<あいくるしい> -1- |
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『・・じゃあ、これから都の人々に聞いてみたいと思いま〜す』 テレビの中から能天気なキャスターの声がする。 「ほらほら悟天ちゃん。もう夜ご飯だベ。こっちさ来るだ。」 「は〜い」 時は19時。休日の孫家にしては遅い夕食だった。 コンコン。 「はい。」 部屋の扉を叩かれて、きちんとした返事をすればチチが『夜ご飯だ』とドアの隙間から顔を覗かせて そう告げた。 「・・・よし、っと。」 パタン、と開いていたノートを閉じると、悟飯は今日のうちに予定通り予習復習が出来たことにちょっとした 満足感を覚えていた。 今日は、土曜日で。別に、それをやるのは明日だって良かったのだけど。 明日。 明日、は。 「ふふ・・・」 ビーデルさんとデートだし。 そう、ビーデルとのデートなのだ。 久しぶりの、外でのデート。 に、と緩まる頬をそのままに悟飯の心は既にもうビーデルのことで一杯で。何も考えなくともすむように、 今日の時点で勉強はすべて済ませておいてしまっていた。 「「「「いただきまーす。」」」」 食卓に全員が集まると、一斉に食事の合図をはじめてがっつき始める。 いつもだったら、チチ以外はテレビの声など聞こえるはずがないほど皆目の前の夕飯に夢中で、 悟飯はハ、と顔を上げた。 ・・・あれ? なんだか、今。妙に、前方の方で気になる言葉が聞こえた気がする。 最初の言葉が『ビ』で、最後が『ル』と聞こえたような。 ・・カチャン。 がっつく箸を休めるようにテーブルの上へ置くと、悟飯は聞こえただろう情報源の方へとそっと耳を傾けた。 『あなたは誰が一番だと思いますか〜?』 どうやらテレビでやっているのは、よくある街頭インタビューのようで、その内容は有名人の事に付いて 何かを聞いているようだった。 パネルの中にある顔は、女優、アイドル、作家・・・著名な女性ならば活躍の場はいとわないらしい。 その、中に。 ・・・・・・・え!? 目を擦っても消えないその顔がある。 え、え、え!? 『やっぱサタンの娘のビーデルかな〜。昔よりも可愛くなったし、結構スタイルも・・・』 ガン!!!!!!!! 頭を鈍器で殴られたようなショックが襲った。 い、今。このテレビの中の男はなんと言ったのか。 ビーデル、と。 そう、確かにそう言った。 「あら、ビーデルさんじゃないけ、これ・・・やっぱりミスターサタンの娘ッちゅーだけで 注目されるもんなんだべか。」 「・・は・・・」 母の言葉に、そうか、と思う。確かにミスターサタンは著名人だ。となれば、彼の一人娘――――しかも 父親に似ていない美人の彼女とくれば、都のマスコミは放っておかないだろう。今迄、傍にいて 気付かなかったのが不思議なくらいだ。 でも。 それ以上に。 テレビの中でインタビューを受けた男は、悟飯にとってショックな言葉を言ったのだ。 『ビーデル』 と。 自分でさえ、まだ「さん」の域を超えられないというのに、近しくない関係のコイツがなぜそんな親しげに ビーデルの名を呼ぶのだろうか。 そして、それよりも更に、自分を苛立たせる言葉を放っていなかったか。 『スタイルが』 云々、と。 「・・・・っ・・・」 どこをどうしたら、そう言う考えに行き着くのか。それ以前に、何を想像しているのか。 彼女が魅力的だ、と言うのは当然だ。だが――――そんな目で、見られているのかと思うと腹が立つ。 その唇に、柔らかな身体に――――――・・他の男たちも、自分が彼女の隣に立つ立場だったら、と 仮定してよからぬ想像に励んでいるのかと思うと。 ・・・許せない! ガチャン!! カ、っとなってしまう。 いや、正確には。 「・・・ご、悟飯ちゃん・・・・!」 「おにいちゃーん・・・」 カッとなって、しまった。 「悟飯〜おめえ、なに怒ってんだ?」 「・・え?あ!!」 心の中で思っていただけだったのが、つい表に出てしまっていたらしい。 気付けば、家族の声の中で自分は超化してしまっていた。 「・・す、すみま・・・」 せん。 その言葉を言う前に。 『やっぱり、ビーデルさんは都の子から凄く人気みたいですね〜』 『そうでしょう、同世代のアイドルよりも可愛くて近付きやすく親しみやすい、これは周りの人間は放って 置けませんよね。僕も彼女のグラビアをとりたいとサタンさん側に交渉しているんですけどね』 ・・・・グラビア!? STUDIO−ホワイトとか言う名の男の発言に、再び自分の怒りが爆発して、再度超化してしまい。 「悟飯ちゃん・・・いい加減にするだ――――っ!」 チチの怒声を浴びながら、悟飯は今夜は眠れそうにないな・・と感じるのだった。 |
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