<あいくるしい> -3- |
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『たまには勉強じゃなくて普通にデートしようよ!』 放課後、図書室で一緒に勉強をしている悟飯に向かってそう言った。 最近、もう受験が近いからと図書室で勉強兼放課後デートするような事が多くなってきていたのだ。 悟飯には『学者』と言う夢がある。それを自分は知っていて、応援もしている。 だけど、それだからといって、いつもいつも図書室デートだけじゃやっぱり物足りない。 たまには、休みの日に外で一緒に過ごしたかった。 だから、誘った。 『・・そうですね。』 少し困ったような顔をする彼の表情に、ちょっと胸が痛む。本当は、声を大にして、自分と受験と どっちが大事なの、と言いたい事もしばしばあった。でも、それを言ったらお終いなのは分かっていた。 バカらしい、と思う。そんな事を考えてしまう自分にもほとほと嫌気がさす。 大切なのは受験の方に決まってる。そんな事は分かっている。 夢と、自分を比べようなんて。 そんな事、口が裂けてもいえなかった。 だから、自分の気分転換もかねて、悟飯を誘ったのだ。 『じゃあ、日曜日、どこかいきましょうか?』 ・・・やった! 色々と思案してそう答えをだしてくれた時は、本当に嬉しかった。別に初めてのデートでもないのに、 きゃあ!と言いたいほど嬉しかったのだ。 前日は、ワクワクして眠れそうになかった。家の廊下で父のサタンとすれ違う時、 今日はテレビで自分の事をどうのこうのと喋るその言葉も、よく耳に入ってこないほどだった。 明日のためにはテレビなんて見る暇はない。服を選んで、ちゃんとお手入れをして。 22時には、眠りについていた。 ――――――準備、万端だったのだ。 楽しむ為に。 悟飯と、楽しむ為に。 でも。 一瞬にして、それは自分の空回りだと気付かせられた。 「ふわ・・」 会って早々、悟飯が退屈そうな大あくびをした。 「寝不足?」 なんて、とぼけた振りをして笑顔で返事を返したけれど、内心物凄くドキドキしていた。 「予習しすぎちゃったみたいで」 その言葉にドキリとする。 もしかして、誘った事は迷惑だったんじゃないかと。 OKをだしたあの時も、無理やり了承したんじゃないかと。 心臓がドキリと跳ねるのを、気のせいなんだというように自分を騙していた。 でも 「今日は、どこいく?」 必死になって、自分のほうを向かせようとした言葉が仇となった。 「あ、あ、えーと・・・僕は、どこでも」 どこでも。 その言葉に、心にピシリとヒビが入る。 普段なら、至極なんでもない言葉だと思ったろう。 こんな時だから、きっと過剰に反応してしまうのだ。 ・・落ち着け、落ち着け・・。 そう、別に、嫌がってるわけじゃない。悟飯くんは、このデートを―――― 嫌がっては。 ・・・ぎゅ、と。 確かめるように、恐る恐る悟飯の腕に自分の腕をまわした。 と。 一瞬、悟飯の体が固まったのが自分に伝わる。 そして、次の瞬間。 バっ!!!! 自分の、腕を嫌がるかのように。 悟飯は、振り払ったのだ。 ・・・うそ・・・!!! 決定打だった。 付き合い初めでもないのに、そんな風にされるなんて。 迷惑でなければ、振り払うはずもないと思った。 でも、彼にとっては迷惑だったのだ。 「あ、ごめん」 呆然と思いながら、言葉だけが出た。 「あ、いえ・・」 悟飯の口からもそれしか出てこない。 大体、悟飯は口が上手い方ではない。だから、もしかしたら―――――― ・・・もう、ずっと自分を迷惑に思っていて。でも、彼のあの優しさで、その上口下手な部分が災いして、 自分に告げられずにいたんだとしたら。 ・・・なんて、滑稽なんだろう。 バカみたいだ。 一人相撲を、取っていただけだったんじゃないのか。 無言のまま歩く時間に、押しては返すようにそんな思いだけが胸に募っていく。 自分が喋らなければ、あまり話さない、彼。 何を考えているかも、自分が教えて欲しいといわない限りあまり喋る事はなかった。 カツ、カツ・・ 賑わう街の中で、自分の足音だけが響いている感覚になる。 悲しかった。 もうどうしようもなく、悲しかった。 ・・・・・もう、だめ。 これ以上は限界だ。 これじゃあ、自分が無理やり悟飯を連れているようではないか。 だから、言った。 震える身体を抑えずに、言った。 「・・・やっぱり、いい。無理して付き合ってくれなくても、いい・・・」 ピタッと止まって言った自分の言葉に、悟飯は黙ったままで。それがまた、悲しみを増長させた。 クル、と振り向いて、見上げなければ見えない悟飯の表情を避けるように目線を外す。 「嫌だったんでしょ、わたしとデートするの・・ハッキリ言えばいいじゃない。」 外した視線の先にある悟飯の身体は、さっきから微動だにしない。 ・・そうだよね。 肯定の意味なんだと思った。そうじゃなければ、きっともっと・・。 無言の時が流れる。 そうして、やっと悟飯が言った言葉は―――― 「つまらないなんてそんな!僕は楽しみに・・!」 優しさだと思った。彼なりの、優しさなんだと。 普通に考えれば、彼が「そうなんだ」と言うわけはない。それを分かっていて言葉をぶつける自分は最低だ。 でも、もう。 止められない。 「うそ!じゃあ、なんで前の日に勉強しすぎるのよ!そんな、楽しみじゃなかった証拠でしょ・・」 酷い言葉だと自分でも思った。 勉強をしようがしまいが、そんなの悟飯の勝手ではないか。 頭では分かっていた。 でも心が分かりたくないと叫んでいた。 再び、無言が訪れる。 今日はこの場にいたら、もっと嫌な言葉を言ってしまうかもしれない。 だから 「・・・もう、帰る。」 言いながらポロ、と涙が零れた。 これ以上嫌な彼女になりたくない。 「さよなら」 また明日、と付け加えたかったが、それ以上は言わなくていいと思った。 佇む悟飯を後にして、ビーデルは今きた道を戻って、いった。 そうして 半刻もしない内に。 「ビーデルさんだね?」 「・・・はい?」 見知らぬ男性に、声をかけられて、いた。 渡された名刺には。 ”STUDIO ホワイト―専門写真家” と書かれて、いた。 ・・・・・なに? 怪訝な顔をして男性の顔を見れば、サタンさんには申し入れてあるんだが・・・・と落ち着いた声で 言われてしまう。 パパ? 泣きはらした表情で「どういう」、と言おうとすれば、ちょっとそこのカフェに入ろうといきなり肩をつかまれた。 ・・・・ちょっ・・!!!! もう、一体なんだというのだ。 悟飯には迷惑がられ、いきなり現れた男性には唐突に肩を抱かれ―――――― 「止め・・・・!!!」 やめて、と。 振り払おうとした――――――その時。 「・・・・ビーデルさんを、離せ。」 ・・・へ・・・・ 一方的にその場に置いてきた悟飯が、目の前に、いる。 いや、いるというよりは、来た、のほうが正しいか。 「なんだ、君は・・」 言う男性の言葉にも、恐怖がハッキリと感じ取られる。 ・・・なんで? そうなのだ。 なぜだか、悟飯の言葉と態度は怒っている、という事をありありと表現していた。 迷惑がられているはずなのに。 見知らぬ男性に肩を抱かれっぱなしだという事も忘れて、ビーデルは悟飯を見詰めながらそんな事を 考えて、いた。 「二度は言わない・・・・離せ。」 悟飯の声は、怒りを増す一方だった。 |
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