【白蛇の逆襲】





「え、ええと・・・・・」

「我は待っておったのだぞ、千よ?」


千尋の求婚騒動があってあれから4日後。今日、湯屋には一人の神が訪れていた――


「あ、あのごめんなさい・・・白水阿蘇那岐様・・・」

「よい。我のことは那岐と呼べ・・。それにしても、千はその間何をしておったのだ?我との約束を忘れ・・・・・・・・」


じと、とその硝子球のような瞳を向け、明らかにブス〜っとした表情で千尋を問い詰める。


「あのぉ、それは・・・・」

「まぁ・・言わずともわかっておるわ。琥珀と一緒にいたのであろうて。ならば我への答えも必然じゃのう?」


さらっ・・・と銀の長い髪をかきあげて、那岐は千尋に近付いていく。


「あ、は、はい・・すみませんが、お断りいたします・・・・・」

「・・そうか・・・分かった。我も諦めの悪い者ではない。一方通行だがそなたを愛しい者として見守っていくこととしよう・・それぐらいはよいか?良いであろう・・?」


スーッと那岐の伸ばした指が千尋の顔の横にかかっている髪の毛に絡められる。


――――わぁぁぁぁ〜〜〜っっ!!ど、ど、どうしよう・・・!!!!


自慢じゃないが、千尋は男の人に言い寄られたことなど一度もない。中学生の時だって、クラスの男子から告白されたことなどなかったので、いきなり言われた那岐の愛の言葉にパニックになってしまっていた。


「や、ややややや、あ、ああのぉ!!!」

「ま・・今言わずとも良い。今日は今日で先日の埋め合わせをしてもらうこととしよう・・・・・・付き合えよ、千や?」


今言わなくてもいいと言われホッとしたのも束の間、ドーンと目の前に置かれた物に、千尋はまたも絶句してしまうのであった。


「神酒じゃ。そちの居る世界でもゲン担ぎに良く飲むであろう?これは、そのような酒とは比べ物にならないほど上等の神酒でな・・・下等な酒の臭いはせん。飲んでみや?」

「でも、私まだお酒の飲める―――」


そう言いかけて、千尋は口をつぐむ。じと〜っとした目で那岐は千尋を見つめていた。これ以上断わると、さっきの返答を今しなければならないかもしれない・・・・


「わ、わかりました・・・」


そんなことになったらたまったものではない・・そう考えて千尋は奨められた神酒をグイッと一口飲み干した。


「どうじゃ?」


千尋が自分の奨めた酒を飲んだことでようやく機嫌を取り戻したのか、ニコニコとして那岐は千尋に感想を求める。


――お、美味しい・・・・お酒っていうより、甘いお水みたい・・・


千尋は一口飲んで、最初に思ったのがそれであった。だが、誤解してはいけない・・・これは神の持ってきたお神酒だから普通の酒とは違うのである。臭いもしないし、味は透明な甘さのある物に仕上がっている――が、一般にいうアルコール度は普通の酒の倍もある。大体、50度強くらいであろうか・・・・・


「お、美味しいです!!」

「そうであろう?遠慮せずもっと飲みや」


酒ではないような飲み易さに、千尋はぐいぐいと奨めれるまま飲み干していった。そして、数時間後――――



「きゃはははははっ!!那岐、おもしろーい!!」

「そうか、そうか。千尋も変わった人間よのう?」



ドンちゃん騒ぎを起こす二人がどうにも気になったのか、食事を運びに来た女中は兄役に相談し――兄役は父役に相談し――そして、帳場を預かる青年・・・・ハクにも、その騒ぎが耳に入ってしまったのだった。





「・・・今、なんと言ったのだ?」

「は、はいぃ!で、ですから・・・・!!」


ピリピリとした、いかにも機嫌が悪いんだオーラに父役は肝を冷やしながら一言一言言葉を選んでハクに報告していった。


「千が、白水阿蘇那岐様と、酒盛りを・・・」

「・・悪いな。もう一度言ってくれないか?」

「で、ですから、千が、白水阿蘇那岐様と・・・」

「誰と、だって?」

「は、白水阿蘇那岐様です・・・・・・・・・」


途端、父役とハクの周りだけ風がボアン!と立ち上がる。


「ひぃぃっ!!ハ、ハク様御許しを〜〜!!」

「あンの色好き蛇神が・・・・!!!!!!!」


ボソッとハクが呟いた時の顔を見て、父役はさらに腰を抜かしてその場にへたり込みながら、二人の部屋を命カラガラにハクに伝えた。


「なんだとっ!!???誰が、そこに通した!!!」

「ひ、ひぃぃっ!!湯婆婆様よりそこに案内しろと伝えれられましてっ・・・!」


――――あのクソ婆め!!!!


2人が通されたのは「月読(ツクヨミ)の間」。ここは、男が女に愛を囁くために作られた部屋で、大抵は男女カップルの神か、夫婦として成した神がこの部屋を割り当てられるはずだが――


万が一のことを考えぞっとしつつ、ハクは一目散に月読の間へと走り去っていくのであった。


「こりゃ、もう少しで油屋が荒れるな・・・・」


腰を抜かしながらも父役はボソッと呟き、周りにいた従業員達もウンウンと頷くのであった・・・。










求婚騒動の続き(爆)白水様、ちょっち性格が・・・(笑)



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