【湯女の告白】 |
「ハーーーーーーーーーーークゥゥゥゥ!!!!!!!」 ダダダダダダ!!!! 湯屋の廊下を千尋の叫び声と走る音が響き渡った。 「千!?湯屋の中は走り回るなと言っただろう!!それに私のことはハク様とっ・・・・!!??」 ビッターーーン!!!! くるっと振り向きながら叱咤したハクの左頬に、瞬間的な痛みが走る。 !!?? 自分が千尋に平手打ちをされたのだと分かるのに、ゆうに10秒はかかってしまった。 「最っっっ低!!!!!!もう、私家に帰るからっ!暫く顔も見たくない!!さよなら!」 そう言うがいなや、千尋は目にもとまらぬスピードで元来た道を戻っていく。きっと、まだ残っている仕事場へと駆けて行ったのだろう。 「ち・・千尋・・・?!」 哀れ、ぶったたかれた挙句に別れの先刻をされてしまったハクの方はと言うと、まだ何が起こったのか分からずにその場に呆然と立ち尽くしてしまった。 「もう!もう!信じらん無い!!ハクの馬鹿!っ・・・うぅ・・・」 キュ、キュ、と湯釜を磨きながら泡と一緒に千尋の涙が混ざる。 「な・・なぁ千。あれは湯女達のウソだって・・・・あいつがそんなことするわきゃねーよ・・・(多分)」 「ウソでも何でも言われるって事はそれ相応の何かしたに決まってる!今日のこの仕事が終わったら・・・家に帰る!」 どうやら千尋の頑なになった心は揺るげないらしい。そう感じたリンは、はぁ、とため息をつきながら横で"余計なことを言った"と小さくなっている湯女達をジロッと睨んだ。 「ね、ねえ千。あれってば全部作り話なのよ・・」 「そそ・・そうそう!ハク様がそんなことする分けないじゃない!」 「そうよねっ?リン!」 口々に湯女達が弁明を始める。なぜ千尋がココまでおかんむりになってしまったのか。それは、暫し前の時より始まった湯女達との会話の中にあった・・・。 「ねーえ、千。あんた知ってるの〜?」 それはこの湯屋の中でも見目麗しく、ナンバー1(笑)と言われるほどの湯女・五月の一言だった。 「え、何をですか??」 「やーね。あんたに関係あるって言ったら、あのお方に決まってるでしょ。いつも厳しくて〜、でもお顔は端整で美しくて隙が無くて、密かに湯女達から人気のあるハク様に決まってるでしょうが!」 五月の言葉から並べられる、ハクに対する華美な言葉に千尋はハハハ、と笑いながらも湯女達に人気があるという部分は聞き逃してはいない。 「ハク様が・・どうかしたんですか?」 「彼ってばね〜、千にだけじゃないのよ、優しいのは。実は、この五月姐さんにも千と同じようなことしちゃってるんだから・・・フフフ、知らなかったでしょ?」 ―――――――え。今、何て言ったの・・・? 千尋の思考が一瞬でストップしてしまう。 「あんたがいなかった間、どうやって抑えてると思うのぉ??」 五月は乱れ合わせた着物から覗く脚と、くびれた腰をくねらせながら千尋のほうへ身を乗り出す。 「ど、どうやってって・・」 聞きたくない。聞きたくはないけど、聞かなきゃいけない・・そんな気がして、千尋は素直に五月の話を聞いてしまっていた。 「あら。そんなの決まってるじゃない?あれよ、ア・レ♪」 クスクスと笑いながら五月はその言葉を言い放つ。 実の所、コレは五月の真っ赤な嘘で。ハクが湯女から人気があるというのは本当だが、それは見た目だけの話。人間(?)性となれば話は別で、人気どころか敬遠される存在だ。ハクが来た本当に初めの方こそ、自分達からモーションをかけたりしていたが、あの顔にあの性格に。冷たい目と言葉とでプライドを崩された彼女達は、ただ単に"特別"の千尋をからかいたかっただけなのだった。 「あれ・・・。」 かぁぁぁぁっ!!と、千尋の顔に、頭に血が上り真っ赤になっていってしまう。 アレ、ってアレ?こ、こんな妖艶な体してる人とするアレって言ったら・・・あああアレしかないじゃない!! ――――ぷち。 悶々と考えは続き、ついには千尋の頭のどこかで何か切れる音がした。 「・・・・信じられない。」 え。とリンと湯女達は千尋の様子の変化に、目を見張る。 「信じられない。人の事待ってたとか好きだとか散々言っておいて・・・そういう事だったんだ・・・」 ボソボソと口元で呟く千尋を前に、リンと他の湯女達は必死で暴走を止めようとする。 ・・・が。 「なんだったら、ハク様に聞いてみちゃえば〜〜?」 という五月の一言のおかげで、千尋の顔は怒りの形相に変化し果てた。 「・・・ぜーーーーーーーったい許さないんだから!!!!私、家に帰る!!」 「お!おいおい!!!千、こんな湯女達の言うこと本気に取るなよ!嘘だよ嘘!!」 そんなリンの言葉が千尋の耳に入るはずも無く。いいように遊ばれた結果、冒頭の行動へと移してしまう原因となってしまうのであった。 |
ハク様ピンチ?(笑) NEXT ** BACK |