10000Hitリクエスト小説

【 ピ〜ス☆ 】
-1-



「待ちなさい、千!」

「・・・・・・・・なんでしょうか?」

営業時間終了後、2人の声が湯屋の中に響き渡る。いや、正確にはハクの声だけだったのだが。

ふーんだ・・・・・・

千尋は軽く睨みながら、他人行儀に返事を返した。

「それは、一体何の真似だ?」

何の。きっと、仕事中の自分の態度の事をいっているのだろう。

「さぁ?一体何のことをおっしゃっているのか分かりません、ハク様。私、もう疲れたので部屋に戻りたいのですが。」

白々しくしらを切って、千尋は女部屋へと続く階段を上っていく。

「せ・・・千尋っ!!!!!」

「お休みなさいませ、ハク様。」

自分を千尋と呼んだハクにも態度を変えず―――千尋はドタタタタッと階段を駆け上がっていったのだった。





「お、おい千・・・どうしたんだよぉ?」

部屋に戻ると、一部始終を見ていたリンが話し掛けてきた。

「・・・・私、悪くないもん。悪いのは・・・・・悪いのは・・・・・・ハクなんだからーーーー!!!!!!!」

「おわっ!お、おい〜〜!泣くなよぉ!!」

号泣した千尋から、リンは苦労して話を聞き出すと―――

「なに〜?!それ、お前の見間違いとかじゃねぇのか?

「・・違うもんっ!絶対、絶対ハクだったの!だって、ハクの部屋から出てきたんだもん・・・ハクと綺麗な女の人が!!!!」


衝撃的事実発覚――――事の起こりは、昨日の夜中。

「うんっ・・・出来た♪」

たたっと千尋はまかない場からあるモノを持って飛び出した。

「えへへ・・・ハク、お腹すかしてるかもしれないしねっv」

その手にもたれているのは、笹の葉に包まれた二つのおにぎり。この間、ハクと話している時に、不意に話題に上ったのだ。

『時々、夜中にお腹のすくときもあるけどね・・・・・千尋、作ってくれるかい?』と。

だから、千尋は今日実行した。大好きなハクに喜んでもらうために、ハクには言わないで突然渡そうと思ったのだ。

が。

「うそ・・・・・・・・・・・・・」

それがどうやらいけなかったらしい。呟いた目の前には―――

「わっ・・・・・・すみません。」

「いや、いいぞ。」

段差でつまづいてしまったものすごく綺麗な女の人を、受け止める――ハクの姿が、あった。

それも。

「歩きにくかったら、掴まってもいいぞ。」

といって仲良さ気に最上階の方へと歩いていく、2人の姿が。

「な、なにあれ・・・・・・・」

あれは間違いなく、ハクだ。女性の方は後姿で、残念ながら顔は見えなかったが――着ているものといい、艶やかな黒髪といい・・・・きっと、絶世の美女に違いない。

ポロ。

千尋の目から涙が零れ出す。

「信じらん無い・・・・・・・・信じらん無い!!!!!!ひっ人には作ってくれとか言っておいて・・・・・自分は他の人連れ込んだりしてたんだ・・・・・・・・・・・っ!!」

ばさっ!

近くにあったゴミ箱に、千尋は作ったおにぎりを投げ入れた。

「もう・・・・・・・・もう、ハクなんて知らない!絶対何も作らないし、普通に話してもやらないんだから!!・・うぅ・・・・ええぇぇん!!!!!!!」

バタバタバタバタ・・・・・・・・

千尋は、泣きながら女部屋へと戻っていったのであった。



そして、それから幾ばかも立たないうちに、2人がハクの部屋の前へと戻ってきた。

「そろそろ、よろしいですか?」

女の方が、ハクに話し掛ける。

「いやだ!まだこの格好でいたいゾ!」

ハクが、返事をする・・・が、なにやらいつもと違う様子。

「・・・・・・・・・いい加減にしてください。」

「うぅ・・・・・・・・・・・・」

女が凄み、ハクが退いたその瞬間―――

ポンっ!

「あーあ・・・・・・・・戻っちゃった。」

「ふぅ・・・・」

バサリ、と頭の被り物を女は取り除いた。

「さぁ、もう寝る時間です。魔法の練習はまた明日にでも致しましょう。」

「ちぇ。分かったゾ。でも、ハクってその格好にあうなぁ・・・・・・あ、なんでもないっ!では坊は戻る。また明日、頼むぞ。」

そう言って、坊はねずみの姿になると――自分の部屋へと姿を消したのだった。

「はぁ・・・・・・・・」

ハクはため息をつく。いくら練習とはいえ、まさか自分が女装する羽目になるとは・・・・・。

「千尋がいなくて、よかった・・・・・・・・・・・」

心底そう思うのであった。


そう。千尋が見たこの二人とは、ハクは坊で。絶世の美女と思われたその人物は――紛れもなく、ハクだったのだ。

が、ハクの呟きもとき既に遅し。次の日、千尋にあった時には既に―――

「なんでしょうか、ハク様?」

・・・・・・えっ?

ハクが記憶を総動員するくらい、千尋の態度はよそよそしいものになってしまっていたのであった・・・。








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