<あいくるしい>

-5-





「っはぁ・・・・・・・・!!」


パサッと見知らぬ高原に降りた先、ビーデルは肩で息をして呼吸を整えた。


なにが、一体、どうして。

もう訳がわからない。

何で、悟飯はこんなに怒っているのだろうか。


自分が理不尽なことを言ったから?

呆れるような事ばかり言ったから?



それなら、ほっとけばいいじゃないか・・・・・・



「ビーデルさん。」


硬い声が、上から聞こえる。


「・・・っ・・」


その声が聞こえないかのように、膝の上に突っ伏した。


「ビーデルさん。」


・・・くしゃ。


「・・・っ・・」


くしゃ、と。


隣に座った悟飯の指が、自分の髪の毛をすくっていく。


・・・・ずるい。


なんて、ずるいんだろう。


どうして、ギュッと決意した気持ちをまた乱そうとするのだろうか。


これじゃあ、また――――嫌な言葉がこぼれてしまうではないか。


「・・・もう、いいよ、悟飯くん」


声が、さっき以上に震える。

と。ピクリ、と自分の髪を撫でる悟飯の指先が、止まる。


「・・どう言う意味ですか?」

「・・っ・・」


ドキ、とした。


もう、怒っていないのかと思っていたら―――――そんな事はなかった。

今、自分に向かって出された声色は、不機嫌な時のそのものだった。


どう言う意味、と。

それを自分に言わせるのだろうか。


「僕と・・・別れるってことですか。」

「・・っ・・・」

「僕が・・・・・嫌いになりましたか。」


・・・ちがっ・・・・!!


悟飯の言葉に、ガバッと顔を上げる。


嫌いになったのは、自分じゃなくて悟飯くんじゃ――――・・・!!


そう言おうとして、口を開きかけた。

でも。


「あ・・・・・・」


怖いぐらいの、悟飯の真剣な面持ちに。


「ち、ちが・・・」


フルフルと首を横に振るしか出来ない。


「じゃあなんで」


ガサ。


膝を抱える自分を押し倒すような感じで悟飯が近付いた。


「・・・・っ・・!!!」


転がってしまった身体を左に引こうとすれば、グッとそれを拒まれる。


「ビーデルさん。逃げないで・・・」

「あ・・・・・っ・・」


その言葉に、ドキンとした。

悟飯が、泣いているかと思うくらい切ない声だった。


「逃げないで・・・教えて下さい・・」


傾きかけた陽が悟飯の後ろからさして、その表情は読めない。


胸が、痛い。

自分が傷ついた時よりも、もっともっと胸が痛い。

好きな人に、そんな声を出させた自分が――――――


「・・嫌いになったのはご・・悟飯くんのほうでしょ・・」


・・わたしの事。


流れる涙を隠すように、瞳の上に手の平をかぶせてそう言った。


「なに・・・言ってるんですか・・・」


震える声を出した悟飯の顔を見ようとそっと指に隙間を作ったけれど、涙で溢れてその表情は
水の世界に溶けて、いた。





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