【真夏の光線】
-3-


「えっ!?ちーちゃん、見なかったの!?」

「あ・・うん・・・」

またも自分の席の前にやってきた友人・理沙が声を上げて千尋に問い掛けた。

「もーーーーーすっごかったよ!!想像以上!あー、もったいない!」

そこまで言われると気になってくる。どんな人なのだろうか・・・

「あ、あのさ、りっちゃん。その人って・・・」

「だめっ!もう、これは見てのお楽しみね!でもって、ちーちゃぁん♪」

理沙が猫なで声を上げ出した。むむ・・・嫌な予感がする・・・。

「さっきの!話!聞かせてもらおーかぁ??」

やはし。朝礼の際に言っていた、「綺麗になった」訳を聞こうと思っているのだ。

・・・・い、言えないよぉ・・・

言える訳は無い。第一、どこから話していいものやら、あの世界のことを話してもいいのかどうかも定かではないので、千尋は自然口を噤んでしまうに他なかった。

「さーぁ、吐け吐けっ♪」

それでも理沙は聞こうと粘ってくる。ああ、どういって話を逸らせばいいのやら・・・

「あっ!?あっちに転入生が!?」

「えっ!?どこどこ―――!!!???」

ダダダダダ――――!っと、理沙だけでなくほかの女子まで千尋のさした方向へと身を乗り出したり懸けて来たり大わらわになる。

い、今のうちっ!

コソっと千尋は静かに教室のドアをあけ――忍び足で廊下へと舞い出たのであった。その向かう先は、学校内でも静かな場所・・図書室へと。

後に残るは。

「逃げられた――――!」

とベタな手に引っかかって悔しがる理沙の顔だけだったとか。







カタ・・

図書室のドアを開けると、今は授業中のため、受付には誰も据わってはいないし、室内にも誰もいる気配はない。


「は〜・・・助かった・・・」

誰もいない図書室は、空気が澄んでいて本の匂いも心を落ち着かせる。千尋は静かに長机の一端に座ると、再び油屋へと思いを馳せた。

次は何時行けるのか。

とか。

そうしたらハクはまた迎えにきてくれるのか。

とか・・・。

別れ際、これといって緻密な約束などしてこなかった。
「会える?会いに来てもいい?」と千尋が言っただけで、ハクの方は「きっと、会える。」そう答えただけで――会いにきてもいい、とは言ってくれなかったのだ。

「会いに行っちゃ・・・ダメなのかな・・やっぱり・・・・」

シーンとしている図書室に、千尋の言葉のみが宙に浮く。

「会いたい・・・会いたい会いたい会いたいな・・・・・」

ぐでっと机に寝そべって、窓から覗く空を見上げながら自分の正直な気持ちが次々と口から零れてしまう。

「はぁ・・・・」

今の時間だけは、ここは千尋一人の世界。

そのはずだった。

が。

ガタ・・・

ひっ!!!!!!!!

千尋の体が一瞬小さく身じろいだ。

左を向いている自分とは逆の方向――つまり、右隣に誰かが座る気配がした。さっきまで、確かに誰もいなかったはず。

パラパラ・・

本を捲る音がする。もしかして、図書室の奥のほうにいたのだろうか。高校の図書室だけあって、結構大きい。だから、気付かなかったのだろうか・・・・。

う、う・・・・・・。

右を向きたい。でも、なんだか人じゃないようで非常に恐い。今まで散々、向こうの世界で神様やらなんやら「人」ではないものを見て来たくせに、やはりこちらの世界で言う「人ではないもの」――つまり、霊を直視するのはいくらなんでも免疫がなさ過ぎる・・

ギ・・・ギ――・・・・

静かに椅子を動かす。静かにしても、隣にいるのだから行動は丸見えなのだが、ガバッと立ち上がることが出来ないため千尋は少しずつ椅子をずらして体を起こしていった。

こうやって・・・・起き上がれば、相手の顔を見なくてすむ・・・よね?

ドキンドキンドキン・・・・

変な緊張感に鼓動が凄い速さで鐘を打つ。

うし、もうちょっと・・・!

カタ。

立ち上がったー!!

そう思った瞬間。

「・・・・・・・・・・っ!!!!!!!!!!!」

ギュッと、その人ではなさそうな「誰か」に手首をつかまれたのであった。


「!!!???☆○□!!」

千尋がパニック状態に陥るのに、数秒とかからなかった。

どうしよう!!どうしようどうしよう!!!!

恐い。恐すぎる。人以外のものでも、例えそれが人であったとしても。どちらに転んでも恐い結果が待っている・・気がする。

誰かっ・・・・助けて――!!!!!

ドキドキドキドキ!!!!!!!

心拍数が跳ね上がる。さっきの度合いとは比較にならないほど、頭の先からつま先まで響き渡っている。

ぎゅっ。

ひぃ!!!!!!

その「人」が、更に千尋の手首を強くにぎった。そして―――

「!!!!!!!!!」

もう一方の手が、千尋の、首に、かかり。

すっ・・

顎へと伝わり。

くいっ。

自分の方へと向かせようとした時―――

やだ。やだ。やだやだやだやだ!!!!!

「いやー!!!!!!」

恐ろしさから来る千尋の絶叫と共に。

ビッターン!!!!!

「・・・・・・・つっ・・・・・!!」

その相手に、クリーンヒットしたのだった。













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