[ CAN YOU CELEBRATE ? ] =2= |
『今度―――会わせに来なさい。』 思い出すのは、自分の、実の、父親の――――声。 「マジかよ・・・・・・・・・」 そりゃ、久美子に対しての気持ちは半端なものじゃない。 だから、ついこの間も――付き合い始めて日も経たない間に、自分の所有物、という証の――指輪を。 「喜んでたよなぁー・・」 ベッドの中で渡したのだ。 でも、まさか。つい、ほんの軽い気持ちで実家に帰ったとき、ついポロっと洩らしてしまった一言に、 こんなおまけがついてくるなんて。 ただ、大事な女はいる、と、すれ違い様に言っただけなのに、まさか、会わせろ――なんて。 「どうすっかな・・・」 ふぅ、と溜息が知らずに出てしまう。 別に、親に紹介するのが嫌なわけではない。そういう、きちんとした関係になるのが嫌なわけでもない。 自分は、男だから。色んな覚悟も、決められる。 でも―― あいつは・・・・・・腕っぷしが強くても女だし・・・・。やっぱ、な・・・・・・。 親に一度は会ったことがあるとはいえ、実際にそういう関係だと告げにいったら久美子の気持ちが どんどん消極的になるんじゃないか・・・とか。 自分はかなり真剣だけど、もしかして久美子の方はそこまで真剣じゃなかったら・・・どうしよう、とか・・。 久美子を信じている。好きなんて言葉をいくら言っても収まりきらないくらい――愛している。 でも、やっぱり。 いざとなると。 不安で、胸が。 「はー・・・・・情けねぇ・・・・」 さらっと久美子にその事をいえないくらい――自分が子供なんだと。 今、この瞬間、まざまざと分かってしまって――・・ 慎の口からは自分への情けない溜息しか出てこないのであった・・・・。 そして。 「おせぇ・・・・・・・・・・・・」 学校で自分の考えに打ちのめされて、家路に着いてから早2時間。 『夕食を作りに行く』 と久美子が言ってからも、早2時間。 時計は、7時を回っている――が。未だ久美子はドアをくぐってはこない。 「まさか・・・・・・」 来る途中に、事故にでもあったんじゃ・・・・!? そう考えると、いても立ってもいられない。そんな事はあるはずが無いと思っていても―― クマの、親父のように。人生、何が起こるか分からない。 「・・・・・・・・っ!」 慎はそこら辺に放り上げてあった財布と携帯を掴み上げると、急いで靴をはいて 玄関の扉を、開けた―――と思ったら。 「おわっ・・・!」 いつの間にか扉が自動ドアに―――ではなく。 いきなり開いたドアの、目の前には。 「よ・・よっ!悪い、遅くなっちまった!」 シュタっと右手を上げて、ニッコリと笑う久美子の姿。 「・・・・・はぁ・・・」 ホッとして、一気に体の力が抜けていってしまう。 んだよ・・・・・遅くなるなら・・・・・!! 「お前、連絡ぐらいしろっつーの・・!」 ググ、っと久美子を部屋の中に半ば無理やり押し入れて、 久美子の背中越しに軽く文句をぶつけていく。 いつもだったら、こんな言葉に久美子は動揺するはずもないから。 だから、言ったこの言葉に―― 「あ・・・・あぁ、こんな遅くなると思ってなかったから・・わ、悪いな!」 声こそ裏返りはしなかったものの、背中越しからでも分かるほど、久美子の纏う雰囲気が 自分の言葉で動揺しているのが分かる。 「・・・・・・・・・・・?」 ・・・・なんだ?なんか・・・・・なんか嫌な感じだな・・・・。 パタン、と扉を閉めて、鍵をかけて。そのまま、2人で部屋の中に入り込む。 まだ、2人の顔は一度も向かい合ってない、まま。 シンと静まり返る、部屋の中。なんだか、いつもと空気が違うように感じるのは――自分が。 俺が、緊張してっからか・・・・・・・・・? さっき感じた嫌な感じ。そして、今のこの緊張感。なんだか、この二つの部分は――恋人同士の間に訪れる、何かに似ているような。 いやでも・・・・・俺はそういう事を言うわけじゃねえし・・・久美子だって・・・まさか、な。 フルフル、と自分のおかしな考えを一掃するかのように、慎は顔を上げると、一言、こう切り出したのであった。 「なぁ・・・」 「え!?」 「?・・・・俺、腹減った。なんか作ってくれんだろ?」 自分の腹も満たされれば心だって。落ち着いて、言える筈。 だから、とりあえず。 「あ・・あぁ。そうだな。そうだったよな・・・」 ・・・・・・・・? 久美子の様子に首を傾げつつも、その場は任せる事にして、部屋の隅にあるベッドに 腰をかけ――出来上がるのを待つ事にした。 そして、数十分後、出来上がった料理は――― 「・・・・・・・・・なんか、いつもより上手いじゃん。」 「・・・・ん。まあな。」 「・・・・ふーん・・・・?」 自分の言った言葉に嘘はない。本当に、いつもよりも格段に上手く出来上がっている料理。 でも。慎は、その意図に気付くはずもないまま――― 二人は、食事を始めたのであった。 『今まで・・・ありがとうな。』 この言葉が、食事の後に慎の耳に入ろうなんて。 「あ・・美味い。」 初めての、上手い手料理の美味さに気を惹かれてしまった慎は。 そんなこと思いつくはずも、なかったので、あった。 Back to 1. Go to 3. |