【千尋の失敗】



「千!千はいるか!?」


がやがやとした湯屋の中に、ハクの声が響き渡る。いつもよりも緊迫感の高まった声。お客も、従業員も誰もが尋常ではない―――そう思うには充分すぎる気迫であった。


「ハ、ハク様!千をお探しで?!」


「兄役!千は何処におる!?」


「は、いえ、それが、そのぉ〜〜〜〜〜・・・」


言い渋る兄役に、ハクの雷が落っこちた。


「兄役!!!!早く言わねばお主に罰を与えるぞ!」


「ははははいぃぃぃ!!!じ、実は・・!」






――やっぱり!!!!!!!!


ハクは、思ったとおりだといわんばかりに足を速めていった。実は昨日、客の間でよからぬ噂を耳にしてしまったのであった。



「あの人間の娘、いつになったら湯女の指名が出来るのかのぅ・・」



なにいぃぃぃ!!??


そう言ったお客に対してまさか問い詰めるわけにも行かず、閉店間際の客だったためもうすでに湯殿は閉じられていた。きっと千尋たちもすでに部屋へ上がっているだろうし、直接確かめることは出来ずに昨日は終わってしまったのだ。――が、今日は違う。


先ほどの客は確かにそう言っていた・・・!あの娘はいつから湯女になったのか、と!!


ハクはピリピリといらだちながら湯女達の待合所へと急ぎ飛んでいくのであった。











――ハクが兄役から聞く、その20分ほど前――



「ね、ねぇ五月さん・・・・・」


「なぁ〜に??」


プカ〜っと煙草を吸い上げながら、湯女の五月はやる気のない声で千尋に応えた。


「あ、あの、私、今日は出なくても良いですか・・・???」


今更何言ってンのよ、と言った顔で五月は千尋を見つめ返す。


だってだってだって!!!!!!!!!! 『湯女』の仕事が、あ、あ、あんなことする事だって知らなかったんだもん!!!!!


昨日、冗談半分で湯女の着物を着せられて遊んでいた千尋とリンは、思いがけず他の湯女から助けを求められてしまっていた。「人が足りない、座ってるだけでいいから」と――。


湯女は湯屋の中で一番売上に貢献している所だと思っても良い。ある程度の色がなければ、客足も伸びないからだ。その点、この油屋はどの世界を見ても一番!といえるほど極上の湯女達が揃っているといっても大げさではなかった。


その湯女達を束ねるトップの湯女に、千尋は見染まれてしまったのであった。
初めは断わっていた千尋だったが、あまりにもしつこいので、「座っているだけなら」と渋々了解を出した。――が、それが間違いの始まりであった。


「あーんた、OKサイン出したんでしょぉ〜〜??しかも、座ってるだけじゃない!」


湯女の待合室の周りは、それ専用の個室となっている。だから、座っているだけだからといって環境が良いとは言い切れないのだ。


「で、でも・・・・・」


千尋は真っ赤になって俯いてしまう、他人の情事を聞きなれているほど千尋は経験があるわけではなかったので、普通の反応といえよう。


「ったく。。。そういう反応すると、昨日みたいにまた"現場"を見せるからね!」


「!!!!!!!!」


昨日は、湯女の仕事・・というものを千尋に分からせるためにちょうど仕事の様子を五月が見せに行ったのであった・・・・これには、千尋も白旗を揚げるしか方法はなく・・・今日の飾り湯女としての仕事も、一目散に逃げ出したいくらいなのであった。


どうしよう・・・・・千尋は、自分が出してしまった軽率な答えを反省すると同時に、ある恐怖も沸きあがってくる。それは。。



――ハクに知られたら・・・・・・・・・・・



ハクは千尋に、この仕事をするな、とは言っていない。ただ単にそれはこの仕事につくはずがないであろうと見越した上で言わなかっただけなのだが。。。



千尋は自分の身に起こりそうな事態を予測して、ブルっと体を震え上がらせる。そして――




「きゃ・・・・!」



店の入り口の方で、五月の小さな悲鳴が聞こえた。何事かと思い、千尋がガラッと襖を開けると――――



「――あ。ハ、ク・・・」


キッと目を上げて一目で怒っているとわかるほどの形相をしたハクが、目の前に立って、いた・・・









まずい・・・小説、スランプに突入です・・(汗)



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