[ CAN YOU CELEBRATE ? ]
=3=

「連絡しろっつーの・・!」


ドキ!


背中越しに、そう言われると心臓が飛び跳ねるようだった。


連絡なんて、出来るわけねえじゃねえか・・・・!


慎が廊下を去っていってから、久美子は。少しの間呆然として―――自然に。


本当に自然に、ポロポロと涙が零れてしまってきていたのだ。


「・・わ、悪いな!」


動揺しながらもいった、この言葉。


こ・・声、普通だよな?おかしくなってねえよな?


体こそ動揺を表さなかったものの、なんだか今の一言で空気が一変してしまった。


や・・やべ!あたしが動揺してどうするんだ!!普通に、普通に・・その時までは、
何も気付いてないように振舞わないと・・・!


「なぁ・・」


ええええ!?もうか!?


「え!?」


「・・なんか作ってくれんだろ?」


・・・・・あ。そっか・・・・


「あ・・あぁ。そうだったな・・」


そうだよ、そう。あたしは、まずここに夕飯を作りに来て、それからあいつの言葉を聞く・・・っていう予定を立ててたじゃねえか!


夕飯。


2人で食べる、夕食。


それも―――・・・きっと、最後なのだろうと思ったから。


密かに、今まで練習してきた料理を作ろうと、食材を買ってきていた。


だからこそ、遅くなった。慎のために作れる――最後の、料理だから。


ハッと気付くと、慎はすでに自分の定位置に向かって歩いていた。


ガサ・・・


自分が買ってきた買い物袋の中身を覗く。鶏肉に、青野菜に――


ウルっ。


や、やべやべ!!!


思い入れを強く入れすぎて買ってしまった為、再び涙が出そうになる。


最後だし・・・・・・・久美子!頑張るぞ!ファイト、オー!


自分で自分を奮立たせて。


久美子は、今までの中で一番腕を振るった料理を―――作りあげたのであった。




そして。




「・・・・いつもより、上手いじゃん。」


出来上がった料理を覗き見して、慎がポツリと呟いた。


当たり前だろ!お前の為に、お前の為に―――・・・・!!!!


――最後、だから・・・。


いつもなら即答で、「そうだろ!」 ――なんて、威張ったりした。


でも、そんな力も湧いてきはしない。


「・・・・ん。まあな。」


ニコ、と力ない声で返事を返す。


「・・・ふーん?」


怪しむような、声に再び久美子の心臓はドキリとはねる。


「・・・美味い。」


その言葉に、心が舞い上がる。


でも同時に、この後のことを考えると、心が急激にしぼんでいく。


慎の一挙一動に、心は膨らんだり、しぼんだり。


まだ、自分はこんなに好きなのに。好きで好きで、しょうがないのに。


「・・・・・・っ」


目の前に、手を伸ばせばすぐにでも捕まえられるほど傍にいるのに――・・


「・・・・・・ん?」


「えっ!?」


「ジッと見て、なんだよ?」


「あ・・・・・・・」


フフ、と笑う、慎の顔。普段あまり見られない、その顔は――きっと、恋人の特権。


その、笑顔から。きっと、もうすぐ――告げられるのかと思うと。


それが分かっていて、告げられるのかと思うと。


・・・・・・・・・っだめだ・・・・!!!


ギュ、と心臓が苦しくなる。


このまま言われるのを、待つよりは―――言ってしまった、方が。


そうだよな・・・・・自分から言った方が・・きっと、話は早い。


そのほうが、慎の――負担にならなくてすむ。


だから。


久美子は。


よ、よしっ・・・・・言うぞ。


意を決して―――。


「なぁ、慎。」


「・・・ん?」


「あたしさ・・・初めてだったんだ。こう・・好きなお・・男に食事作ったり、なんかしたりとか・・その・・するの。」


「・・・・・・・・は?」


「だから、その・・悪かったな、男の気持ちとか良くわかんねぇし・・お前にしちゃ迷惑な事とか一杯あったよな。」


「え、おい・・・・・」


「ほら、あたしピカピカのかたぎでもねえし!普通の家庭に育ったお前にしたら・・そりゃな!うん、分かってるから!何も言うなよ!」


「おま、何言って・・・・」


所々に入ってくる、慎の不思議な相槌を無視して、久美子は話を進めていく。


そして。


最後の、言葉を。


「だから・・・その・・・今まで、ありがとうな。あたし、お前と関係が持てて、幸せだった。」



・・・・・言った―――。



あー・・・終わった、なぁ・・。


カタン、と、久美子の心から、何かが抜け落ちたので、あった。



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