【真夏の光線】
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「はーぁ・・・・・・」

千尋は大きくため息をつくと、そのまま机に突っ伏してしまう。
時は九月一日。そう、今日は久しぶりの学校・・・・始業式なのであった。

「・・・・どうしてるかなぁ」

この場合の主語は、勿論別世界にいる愛しい思い人――ハクのことである。

「ちーちゃん!おっはー!」

「荻野!なにボッとしてんだ?!」

ぽけーっと両肘をついてそこらへんを見ている間にも、久しぶりに会うクラスメイト達からお声がかかる。

「おはよぉ。」

何かあったと感づかれては、まだまだ思春期真っ盛りのクラスメイト達だ。一気に色んな妄想に思いを馳せ騒ぎ立てるに違いない。そう思った千尋は、力なき笑顔で挨拶を返す。

はぁ〜・・・・・・やる気なーい・・・・・・・

どんなにハクのことや湯屋でのことを思い返しても、今いるのは現実の世界。どうあがいても、目の前の現実から逃れられはしない。

キーンコーン・・・・・

『全体朝礼をはじめるので、教室内にいる生徒は全員校庭へ・・・・・・』

「ちーちゃん!!!!ちーちゃんってば!」

「え、え???」

「ほら、放送流れてるよ!校庭行こう!!」

「あ・・・うん。」

いつまでもうだうだしていてもしょうがないか・・・。

鳴ったチャイムと放送と友達の焦る声を耳にして、千尋はようやくその重い腰をあげて友達と校庭へ向かうのであった。



ざわざわざわ・・・・・・・

校庭内には、全体朝礼だから勿論、全校生徒が集まっている。くるっと見渡し、千尋はある事に気がついた。

・・なんか、一ヶ月ちょっとの間で変わっちゃった子多いなー。

そう。学生の夏休みというのは、色んな可能性を秘めた日々なのだ。今まで地味だった子が急に綺麗になったり、普通の子だったのに悪びれた風になったり・・・・・もちろん、千尋も他の友達から見れば前者の方に入っていたのだが、通常自分ではあまり気付く訳は無く。千尋も、友達に言われて初めて認識することになったのだった。

「・・ねぇねぇ、ちーちゃん。」

「なーに?」

こそこそと友達が千尋に小声で話し掛ける。

今、前の朝礼台では校長先生の挨拶・・俗にいう、『夏休み明けの拷問』がついさっきから始まっていた。

「ちーちゃんってさ・・・・」

「うん?」

なんだか言いにくそうに、友人の方はもじもじしている。・・・一体何が、そんなに恥かしいのだろうか。見ているこっちまで恥かしくなってきてしまう。・・朝礼中なのに。

「あの、な、夏休み・・・なんか、あった?」

「・・・えっ?・・あ、わわわ・・・」

友人の言葉に千尋は少々動揺して一部素っ頓狂な声をあげてしまう。途端、「ごほん!」と担任の厳しい目がこちらを向いて、自分達を戒めにかかったので二人は肩をすくまして身を縮めてしまった。

「な、なによ・・・・それ・・」

が、それに懲りずに千尋と友人は話を続ける。

「だって・・・だってさぁ、ちーちゃんなんだか綺麗になったよ?なんか・・大人になった。」

ぶっ!!!!

お、お、大人になった――?!

友人の言葉に思わず吹き出しそうになりながら顔を後ろに向けると、本当だよ、という表情をしている。

「そ、そんなことないよ・・・」

「ううん!絶対なんかあったでしょ・・絶対、絶対絶対言わせるからね・・・ちーちゃん何にも話してくれないんだもんっ!言うまで今日は帰さないからね・・・!」

「えぇ!?そん、そんな!!!・・・・あ。」

かぱっ。

声をあげてしまい、ヤバイ!と口を押さえたのも時既に遅し。

「・・・・・・・荻野。浅香。」

後ろを見ずとも目の前の友人の顔色と後ろからかかった声で、誰が立っているのかは一目瞭然で。

「あー・・・・・せ、先生・・・」

「お前ら、ちょっときなさい。」

やっちゃった・・・・・・・・・・・・・。

むんず、と2人は担任に首根っこを掴まれて―――登校早々、職員室で朝礼が終わるまでこってりと絞られることとなったのであった。

あちゃー・・・まさか、いきなり先生に怒られることになるとは思わなかったなぁ・・

「えー、では次に・・・」

連れられながらチラッと前の方を見ると、今学期から新しく入る生徒――転入生の紹介を、始めようとしている時だった。





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