<あいくるしい> -2- |
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「・・ふわ・・・」 「寝不足?」 わわっ・・・・・!!! 思わず出たあくびを慌てて引っ込めると、隣で笑うビーデルの顔にドキンとなる。 「ちょっと、予習しすぎちゃったみたいで、ハ、ハ!」 あの後。 怒りを静めようと落ち着いて風呂に入り、眠ろうとした後。どうしても、ビーデルのことを邪まな目で 見る男が多いと気付いてしまった事はもう頭から離れなくなって、明け方まで眠れなかったのだ。 「今日は、どこいく?」 言いながら自分を見つめるビーデルの瞳が眩しい。 真っ直ぐに自分を見詰める大きな瞳。嘘なんてつかないし、正直で正義感溢れるその視線に、 まさか昨日はそんな事を考えて眠れなかったなどといえる訳がない。 「あ、あ、えーと・・・僕は、どこでも」 口を開けばおかしなことを言ってしまいそうで、当り障りのない言葉を選んで言えば、少しだけビーデルの 表情が曇ったような気がした。 ・・・あれ? 「ビーデルさ・・」 「じゃあ、今日は買い物に付き合って!わたし、見たいところがあるの!」 おかしいな、と思い覗き込もうとすると、次の瞬間にはパッと笑顔を自分へ向けているビーデルがそこに有る。 気のせいだったのだろうか。 「いいですよ。」 ニッコリとしながらそう言えば、ぎゅっとビーデルが自分の腕に腕を絡ませてきた。 う、わ!!!!! ドキン!!!! 心臓がはねる。途端、反射で絡んだ腕を離してしまう。 何度も全てを繋いだ事があるというのに、昨日の事で変に自分もビーデルを意識してしまっている ようだった。 というよりも。 意識している自分を悟られたくなかったのが本音で。 自分は、あんなやつらとは違うと思いたかったのだ。 あんな――――――彼女の体にしか目を向けていないやつらとは。 「あ、ごめん」 ハ、としたビーデルの言葉に、いえ、とだけ言うと、そのまま無言で店へと歩く。 その時点で、気付けばよかった。 彼女の、言葉が微妙に落ちている、事に。 * 日曜の大勢人が集まる街中で、二人の間に会話はない。 カツカツと、ビーデルのはいているかかとの高い靴の音がする。 それを後ろから自分は黙って付いていく。 ――と。 どのくらいか歩いた所で、ビーデルがピタッと止まった。 後ろから見る彼女の背中は少し、震えて―――― 「・・・やっぱり、いい。無理して付き合ってくれなくても、いい・・・」 ・・・・・・え? 震える彼女から、震えた言葉。 驚いて何も言葉を発せずにいると、クルッとビーデルが振り向いた。 ・・・ええ!? その瞳には薄っすらと涙がたまっている。 「嫌だったんでしょ、わたしとデートするの・・ハッキリ言えばいいじゃない。」 誰が、そんな。 嫌なわけないじゃないですか。 どこをどうしたら、そんな話になったのだろう。どこで、なにが間違ったのだろうか。 パニックになる寸前だ。 「最初からつまんなそうだったもんね・・・今日のデートもわたしから無理に誘ったようなものだったし。 それなら最初から断わってくれれば良かったじゃない・・・!」 ぐ、と口唇をかんで下を向くビーデルに、ギュッと心臓がつかまれたような感覚が支配する。 早く、早く。 誤解を解かなければ、大変な事になる予感がして。 「つまらないなんてそんな!僕は楽しみに・・!」 やっと出た言葉が、これだった。 慌ててしまって、思考に身体がついていかないのだ。 「うそ!じゃあ、なんで前の日に勉強しすぎるのよ!そんな、楽しみじゃなかった証拠でしょ・・」 小さくなるビーデルの声。 ちが。 違います!!!!!!それは――――――!!!!! 「・・・もう、帰る。」 ポロ、と。 彼女の瞳から一粒零れた、涙と、言葉。 さよなら。 そう言いながらすっと自分の横を通って去るビーデルに。 その言葉の意味を計りかねて――――いや、計り過ぎて。 「ビーデルさ・・・・」 悟飯は、その場に固まってしまったのであった。 |
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