Chapter:Final
「あの・・・これ、美味しいかしら?」 言った途端、キスをされた。ビックリして仰け反れば、押し倒された。 な、な、なに!!??? 急な展開に、思考が追いついていくはずが無い。なんだかさっきから言動が怪しいとは感じていたけれど、まさか、こんな―――― 「ん」 と口を閉じようとすれば、ダメだといわんばかりに悟飯の指先があごを抑える。 長くて、深い―――――その口付けに、溶けそうになるけれど、不意にハ、と思い出した。 『プレイボーイの薬』 これが効いているからと言うだけで。 「愛してる」 そんな、言葉も、元に戻れば―――――― 「・・・うそっ・・・!」 消えてしまうに違いない。だからこそ、一層その言葉が胸に痛い。 愛してる、なんて嘘の気持ちで言わないで・・・・・! ・・はぁ、と熱い吐息が首筋にかかる。自由に出来ない胸元を、悟飯の指がボタンを外していく。 ・・いや、いや、いや・・・・! 本当に、いやだ。偽の気持ちでそんな事を言われて、そんな事をされるなんて――――! 「・・・ぁっ・・こんなの、やだ・・!」 細い声で、本当の気持ちで絞り出した、声。涙もそれにつられて流れていく。 ――――――と。 ビクッと、悟飯の体が震えた。涙の溢れる目で見上げれば、ハッとした表情で自分の顔を見詰めている。 ・・・・・・・あ。 「っ!!!・・す、すみません・・・・!」 言うやいなや、自分の上からばっと飛び退いて、我に還ったという様に自分に対して謝ってきた。 ・・・・本当の悟飯くんだぁ・・・ すぐに、分かった。さっきまでの優しさじゃなくて、本当の優しさで――――自分を扱ってくれる彼の言葉だと、すぐに――分かった。 「バカぁ・・・・」 ぎゅ、と開かれた胸元を抑えながら、片方の腕で溢れ出る涙を拭う。嬉しさと、怖さから開放されて気が抜けたのと、いっぺんに来て体の力が抜けてしまった。 「本当にすいません・・・・」 悟飯が、もう一度謝る。 「バカ、バカ!本当にっ・・・」 涙で言葉が続かなくなると、恐る恐る近付いてきた悟飯の腕が、自分の事を包み込んだ。 「・・・っ・・」 ビクッと体が震える。 「・・ごめんなさい、もうしないから・・このままで話させてください。」 静かな、声。本当にいつもの悟飯だ。 「・・・・うん・・」 頷くように小さく呟くと、悟飯が大きく息をついたのがわかった。 「・・本当に、悟飯くん・・?」 自分の言葉に、悟飯は小さく返事をした。 「・・薬、切れたの?」 「・・・はい。」 その言葉に心底安心する。よかった・・と、思う。 でも 今、薬が切れたということは・・・・・・やっぱり―――― ・・・あれは、ホントの気持ちで言ってたわけじゃ無いってことよね・・。 薬が切れたと効いたのに、反比例するように心がどんどん沈んでいく。薬のせいと分かっているとは言えど、自分が彼を好き過ぎて、あの言葉が嘘と言うのは結構きつい・・。 だけどそれは、悟飯君のせいじゃないから。そんな事、分かってるから―― 「もう、こんな薬飲んで・・・いやだからね・・」 ぎゅ、と悟飯のシャツを力一杯掴みながら、そう言った。それしか、いえない。自分には。 「・・すみません・・・」 悟飯が本当に謝っているのは、わかった。 ・・もう、それでいいじゃない。何も、なんでそんな事したんだ、なんて言うことは無いわ。 パン! 「いっ!!」 「・・よし!じゃあ、許すわ!全部薬のせいなんだし、悟飯くんのせいじゃないしね!」 シャツを握っていた手を離して、パンっと悟飯の背中を叩いて。 「ね、ちょっとあっち向いてて。その・・・ボタン留めたいの。」 「えっ・・あっ!す、すいません!」 パッと再び悟飯が離れて、くるっと後ろを向く。 後はこれで――――・・・ブルマさんの所に報告に行けば良いのよね。大丈夫、家に帰るまでやりとおせるわ。 大丈夫、大丈夫。 心の中で繰り返し、唱えて。 もういいよ、と言おうとした時、だった。 「・・・本当は。」 悟飯が、ポツリと話し出したのは。 「切れてたんです、もう。」 ・・・・え? 「ビーデルさんに、その・・・・あの、キスした時から・・もう、薬なんて消えてたんです、僕の中では。」 「え・・」 ・・ドキ。 心臓が、期待で大きな音を立てた。 「―――僕が。本当の、僕が、そうしたくて・・そう、言いたくて。その・・ビーデルさんが、欲しかったんです。」 「―――・・!」 今・・・薬、効いてないのよね。それでもって、私を、その――――― 「愛している、と思ったから。」 ・・・・・! さっきまでの気持ちが、音を立てて崩れていく。 ・・嘘じゃ、無かったんだ。ホントの、気持ちで――――・・ ・・・もう・・もう! 「そんな・・そんなのねぇ・・・は・・・早く言いなさいよっ・・!!!」 「すみません・・」 「バカ!謝ってばっかりなんてずるいわよ!!」 嬉しくて、泣きたくて。後ろを向いたままの悟飯の背中をバシバシと叩いて抗議する。 「いたた・・・!ビーデルさん、痛いですよ・・・!!」 「うるさいわねっ・・!!もうっ・・・不安にさせたんだからこのくらい我慢しなさい・・ぅぅ・・」 ああ、もう。涙が止まらない。安心して、本当の気持ちだと分かって―――― ・・ギュ。 「・・・・もう、二度と嘘で言ってるって思わせないで・・」 叩いていた背中に、ぎゅ、と抱きついた。 「うん・・誓うよ。」 ザァ、っと風が一筋吹いていく。 湖面が一凪、風で揺らいで―――――― 「・・・ブルマさんのところ、いこっか・・」 「・・そうだね。」 ようやく、二人は報告に東の都へと飛んで帰るのだった。 そして。 「あらーっ、やっと元に戻ったの!?ちょっと、効きすぎたかしらね?」 ラボに着けば、最初に行った頃と同じ格好をしたブルマがそんな言葉で自分達を迎えてくれた。 ・・効きすぎた、なんてもんじゃないんですけど・・・。 当然なにがあったかは話はせずに、飲んだ当の本人・・悟飯が「これはそう言う効果はない」と説明してくれた。 その説明に―――― 「じゃあ、もう一回作るから・・・・・悟飯くんどう?」 と言ったブルマの言葉には、当然二人で猛反対、した。 ・・・・はずだった、けれど。 ウィーン・・ 部屋から出て、家に帰ろうと自動ドアがあいた時。 「・・でも、僕あの時の気分でいるもの悪くないなと思ってたんですよね・・だって、本当に思っていることを我慢なくしてくれたから。」 と。 悟飯が笑顔で言った時、には。 「・・・〜〜いい加減にしてよね!!!!!!!」 バキィっ!!!! 「ふんっ!!!」 「ったぁ〜・・・!!あ!ビーデルさん、待ってくださいよ〜!!」 ・・・・知らない!! すたすたと歩きながら――――でも、と。 『誓うよ』 あの言葉、ちゃんと守ってくれているなら。 また、そうなっても――――――・・・・・・ひゃ、百万が一にだけど! 「なっても、いいけど・・・・」 ポツリと聞こえないように、そう呟いた。 初夏の風服日曜日。ある日のとんだ、騒動の、話・・・・・。 END ![]() ←PREV3 ![]() <甘い囁きで5題>より、「誓うよ」。お題いただきました。 (kotonoha hihoukan) |
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