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【 2 】




「記憶喪失だ!?」

リンが、いつもよりも大きな声を出して驚いた声を出す。

「ああ・・・・・間違いないだろう。千尋は、頭を打ったショックで記憶が欠落してしまったんだ・・・いや、奥に閉じ込められてしまったといったほうがいいだろう。」

「そんな!!じゃぁ・・じゃぁ、あたし達のこと、何にも覚えて無いっていうのかよ!」

その言葉にハクは何かを考えるような面持ちで「そうだ」と返事を返す。

「そんな・・・・・・・な・・・なんか治す方法はないのかよ!」

「・・・・わからない。治るかもしれないし、治らないかもしれない・・そういう病気だと、湯婆婆様はいっていた。」

「んな・・・・!!」

「とにかく、リンにはすまないが千尋に一から仕事を教えてやってくれ。記憶喪失になろうとも・・ここでは働かなければ湯婆婆様に豚にされてしまうだろう・・」

そう言うと、ハクは踵を返して仕事場へと足を進める。

「・・待てよ!おま・・・お前はどうするんだよ!千に・・・忘れられたままでいいのか!?」

リンの言葉にも振り返ることなく、ハクはそのまま廊下の奥にへと姿を消して行った。

「くそ・・・」

リンの言葉だけが、その場に空しく中にういていた・・。





★-------★


「千。」

千尋は呼ばれて後ろに振り向いた。
目覚めてから分かったこと。自分は、この世界で『セン』と呼ばれているらしいこと。ここにいる間はここで働かなければならないこと。そして、自分の目の前にいる、自分よりも少し年上に見える少年―――

「あ・・ハク、様。」

この少年が、どうやら自分の失った記憶に重要な鍵を持った人物であると言うこと・・・


「2人の時は、ハクでいいよ。」

ハクと呼ばれる少年が、優しく自分に微笑みかけた。途端、千尋の心臓はドキドキと早鐘を打ち出す。

やだ!!

こんな綺麗な少年を目の前にしているのだから、という気持ちだけではない。きっと、その他の何かも含まれているであろうドキドキも千尋は感じていた。

なんだろう・・・・なんで、こんなにドキドキするの・・・?

「あの・・・・何か・・」

記憶のない今の状態からハクを見ても、どう考えても自分と話をしてくれるような身分のものではないことぐらいわかる。なのに、自分に話し掛けてきたこの人の行動が不思議でならない。

「用がなければ話し掛けてはいけないかい?」

「あ、いえ、そういうわけでは・・・・」

ボーっと外に広がる海を見ていた千尋は、再び海へと視線を戻した。

「センは・・いや、千尋は何も覚えていないのか・・・・・?本当に・・・??」

耳元で、囁かれる。千尋はビクッと体を震わせてしまうが、その悲しげな声に、胸が、痛んだ。それと同時に、頭の中も、キリキリと痛み出す。

「・・・・・・・うっ・・・・・・わ・・たし・・・・・・・痛っ・・・・」

「千尋!!!!・・・・いいよ、無理に思い出そうとしなくてもいい。覚えていなければ・・・最初から、やり直せばいいんだ。そう、最初から・・・」

最初から?何を???

その言葉を言うこともないまま、千尋は暗闇の中へと意識を手放していった・・・。






★――――★





「ほら!早くしろよぉ!!!ったく、お前は記憶なくなってもドン臭い所は変らないな!!」

「ごっごめんなさぁい!!!!!!」

ドタドタドタ!!! 大湯の中をリンと2人で掃除をする。こうしていると、なんだか昔の記憶がよみがえってくるようで、しっくりと体が馴染んできているのが千尋にも分かった。

ゴシゴシゴシ。

湯釜の中を大きなたわしで磨いている自分・・・・パっ!!と瞬間記憶がフラッシュバックした。

『この汚れ、落ちねーんだよな。だめだ!薬湯で洗うしかねぇよ!!』

「薬湯・・・・・?」

「お?なんだー??今日は薬湯必要か??」

自分が洩らした言葉にリンが反応を返す。千尋はハッとして、辺りを見回すがもう記憶は戻ってこようとはしなかった。

「あ・・ううん。なんでもないの!!!ねぇリンさん・・・聞きたいことがあるんだけど・・いい?」

忙しく走り回っているリンが、ピタッと足を止めた。

「ああ、いいぜ!これが終われば今日は終了だ!ちょっとまってな!!」

パタパタパタ・・・・リンは、『番台』に座るカエルの格好をした男に、何かを告げに言っている。記憶を失った千尋にとって、この世界は不思議だった。人間の格好をしながらも人間でないリンやハク。自分と同じ言葉を話しながらも格好は人でないカエル男たち。そして、実体を持たない湯屋に訪れる客の数々・・・・だけど、不思議と恐くはない。不思議だけど、不思議じゃない。それが、記憶を失った千尋が唯一、この世界に住んでいたんだな、と思わせる瞬間でもあった。


「千。」

またボーっとしてしまった千尋に、後ろから声を掛けられる。後ろを振り向くと、さっき自分に話し掛けた人物・・・ハクがそこにいた。

「あ、ハク・・・」

「ハク様と呼べ。無駄口を聞くんじゃない。千、自分の仕事はどうした?もう終わったのか?」

千尋はビックリせざるを得なかった。この人は本当にさっきの人と同一人物なのだろうか?口調も、雰囲気も、あの優しかった面持ちも・・・すべて違う。

「あ・あの・・・・っ・・・」

千尋は少なからずもショックを受けてしまった。記憶を失ってから始めてみる仕事中のハク。いきなりハク様と呼べとは・・・さっきの人は誰なんですか?と思わず口にしそうになるが、それさえも恐怖で口には出来ない。そうこうしているうちに、気がつけばリンが自分の横に立っていた。

「ハク様、あたしと千は仕事終わったんだよ。横から変なちょっかいかけるのは止めてくれないかい?」

「私は千に仕事の経緯を聞いたまでだ。邪まな想像をするのは止めろ。仕事が終わったのなら、いい。今日はゆっくり休め。」

ハクはそう言い残すと、他の持場を担当する従業員の元へ姿を消して行った。


「っかー!!ヤナ奴っ!なぁ、千、あいつな・・・千!?千、どうしたんだよぉ!」

「う・・・・・だ、大丈夫だよ、リンさん。ねぇ、リンさん・・・・」

その場にうずくまりながら千尋はリンに問い掛けた。

「あのハクって人・・・・ここに、2人いる・・の?」

「あんなの2人もいたらたまったもんじゃねーよ!・・て、ん??あたし、これ前にも言ったような・・・・」

「そう・・ね・・・・私、前にも聞いたよね・・・その時は、女部屋で・・リンさんに水干を選んでもらう時で・・・」

アタマが、痛い・・・

「千!?お前、記憶が・・・・!!」

「あ・・・・痛いっ・・・・!!!」

キリキリキリ・・・アタマを痛みで締め付けられる。まるで、何かを開放するのを縛り付けられているように。

「千・・・・へ、平気かっ!!」

「あ、うん・・・大丈・・・夫!平気!」

ガバっと千尋は立ち上がり、痛みに耐えた顔でリンにニッコリ笑いを返す。

「お前・・・平気じゃ・・・」

「平気!平気よ!それよりも、お仕事終わったならお部屋いって話そう!ね、リンさん!」

「あ、あぁ・・まぁお前が平気って言うなら何もいわねーけどよ・・・」

渋々言うリンを先頭に、千尋とリンは元居た女部屋へと足を速めるのであった。そして、千尋にはある記憶がよみがえりつつあった。ある魔女との秘密の契約が・・・








もうコメントなし・・シリアスになっちゃった・・かな?(汗)



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