(3)
「はぁ・・・・・」


とぼとぼと亀にでもなったように、ビーデルは歩みも遅く歩いていた。


今日は考える事がありすぎて、ジェットフライヤーも使えない。運転を誤って墜落などしたら、それこそ『考え』る所ではなくなってしまう。


『やだあんた、全然気がついてなかったの!?』


ふ、とイレーザの声を思い出す。

先々週あたりの事だったと思う――――自分でも気付いていない、気付きたくなかった恋心を、イレーザがからかうように問い掛けてきたのだ。悟飯が好きなんでしょ、と。


『え!?』


驚いた。自分ではそんなつもりは無かったつもりだったのに。

ただ、ドキドキが日増しに大きくなっていっただけだった、のに。


『バカね。それ、好きって証拠よ?』

『イタ!』


気持ちを素直に伝えると、まるで自分よりも年上のようにパチンとウィンクをして、ゴツンとおでこをゲンコツされた。

一人っ子の自分にとっては、昔から学校の一緒だったイレーザとは幼馴染であり、経験が自分よりも幾場か豊富な彼女は頼れる存在でもあったのだ。


『・・避けてちゃ、ダメじゃん。ビーデル?』


諭すようにそう言われる。


『・・・うん。』


こういう時のイレーザには、何だか自分も素直になれる。


『頑張るんだよ、協力するから!』

『うん・・・・ありがと。』


―――それから。イレーザがいつも教室でビーデルを呼び、慌ててビーデルがそれを止めて逃げ帰る日々が続いていたのだった。


イレーザの『協力』の気持ちは大きすぎるほど伝わっている。


でも、


「そうはいっても・・・」


はぁ、とビーデルは今日何度目かの溜息をついた。


そうは言っても、いきなり思考と言動は結びつかないのが人間で。


『帰る!』


今日もそういってクラスを飛び出してしまったし。


つまるところ、悟飯と一緒に帰ろうといって一緒に帰っても、いざ二人になると話す事が見つからない気がして面と向かうのが怖いのだ。


それに。


『向こう』


は。


自分を、これっぽっちもそう言う対象に思ってないじゃないか。


現に、ブウ戦のあと、仲間にからかわれて何度も違う、と言っている彼を見かけている。


「もーいや・・・・」


そんな中で、どうしろというのか。なけなしの勇気を振り絞ってアプローチした所で、のれんに腕押し、ぬかに釘――――――果ては、そんな物を通り越してただの迷惑になってしまうんじゃないか。


『友達』という関係ですら。


無くしてしまったとしたら・・・・・・・・・


「辛すぎ・・・・・」


はぁ・・・。


溜息が止まらない。どうにもならない。


色んな事が頭をグルグルグルグルと回って――――いた。


だから


気付かな、かった。


「あ、信ご・・」


赤だ。


そう思った時にはもう、遅かった。


ビーーーーーーーーーーー!!!!!!


「きゃ・・・・・・!!!!!!!!!」


夕闇の道路を照らそうと点灯されたバイクの光だけが、目の前を包み込んでいった。


「あぶないっ!!!!!!!」


・・・・・あ・・・・・・・・・・・・?


光の中に悟飯の声が聞こえたような気が、した。


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