【求婚騒動】 |
「千や。我の花嫁にはならぬか?」 「・・・・・・はい???」 ――2日前。湯屋に訪れた客からそういわれた千尋は、ボーっと女部屋から眼下に広がる海原を見つめていた。 どーしよー・・・・・・・・・ 困ったものである。これが、普通のお客・・・・おしらさまなどの普通の湯殿につかる神様なら一も二もなく速攻に断わった。が・・・・ 「白水阿蘇那岐の神様・・・・なんだよぉ・・・・」 そう、千尋に求婚を申し入れたのは、前回騒動を巻き起こしていった白蛇の神・白水阿蘇那岐神だったのであった。 彼はまた2日後に返事を聞きに来るといった。なんでも、最近花嫁探しをしていて、それならば・・・と千尋がお眼鏡に叶ったわけだ。 「どうしよう・・・・・・・」 「何がだぁ?」 「あ、リンさん!」 呟いた千尋に返事を返したのは、この世界で姐的存在といえる、リンであった。 そういえば・・・・千尋はふと気がつく。リンは大体19歳ぐらいのはず。だったら、いい断り方を知っているかもしれない・・・・・・・。 「リンさん、ちょっと聞いてもいい?」 「あん?あんだぁ?」 リンはもぐもぐと持ってきたあんまんを口に頬張りながら返事を返す。 「求婚された時って・・・どうやって断わればいいのかな?」 ブフ――!!!!! 千尋の思いがけない相談に、リンは口から噴出してしまった。 「わぁっ!!!リンさん何やってんの!」 「何ってそりゃこっちの言う台詞だ!お前、求婚なんかされてんの!?」 リンの驚いた声に、千尋は困った顔でこっくりと頷いた。 「そうなの・・・。でもね、私他にす・・好きな人がいるじゃない?だから、その・・・」 他に好きな人? リンは少し首をかしげた。 千の求婚相手は間違いなくハクであろう・・で、千は断わりたいといっている。他に好きな人がいるからで・・・・ 千の言葉が足りなかったからなのか。リンがはっきり確かめなかったからいけないのか。 2人の間に少々すれ違いがあるものの、会話はスムーズに進んでいく。 「・・・・・・そっかー。断わりねぇ。」 「うん・・・・あんまり延ばすのもアレだし・・でもね、私から言っても引かないかもしれないの。」 そりゃそうだ、とリンは頷く。・・・・アイツが、1度断わったからといって素直に引き下がるようには思えない。 「だからね、そ・その、好きな人に・・・・直接言ってもらおうかと思って・・・」 「直接ぅ!!!???」 「だ、だめかな?!」 ダメに決まっている・・・・・というか、本当は断わるのもよしてもらいたいくらいだ、とリンは思う。そんなことになった日には・・・他の従業員が毎日誰か一人ずつ死んでいくだろう・・・ 「よし!!」 リンは何かを決心してバッと千尋のほうへ向きやった。 「リンさん?」 「わかった、俺が最初になんとなく言っておいてやる!それで、お前はやっぱり自分から言え!そうした方がいい!好きな男から言ってもらうなんて、もってのほかだからな!!」 リンの勢いに千尋は「う、うん」とビックリしながら返事を返した。 とりあえず、機嫌は悪くなるだろうが誰かが死んでいく事態は避けられた・・・とリンはホッとしてまたあんまんを口に放り投げた。 「んで、返事を返すのはいつなんだ?」 「・・・今日・・・・」 ブーーーーっ!!とリンはまたしてもあんまんを口から勢いよく噴出してしまう。 「リンさんっ!!???」 「ごほっ!ごほっ!!! きょ、今日かよ!!!」 ドンドンと胸を叩いて、リンは千尋に問い掛けた。 「うん、返事は2日後にって言われたから・・・」 千尋の声が困惑のトーンに引き下がる。そんな声を聞いた日には、姉御分である自分が何とかせねば、とリンは思ってしまわざるをえない。 今日かよぉ・・・今日から、アイツのいびりがまた酷くなるのか・・・・・・・ま、しょうがねーか・・・ 再度リンは「よし!」 というと、すっくと立ち上がる。 「んじゃ、俺今から行ってきてやるよ。お前、ここに残ってな。でもな、一つだけ言わせて貰うぞ?」 「うん?」 「あいつはあいつなりに千のことを想ってたんだ。俺にもわかる。だから、今までどおり奴には優しく接してやれよ?」 リンはこれからするであろうハクの悲しげな思いにちょっと同情してしまう。 ――あいつ、痛いだろうなぁ・・・・ 「うん、わかった・・!ありがとう、リンさん!」 千尋がニッコリを頷くのを確認して、リンは断わる相手先の下へと駆け出していった。そう、千尋が求婚されたということを隠してた相手――――ハクの元へと。 「ったく・・・あのやろーいつも何処にいるんだよ・・・・っとぉ!居た居た!」 リンは、お目当ての人物を橋のたもとで見つけると重い足取りで名を呼びながら近付いていくのであった。 |
リンさん、勘違い・・・(爆)怖いですな〜〜(笑) NEXT ** BACK |