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「聞いた?千とハク様、とうとう終局を迎えたらしいわよ?」 「えっ!そうなのか!?いやー、そりゃまたなんで・・・」 「何でも、千がハク様に『可愛くない』って言われたらしいのよぉ。それで、どうにかなったみたい。」 「へぇ〜・・・・ハク様もお人が悪いなぁ・・千に対しても冷たく当たられようとは・・」 そこまで蛙男と女従業員ががコソコソと話していると、なにやら不穏な空気が後ろに漂い始めるのが分かった。2人はゴクリ・・とある想像を思い描きながら、どうかそうではありませんように・・・とゆっくりと後ろを振り向いたが・・ 「はっ・・・」 「ハク様っ・・・!!!」 案の定、そこにはゆらりと黒いオーラを漂わせながら仁王立ちをしているハクが後ろにいた。 「・・それはまことか?!」 ハクはくぐもった声で2人にそう問うと、両者は一も二もなく「はいぃぃっ!!」と震え上がりながら返事をした。 「どういうことだ・・・・!!」 キッとハクは2人を問いただす姿勢に入る。 「しっしっ知りませんよあっしは!!!今、この、こいつから聞いたんでさ!!」 ピッと蛙男は横にいる女従業員を指差すと、後ずさりながら早足で逃げていってしまう。 「あっ!・・・あ。あたしも!!!ただ、リンと千がそう言ってるのを聞いただけで!!詳しくは知らないんです!!申し訳ありません〜〜!!!!」 女従業員の方も、そう言い残してハクの元から一目散に逃げ帰ってしまった。 「リンと・・・千が?」 ハクは2人の顔を交互に思い出しつつ、とにかく真相を問いたださねば!と一瞬のうちにその場から駆け出していった・ 「おーーい、せーーん!!そこはもういいから、札とって来てくれ!普通の薬湯でいいから!!」 「うん!わかったー!!」 リンに言われて、薬湯を取りに行こうとした千尋は、遠くで自分を呼ぶ声がした・・気がした。 「あれ?」 ヒョイっと持ち場から顔を出してその方向へと顔を向けてみる。 ?なんだろ??? すると、なんだか怯えあがって何かを口々に言っているみんなの姿が見えるだけで、騒ぎの中心は影になって見えてこない。 三メートル。二メートル。だんだん、騒ぎがこちらに向かってくるような気がする。 「バカ!千、何やってんだよ!薬湯はもういいから、お前は釜爺んとこいけ!」 「う、うん!!」 釜の上からリンの大きな声が聞こえると、千尋はババッと駆け出して釜爺への道まで駆け出した―――――つもりだったが、ボスっと目の前に何か壁のような物にあたって反対側に尻餅をついてしまった。 「いったぁ・・・!!たた・・・・こんなとこに壁あったっけ、リンさ・・・・―――あ゛。」 「さて?壁なんかなかったと思うよ、千尋。そんなに急いでどこに行くのだ?」 「う゛・・・・ハ、ク・・・・・・・・(滝汗)。」 目の前には、冷たいオーラをまとわりつかせながら仁王立ちに立っているハクの姿があった。 ・・どうしよう・・・。 チラッとリンの方を目で見ると、あちゃ〜〜っと言った顔でこちらを見ている。 ハクのこの様子から言って、あの噂を耳にしたのは必然的だ。かといって、「アレ?ハクどうしたの?」 ――何ていうのも白々しすぎる気がする。 千尋は暫し考えて、これは仕事モードで接した方が一番いいと結論付けるとスッくとその場に立ち上がった。 「ぶつかってすみません、ハク様。私これから急ぎで薬湯を取りに行きますので失礼致します!!!!!!」 そんな答えが返ってくるとは思わなく、ちょっと驚いてしまったハクを尻目に千尋は背を向けてダッシュで走り出した。 追いかけもせずにその場に残ったハク。そして、周りのギャラリーたちは見てしまった―― 「逃げられると思っているのかい、千尋・・・」 そういいながら、獲物を見るかの眼差しで千尋の走っていった方向を見ているハクの顔を・・・。 「さ・・・さぁ、仕事に戻るか・・・」 ギャラリーがそう口々にぼそぼそ言い出して、自分の持ち場に帰っていく中、リンもすっと釜の中に身をひそめて静かにまた洗いだした。 「や・・やべーなぁ千の奴・・・大人しく捕まってた方が良かったんじゃね―のかな・・」 「そうだね、私もそう思うよ。」 「どぅわっ!!???」 ぼそっと呟いた独りごとに、いつのまにか釜の中へと入ったのかハクが返事を返した。 「おっ・・・・お前何やってんだよ!早く仕事にもどれよ!」 ドキドキと動揺を隠しながらリンはキッとハクを見据える。「何も聞かれませんように・・」と、少々の願いも込めて。 「仕事?あぁ、従業員の仕事を直で見るのも仕事の一環だからね。気にせず続けていいのだよ、リン。」 「ちっ・・・・」 見られるとやりにくいだの、邪魔邪魔!だのといってリンは何とか釜の中からハクを追い出そうと試みるが、そのたびにはぐらかされてしまい、そのしつこさにとうとうリンは根を上げて言ってしまった。 「お前・・・・・何が言いたいんだよ!?言っとくけどな、あたしは何もしらねーぞ!!」 「リン?私はそなたに何か言えとは一言も言ってないが・・・そう思うということは、何か言いたい事があるのだな?話してもらおうか?」 ニコニコと冷笑を浮かべながら聞くハクに、リンははめられた・・!と悔しい思いをしながらも、昨日の脱衣所で起きた話を一から話さざるをえない羽目になってしまったのであった。 「なるほど。で、その向こうの世界の「男」というのは一体なんなのだ?」 「そこまでしるかよっ!!!あたしの推測だと大方、そいつは千のことを好きで虐めてるとかそういうガキっぽい話なんじゃねーの・・・・・・・・・あ゛っ!!」 リンはそこまで言ってしまって、しまった!と思うが、時既に遅し。大体千尋のことを可愛くないと言った奴がいると話した時点で、「ちょっとまずいかな・・」と思っていたのに、ついつい自分の推測まで入れてしまったものだから・・・・・ 「・・なるほどな。千尋を好いた奴が今回の原因だったわけだというのだな。それは、警告しておかないとな・・・」 表情を変えずにいうハクに、リンはこれは相当まずい!と裏の表情を読み取ってしまう。 「警告って、お前向こうの世界にいくわけでもあるまいし!よせよせ、止めとけよ!」 「・・だれが、その男に警告を与えるなどといった。だいたい、そのような輩がここに居れば警告などせずにすぐ潰しに行く。」 ハクの物騒な発言にリンはサッと顔を青ざめると、じゃぁ誰に「警告」しにいくんだよ!?と、わかりきった答えを聞いてしまった。 「もちろん、千尋に決まっているだろう?数週間後には千尋も一旦もとの世界に戻る。そのときに、何かされないためにも・・・警告しにいくだけだ。ということで、千尋の場所を教えてもらおうか、リン?」 ニコニコと冷笑を崩さずに有無を言わさぬ様子で自分に問い掛けるハクを見たリンは、千尋、ワリィ・・・と心の中で誤りつつも千尋が行くべき場所を告げてしまったのであった。 「手間を取らせたね、リン。あぁ、あと千尋は明日は休むと思うからよろしく頼む。」 そう言うと、ハクはヒラっと釜を乗り越えて千尋が居るであろう場所へとものすごいスピードで走り去っていってしまった。 「明日休むって・・・・・・あのやろー・・千に何させる気だよ・・・・。にしても、千もとんでもない奴に捕まっちまったもんだよなぁ・・・・・南無南無・・・」 リンが千尋の無事を拝んでいる中、千尋はというと、自分が頼れる唯一の安全場所・釜爺のもとへとたどり着き今まさに、その扉を開けようとしている所だった。 コンコン。 「釜爺さん・・・・お邪魔します・・」 カラカラっとドアをあけると、なんだか釜爺と誰かが話している声がする。誰なのか見ようとするが、ちょうどここからじゃ釜爺が後ろ手になってその人物がすっぽり隠れてしまっていた。 「釜爺さん、あの―・・」 「おお!お前さんか!ちょうどいい、こっちゃこい!!!」 ぐわしっと伸びてきた釜爺の手につかまれて、千尋は「わぁ!」と悲鳴をあげながら部屋の中へと連れ込まれた。 「なっ・・・な!ハク!?」 連れ込まれて降ろされたすぐ横にはハクが居た。千尋は「なぜここに・・」と言う顔を釜爺に向かって投げかけた。 「わしはなぁ、別になーも言おうとは思うとらん。しかし、愛する二人が仲たがいしているのは見ていられんでのう・・・・」 「なっ!?」 「色々と、ハク様より聞いたぞぃ。ま、とにかくじゃ。2人で話をするのがよかろ!さ、さ、そこのドアから出て暫く2人っきりで話をせい。んじゃ、ぐっどらーっく!」 千尋が口を挟む余裕もなく、釜爺の手にドアの外へと追いやられると、バタン!と大きく音を立てて扉は閉まり・・その後、カチャリと小さく鍵がかけられる音がした。 頼みの釜爺さえも丸め込まれ。千尋がおろおろしているのとは裏腹に、ハクの方はそんな千尋の様子をニコニコしながら見つめている。 「・・・千尋。何をそんなにうろたえているんだい?」 「え゛っ・・・・う、ううん!そんな事ないよ!そ、そう私ね、まだ仕事が残って・・・・て!ハク――――!!!!! どこ連れてくのおお!!」 千尋が答えを探している間に、ハクはガシっと千尋の腰を持ってスゥッと上へ上って行く。 「何処って・・・私の部屋だよ、千尋。ここでは寒くて千尋が風邪を引いてしまうからね。嫌とは言わせないよ?」 それはそれは楽しげにニッコリと笑ったハクを見て、千尋は何も言えぬまままたもハクの部屋へと連れ去られてしまうことになってしまったのであった。 |
長い・・・長くなってしまった・・・(汗)次で終りです(汗) NEXT ** BACK |