緩めて、ビーデルの顔が見えるようにすれば、微笑みあって。 「明日から、ビーデルさんは僕の彼女ですからね?」 「・・もちろん。悟飯くんも、彼氏なんだからね?」 学校を出て約3時間。気持ちがすれ違って数週間。 二人はようやく――――――― 「「約束。」」 気持ちを通じ合わせる事が出来たので、あった・・・。 ――――------そして、翌日。 「おはよう!」 パシッと後ろから方をはたいて挨拶される。 「あ、おはよう。」 振り向けば、イレーザがいた。 「ん、ん、ん?もしかして、いいコトあったんじゃないの?」 「え?」 「顔、笑ってるわよ!」 「え!!」 イレーザにからかわれながら、クラスまでの道のりを歩く。 「・・・ありがと。」 お礼。 そう、小さく呟いたら、イレーザも嬉しそうな顔をして――― 「ビーデルが素直だわ。珍しい。恋は偉大ね〜〜〜」 「イ、イレーザ!!!!!!!!!!!」 大きな声で言うのを止めようと必死に追いかける。 そしてまた。 遠くで騒ぎを目にした悟飯、も。 「上手くやったみたいだな。」 「あ、シャプナーさん」 「ビーデル、当然結構モテるからな。手に入れたと思って油断しない方が良いぜ?」 「・・・!!!!!」 シャプナーに、二度目の釘をさされているので、あった。 ようやく結んだ恋の目に、幾多の難問が待ちうけているのは―――― 「止めてよーーーー!!!!!!!!」 「お、脅かさないで下さいよっ!!!」 それはまた、別の、お話し・・・・。 fin. |