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「・・やんくみ」 「へっ・・・・!」 振り向いたその先には、自分にしか見せない特別な笑顔が、あった――――― 『笑顔の魔法』 3時間目、空き時間。 久美子は、真赤になった耳を隠すように、資料室の机に突っ伏していた。 真赤になった、その原因――――――――・・・は。 『・・やんくみ』 そう言って、慎が見せた、あの笑顔。 「・・・ど、どうしたんだ、あたしっ・・!」 ドキ、ドキ・・・ さっき、廊下で見せられたあの笑顔に、何だかドキドキがとまらなくなっていた。 慎と夏に付き合いだしてから、もう3ヶ月、やっと3ヶ月―――――― その間に、色んな事が合って、笑顔なんて見慣れた。 ――――と。 そう、思っていたはずだった。 いつだって、二人で会う時は自分にしか見せない笑顔をしていたはず。 だから。 今日、廊下で見せたその笑顔は特別なモノではなかったはず――――・・なのに。 「な・・・なんでっ・・・・?」 なぜだろう・・ なんだか、胸の奥がきゅぅっとなって、鳴り出したドキドキがとまら、ない。 そういえば、ここのところ急に自分が変になったんじゃないかと思うことが結構あった。 『キスしたい』 と、いきなり思ったりした時もあった。 そして、今日―――――――― 『・・・やんくみ』 ・・・ニコ。 あの、眩しいくらいに自分が好きだといっている、あの笑顔。 いつもの無表情さからは考えられない、あの笑顔。 それが。 「・・・・・っ・・・・!!!」 言葉に発せられないほど、急に――――――胸に、きた。 ど。 どうすれば、いいんだろう。 「そ、そうだっ・・・・・・!」 川島先生か、藤山先生に――――――!!!!!! 相談、してみれば。 そう思ったところで、ハッとする。 そう言えばこの間も、そんな事を思って一緒に飲みに連れていかれれば。 『何であたしが・・・・』 そう思ってしまうほど、二人とも大トラになった挙げ句―――― 『・・・なんで俺に言わねぇんだよ』 ・・と。 いつの間にか来ていた慎に、諌められたのを思い出した。 『なんで俺に』 そ、そんな事言われたって・・・・・・・! 「い・・・言えるわけねぇじゃねぇかっ・・・・!」 本人に、本人への悩みを告げるほど自分もバカではない。 でも。 でもきっと、この気持ちを解決できるのは慎だけなのだろう、けど―――― ・・けど。 どうしても。 「・・・い、言いたくないし・・・」 言いたく、ない。 きっと言ったら、また呆れるような目つきで見られそう、だし。 それに。 そ・・・・それに。 「・・・恥かしいし・・・」 恥かしい、のだ。本人に向かって、『ドキドキする』なんていうのは・・・・ 何とか、自分で解決する方法はないだろうか。 「うーん・・・・・・」 ああでもない、こうでもないと無駄足になるようなことばかりを考えていれば、着々と時間は進んでいって。 キーンコーン・・・・・ 「ああっ・・・・・・・!!!!」 3時間目が終わりを告げるチャイムが無情にも資料室に響き、渡った。 「つ、次って・・・・・・・・」 ・・・はふ・・。 溜息を一つ漏らして、授業表を確認する。 『4時間目―3−D』 ・・・キッチリと書かれた、授業表の文字。 いつもなら、気合を入れて授業の望めるはずの、その時間。 が。 「行きたくなぁい・・・・・」 今一番、足を運びたくない教室に早変わりしてしまったので、あった。 そして 「ごめんっ・・・今日、自習!」 そう言って、久美子が教室を飛び出すまでに、そう時間はかからな、かった。 |
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