【うわさ】


「おーい千!先上がってるぞ!!」
「はーい!!」

本日の仕事終了〜!という合図と共に、千尋とリンはいつものように従業員用の風呂場へと足を運んでいた。


そこは湯屋の中にいる女はみな集まる場所。どこの世界でも身だしなみを気にするのは変わらないらしい。そんな場所だから、ちょっとでも興味のあることを耳に挟めばたちまち噂が広まるのは当然の話だった。


パシャンっ!

「リンさーん、どこ〜??」

いいお湯だった、と千尋は湯釜から上がり脱衣所(といっても戸で仕切られているわけではないが)へ向かう。

「千!ここだ、ここ!!」
「あ、リンさんっ♪」

無事リンを見つけた千尋はタタタッと駆け寄っていく。その途中で、大きな姿見様の鏡が目に入る。

・・・・・・・。

千尋はじぃっと鏡を見つめると、はぁ〜〜・・と大きくため息をついた。

「千!?んな格好でいると風邪引くぞ・・・・なんだ、どうかしたか?」
「リンさん・・」

ん?と千尋が見つめている方をいるとそこには鏡があるだけ。

「なんだ、鏡じゃねーか。お前の世界にもあるだろ、こんなもん。」
「うん・・・ねぇリンさん。一つ聞いてもいい??」

パッと千尋はリンの方へ顔を向ける。その真剣な表情に、リンも知らず知らずのうちに唾をごくりと飲み込んで、千尋の問いかけに「いいぜ?」と短く答えた。

「私って、可愛い?」

「・・・・へ!?」

ガタガタガタ――――っ!!! と、リンは千尋の質問に思わずずっこけてしまう。

「な、なに言ってんだお前?」

「だ・・・だって!!!可愛く無いって言われたんだもん!!!」

千尋は、顔を真っ赤にさせながらついつい大きな声で言ってしまった。

「言われた・・・ってハクの奴にか!!???」

千尋の声の大きさに返すように、リンの言葉が周りに響いた瞬間、脱衣所にいた女達からどよどよっとざわめきがおき上がった。

「なにそれっ?あんた、ハク様にそんなこと言われたの!?」

「え、あ、」

「そう言われたってことは・・・あんたとハク様の仲は終わっちゃったのねぇ・・」

「え!!いや、ち・・・・!!」

「みんなー!ハク様と千の仲が終わったらしいわよぉ〜!」

「あああああ・・・」


次々と矢継ぎ早に湯女達や他の女従業員に質問攻めにされ、千尋は一つも真実を答えられぬまま――――瞬きもしないうちに、「ハク様と千の仲は終わった」という噂が広まっていってしまった。


「おわ・・・・なんか、すごい話になっちまってるけど・・・結局、どうなんだよ千?」

「どっ・・どうも何もないよ!!!だいたい、可愛く無いって言われたのだってハクにじゃないんだから!!」

「へ?違うのかよ!?」

「違うぅ―――!!向こうの世界にいたときに言われたの!もう〜〜・・リンさん・・どうすんのよー!!」


噂と言う者は、それが嘘でも本当でも広まるもので。しかも話し好きな湯女からそこここにいる従業員達から他の男従業員に広まるのも時間の問題。と、なると・・・


「わ・・わりぃ・・・・これ、絶対アイツの耳に入るな・・・・」

リンは冷や汗をたらしながら千尋の方を見る。

「・・・・・入るよ、絶対・・・。そ、それで・・・それで・・・あぁぁぁ!!どうしよう〜〜〜!!」

既に脱衣所には他の者の姿はなく、今いるのはリンと千尋のみ。とにかく、お前は服を着ろとリンに言われて千尋は脱力しながら服を着る。

「と・・とりあえず、仕事中は俺がなんとかお前を助けてやるから・・夜は、釜爺んとこいけ。」

「うん・・・・。」

「時間かせぎにしかならないかもしれないけどな・・・」

「う・・うん・・・」



――――――― 明日は、いつもよりも忙しくなるな・・・・


2人はそう同時に思いながら、「部屋戻るか・・」というリンの言葉にトボトボと女部屋に向かって歩き出すのであった。



――そうして、2人は重い気持ちを抱えながら次の朝を迎えたのであった。





噂って怖い・・


NEXT
**
BACK