[ あなたの虜] |
『ぜってぇ誰にも言うんじゃねえぞ!!!』 「・・・・・って言われてもなぁ・・・」 バン! 慎は、無造作に床へ鞄を放り投げると、制服のまま 部屋のベッドへ転がり込んだ。 『久美子が好きだ』 ―――と。そう、告げたのはついこの間の事。 保健室で、抱きしめて、告白して―――唇も、掠め取って。 心が、通じ合った―――と、そう思ったのに。 「・・ッきしょ・・・・やんくみのヤロ・・・・・・」 バサっと上着をベッドの下へと投げつける。 1時間目が終わるまでの、あと20分くらいの間に――言ってくれると思った。 言ってくれるのを、待っていた。 『俺の事、好き?』 その、答えを。 でも―――実際は。終りを告げるチャイムがなり終わったと同時に、久美子は自分の腕から 素早く逃げ出して、挙げ句の果てに。 『絶対に誰にも言うな』 ・・・・と。そう置き台詞を残して、久美子は出て行ってしまった。 「・・んなんだよ、あいつはっ・・・・・・」 心が通じ合ったと思っても、やっぱり相応の言葉も欲しい。 確実に、自分を好きだという証拠が。 ・・・・・・・・我がまま、じゃねぇよな、別に・・・・。 そう、自分は思うのだが。恋愛初心者の久美子は違うのだろうか。 「あーーーーーー・・・わっかんねぇーーー・・・!!」 バサ、バサ、とベッドの上で、慎は制服を脱ぎ捨ていく。 「腹減ったな・・・・」 チラ、と時計を見ると、すでに7時を過ぎていた。 ・・・・・そういえば。 前に一度だけ道端でヤンクミに会って――家で、夕食を食べて帰ったっけ。 「ふ・・」 そんなことを思い出すと、自然に口元が緩んでしまう。 俺って・・虜になってンな・・・・・・・。 久美子への想いを感じる瞬間。好きで、好きで・・・・・・たまらない。 ――そう、自分は思っているのに。 『ぜってぇ誰にも言うんじゃねえぞ!』 「っあ―――・・・・・」 そこまで考えると、また、やるせない気持ちと――空腹の叫びが。堂々巡りで襲ってくる。 くそっ・・・・・・・・。 慎は、トン、とベッドから腰を上げて、気を紛らわすのと、空腹を満たすための箱・・・・冷蔵庫に手をかけた。 が。 パタ・・・・・・ 2秒としないうちに、その黒い扉を元通りに閉めてしまう。 「何も入ってるわけねぇよなぁ・・・。」 男の一人暮らし。スーパーに買い物に行くわけでもなく、誰かつくりに来てくれる人がいる訳でもなく。棚の上に置いておいた、カップヌードルも。 「底ツキ・・だな・・・・・」 はぁ・・・・、と慎は心からため息をついた。久美子にやられ、食べ物にもやられ。 「コンビにでもいこ・・・・・・・・」 そう呟いて、そそくさと私服に着替えると、慎は近くのコンビニまで夕飯を買いに行くのであった。 空腹と、悩める頭と――― ・・・。会えねぇかな・・・。 少しの希望を、胸に抱きながら。 |
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