[初恋・行進曲]

*3*


大体さ。なんで、お前らはあたしの初恋話なんて聞きたがってるわけ?

そんな、あたしの話なんて聞いたって大して面白くねぇぞ!



――――なんて。



「ぅ・・・・・・・・。」


今、この目の前で声を大にして言えれば、どんなにいいことか。


「おいー、やんくみ〜〜〜早くしろよぉ・・・」


と南。


「お前、あれから15分も立ってんだぞ、15分っ!!!!」


とオーバーリアクションをしながら言う野田に。


「まじ、勘弁・・・・・・」


項垂れながら言う内山だろ。


で、クマは・・・・・・・・


「・・・・・・・(もぐもぐ)。」


・・・お前いつまでパン食ってんだよ・・・ていうか何個目だそれ。


チラ、チラ、と俯いた顔から目を覗かせて、回りを見回して―――最後に。



パチリ。



うぁっ・・・・・・・・!


「・・・・・・・・。」


特に、意見は言わない――――沢田。いや・・・慎。


慎の眼光が一番鋭くて、一番真剣だから―――・・・


い、い、言えるわけねぇだろっ・・・・本当のことなんて・・・!


だって。


あたしの、初恋は――――・・・・・・・・・・


「・・・・・・・はぁ。」


ドキン!


目の前の目線を横に移してため息をつく慎に、心臓が跳ねる。


そう。


久美子の、初恋。


それは。


昔の学校時代のクラスメイトだとか。


大学で時いつもすれ違っていた違う大学の生徒だとか。


そういうのじゃ、なくて。


ましてや。


・・・・・・・篠原さん――・・・・


でもなくて。


この。


目の前に、いる。


ちょうど今、ドキンと心臓が高鳴った―――


相手。


自分の生徒でもあり、今の恋人でもある――――


『沢田 慎』


その人なのだから。


確かに、憧れのような感情を持ったときもあった。


一番いい例が――――今も思った、『篠原』さんで。


あの人に会う時は、いつだってキラキラキラキラしていた。


――でも。


慎と・・・付き合うようになってからは・・・


・・・そんな余裕、あるわけねぇよっ・・・。


知らなかった、こんなに余裕がなくなるなんて。


分からなかった、本当に恋したらどうなるかなんて。


切ない夜も一杯あるし、会いたくてしょうがなくなって、電話だけじゃ足りなくなるなんて―――


初めて、知った。




――――――なんて。



それを。


・・・こ、こ、こんなこいつらがいる前で・・・・っ!ましてや、本人がいる前で、ンなこと恥かしくて言えねぇよっ・・・!


前半と後半の論点は多少ずれているが。


・・・どうあっても言えねぇ・・・。


とどのつまり―――そういうことなので、あった。



そんな風に一人心の中でジタバタし始めてから、はや20分が過ぎ。


でも。だからと言って、何も考えなしに黙っていた訳じゃない。


ちゃんと考えがあっての行動なのだ。


・・・・・もうちょっと、もうちょっと・・。


周りの――というよりも、目の前の重圧から何とか視線を外して逃れながら黙っていた、この、20分間。


後、もう少しすれば――――・・・・・・!!!


そう思って黙っていたこの20分間。


来い、来い・・・・・・!!


――――なんて、密かに静かに思っていれば――・・・・案の定。


「「「「やんくみ〜〜〜!!!!!!」」」」


4人の、すがるように情けない声が沈黙に沈んだ教室に、一気に炸裂した。


「も〜〜〜!!!!早く言ってよ!じゃないと・・・遅れちゃうだろ、合コンに!!!!!」


・・・・・・・ぃよしっ来たぁ!!


「「そうだよー!!!」」


「・・・・・・・(モグモグ)!」


そう。考えと言うのは、ただ単に。


4人の痺れが切れるのを―――誘っていただけなのだったが。


―――・・かかったぁ!!!!!!


予定通りというか何というか、無駄だとわかっているのかはわからない、合コンを今日もこのするらしく。


コホン・・・


久美子は一つ咳をして、自分の動揺を4人――ではなく、目の前の相手に悟られないように冷静に、
落ち着きながら、一言ボソリと呟いたのであった。


・・・・・・・どうか上手くいきますように!


そう、コッソリと胸の中で祈りながら。


「そうか、合コンか・・え、えー・・・じゃあな。えっと・・・その話はまた今度にしないか?」


「「「「ええー!!!!」」」


「・・・・・・・・・・・・・・。」


うぁっ・・・・声でかいんだよお前たち!!!!!!


その男4人の雄叫びに、思わず耳をふさいでしまう。


頼むっ!お願いっ!上手くいって!!!!!


い、言うぞ!言うぞあの言葉を!久美子がんばれ!!!


「ほら!ほらほら!お前たちも、あたしの初恋話なんて聞いても大して面白くもねぇぞ!大体、そんな話
聞いてる暇があったら可愛い子とお話しできる時間が一杯できるだろうが!」


4人に負けじと、大きな声で後ろに向かって一気にまくし立てる。


「えー・・・・・・」


「まあそりゃそうだけど・・・・」


自分の言葉に、4人は不満ながらもやや納得しかけているご様子で。


・・・・・うしっ!もう一息!頑張れ久美子!!!!!!


ファイト、オっ!!


そう、もう一度心の中でコッソリと気合を入れなおすと。


「な、南!お前、最近ますますかっこよくなったしな〜〜?」


ガシ!


言いながら、無理やり南の首に腕を回して、力強く抱きしめ――もとい。


「ぅっ・・・・い、いてぇってヤンク・・・・!!!」


・・・・・ちょっとだけ、目で脅す。


「あっ・・そ、そうだよな〜〜〜!!ヤッパ分かる?俺、最近自分でもそう思うのよ!」


「そうだよな、そうだよな〜〜〜v」


ニッコリと笑いながらそう言えば、ガタっと音を立てて、南は教室を走って逃げ去っていった。


・・・・・よし。次。


「なぁ、内山!お前も母親思いな所は女の子ぐっと来るぞ〜〜!今日は合コン成功するだろ!」


グイ。


「ぃ、いてて・・・なんだよいきなりヤンク・・・・・・ぅぁっ!」


「な?」


「・・・・・・・そ、そうだと思います。」


ガタガタっ・・・!


・・・・・・次・・・・っと。


クルっと振り向いて、次のターゲットに腕をまわそうとする――と。


「あ!お、お、俺も早く合コン行きたいなぁ〜〜〜vvv」


ガタガタガタ!


敵前、逃亡。


・・・野田は白旗降参か。よし。


これで、あとは――――


チラ・・・・・・・・


最後の捕獲者・クマへと目をチラリと向ければ。


「・・・・・・・・・・(もぐもぐもぐ)!!」


物凄い勢いで、首を立てに振って降参の意思を自分に告げる、クマの姿が目に入る。


・・・・・の、喉詰るなよ・・・ていうかお前・・・それ何個目?


ドシドシ・・・ガターン!


ま、まぁいいか・・・・・・・よし。


そして。


一番最後に残るは――・・・・・・・・・・・・ラストボス。



じゃ、なくて。



一番、手ごわい、相手――――――『沢田 慎』。


既に4人は教室から去った後で――後は。


慎、一人のみなんだけれど。


コイツが、一番手ごわい。


だって。


他の4人とは、当然違う――・・・・・圧倒的に。


その雰囲気もそうだけど、その・・・・。


・・・・あ、あ、あたしと、その・・・そういう関係・・だしっ・・。


まさか、他の4人のように力ずくでこの話を無かった事にさせるなんて、できるわけ無いし。


チラ・・


立ったまま、目線を慎のほうに向ければ――――・・・


「・・・・・・・・・・・・。」


ぅぁっ・・・・!!!!!!


あからさまに、不機嫌さを周りに纏わりつかせてる、慎の姿が目に入る。


・・・ど、どうしようっ・・・・!


蛇に睨まれた蛙、というか。ライオンに捕まれそうな兎、というか。


とにかく――そういう形容がピッタリとくるほど、久美子はピキっとその場に固まって動けない。


けど。


今、この状態でいるのも危険すぎる。


――から。


「あ・・・・・・じゃ、じゃあお前も早く帰れよっ!じゃ・・・・!!」


そう言って、なんとか自分から逃げようとした―――が。


ガタっ。


・・・ぅひゃっ!



そんな考えは甘かったらしく。


静かに立ち上がった慎が―――なにやら目の前で二つの机と椅子を対面させるように並べ替えると。


「・・・・・・座れ。」


怒りのこもったような――低い声で。


「・・・・・・・・・・ふぇ・・」


そう、言ったので、あった――――。




・・・・・・・どうしよぅっ・・・!!!!!




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