-side・久美子- |
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「はぁ・・・ど、しよー・・」 はふー・・・ 溜息をつく、玄関先。 『大江戸一家』 その看板が掲げられた、門の前。 カサ・・・ 溜息をついて、チラッと視線をうつしたその先には―――― 「・・これ、見られたくないなぁ・・」 ピンクと白に彩られた、光沢のある紙袋。 その、中身はと言えば・・・・・これまた、可愛くピンクの水玉の包装で包まれた、テディベアのチョコだったり、する。 「んん・・・・・・・・」 実はというかなんというか。 上げる相手はもちろん一人しかいないのだけれど、も―――― 「・・・ど、見たって分かるよなこれ・・」 こんな風に。 家に、可愛い方そうで包まれた、バレバレのそれを買って帰ってくる、なんてことは一度もなかったから。 その つまり。 「・・・みっ・・・見られんの恥かしいっ・・・」 いくらなんでも、家族とはいえ――――――・・自分に、好きな相手がいて。 その相手に、バレンタインという家業からは似てもにつかぬ乙女チックなイベントの代表たるチョコを上げる、なんてことを。 「・・・知られたくないなぁ・・・」 知られるのは、ちょこっと恥かしい。 いや。 「大いに恥かしいだろっ・・・・!!!」 ・・のだ。 別、別に。 見られたところで、誰が何を言うわけでもないし。 ただ、ただ単に、好奇の目でちょっと見られるだけ・・・・・・・・・。 「・・それが、ヤ、なんだよな・・」 ・・ウロウロ。 ・・・ソワソワ。 門の前を行ったりきたり、久美子が家に到着してから既に30分が経過して。 「・・お前、何やってンの。」 「わきゃっ!!!!!!!!」 暗闇から突然現れた慎に、飛び上がるくらいビックリしながらも、慌てて袋を見えないように隠して一緒に家に入った。 ――――――それが。 久美子・24歳。 初めてのバレンタイン・前。なのでした。 *fin* |
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