[ 恋の試練は君のため ]
-09-


・・・・ほんっと、見てて飽きねぇな・・


ギュッと繋いだ右手。


連れ去った、あの瞬間。


その瞬間から、玄関先で出会った時から、驚きと動揺でパニクっていた、彼女。


そして。


今。


自分の部屋で、もぞもぞと居心地の悪さを全身で表す彼女。


その行動は、自分を一喜一憂させて―――――――


わけも無く、愛しさが、溢れ出す。


「・・・・いいけど。」


久美子が独り言を口に出して、返した言葉。


言いながら、自然に笑みが漏れた。


・・・・心、に。


心に、余裕が、出来ていた。朝よりも―――比べ物にならないほど。


久美子は、今・・・・何を考えているんだろうか。


赤くなって、青くなって。


・・・・・あ。


今度は、青いまま空気が沈み込んでいく。


・・・しょうがねぇやつ。


悪い方へと考える彼女の思考を止められるのは、自分しかいない、から。


「・・・バーカ・・」


だから、愛しさを一層込めてそう呟くと、ふと上げた久美子の視線を瞳で絡め取り、そのまま体を引き寄せて。


「・・・ひゃ・・」


力一杯、小さくて柔かいその体を、抱きしめた。


「・・あ・・・・っ・・」


自分の首筋に、久美子が漏らした吐息がかかる。可愛くて、愛しくて――――


「・・・お前さ。どうして俺に、何にも言わねぇんだよ・・・」


――――・・・安心させたい。いつも不安になる、彼女を。


「俺・・お前が思うほど、弱くねぇし、何も考えてない訳じゃねぇぞ。」


――――・・手に入れたい。どこかに行ってしまいそうになるから。


「全部・・・・全部、言ったから。三代目に。」

「えっ・・・!?」

「・・・言われた。俺が来るのは、わかってたって・・・」


だから。


「・・・久美子を、頼む、って・・・だから・・もう、本当に俺のモン、だから・・・」

「・・・・っ・・・!」


ビクン、と抱きしめた腕の中で久美子の身体が小さく震える。


もう・・逃がさねぇ。どんなに久美子が不安になって、俺が見えなくなっても――――・・


息つく暇も無く、言葉を感じたまま久美子へ届ける。自分の思いも、事実も、全て。


「・・・・・・・」


息を飲む久美子の気配だけが、自分の胸で広がっていく。


・・ドクン。


中々、何も言わない久美子に不安がどんどん押し寄せて来そうになった。


け、ど。


「・・・あたしは・・いつだってお前のモンだよっ・・」


ありがとう・・小さく呟いて、ぎゅ、と自分の胸を押しながら顔を上げた久美子が、涙を流して自分へ伝えたその言葉。


「・・・久美子・・」


その言葉に――心の底から、笑顔がこぼれた。


嬉しくて・・・本当に、嬉しくて。


・・・・安心、した・・。


ここ一週間、ずっと心に引っかかっていたものが、やっと取れた気が、した。


「・・でもずるいぞっ。あたしに何も言わないでお祖父ちゃんと話しつけて・・心臓、止まるかと思ったんだからな!」

「バーカ。お前だって俺に何も言わなかったじゃん。そうやっていつも一人で全部片付けようとして・・・そっちの方がずるいと思うけど。」

「・・・うっ。ぅ、ぁ、それはその・・悪いとは思ってるけど・・・で、でもそれに!そ、そそそそれに!あ、あんな事お祖父ちゃんの前で言うなんてバカっ!もう!どんな顔して朝家に帰ればいいんだよ!」


あんな事?


・・・・・あ。


そう言えば、借りるって言って来たんだよな。何も言わなかったこいつへのイタズラだ、と思って。


・・・イタズラだけど。本気の、悪戯を。


「・・・どんな顔って・・・いつも通りで良いだろ?悪い事するわけじゃねぇし。」


抱きしめた腕に力を込めて、背中に回した手の先に久美子の長い髪の毛を絡ませていく。


「わっ・・わっ・・悪ぃ・・・なんて思ってないけどその・・そんな事言うこと無いじゃないか・・・」

「俺とお前が男と女の関係だって言うのは、あの人はもう分かってるよ。全部お見通し、だろ。それに・・・久美子と一緒に、三代目の前でもう一度宣言したかったんだ。本当に、恋人同士だって・・・・」


――本当に、本当に。二人の意思で、こうなったんだって。


「・・えっ・・ぁ、待っ・・・・!・・・・んぅ・・っ」


言いながら、感情の赴くままに、目の前にある久美子の顔へ、首筋へ、口付けを降り注ぐ。


「・・はぁっ・・ん・・・」


奇麗な鎖骨へと滑らせた唇で、自分の印を幾つも幾つも付けていく。


「・・・お前の事、抱きたい・・ずっと我慢してた・・・」

「・・ぁっ・・・慎っ・・」

「・・もう、本当に全部、俺のモンになれよ・・・・・」

「あ・・・・あぁぁっ・・・!!!」


呟いた言葉に、答える隙を与えないまま――――段々昂ぶる愛情を愛撫に変えて。


「・・・んっ・・ん――――っ・・・!っはぁ・・・慎っ・・・!!」


受け入れてくれるままに、慎は二度目の夜を、深く、濃く、味わっていくので、あった・・・。


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